12 始まりの遺跡
アレッサ訪問から2週間後、ファラーハとその配下、アレッサの商会関係者、帝国商人たち、総勢50人がパルミラにやって来た。
ワザと人数を多くしたのは、こちらに大人数を捌ききれる能力があるかどうかを確認するためだろう。本当に食えないオバちゃんだ。
マスターのケトルに代わって、ホテル部門の支配人のケトラも気合いが入る。
「もっとしゃっきりと!!笑顔で接客だニャ!!」
ちょっと前まで、暑さで活動停止になっていたケットシーとは思えない。
最初に案内したのは地下のダンジョンだ。護衛として雇われた冒険者10名が挑戦する。その間にエントランスなんかの紹介をして回った。かなり高級な調度品も用意している。これらはケトルがダンジョンポイントで購入した物なので、こちらの出費はゼロだけどね。
「砂漠にこんな快適な場所があるなんて、驚きだ」
「調度品なんかも、帝国の最高級品と遜色ない」
「スタッフの教育も行き届いている」
「ああ、これなら皇帝陛下が、お泊りになってもいいレベルだ」
上々の滑り出しだ。
しばらくして、ダンジョンに挑戦していた冒険者が帰って来た。雇い主に報告している。
「ドロップアイテムも質がいいぞ」
「しばらくここに滞在してもいいくらいだ」
「暑くないし、それに臭くもない。ギルドに報告すれば、優良ダンジョンと認定されるだろう」
抜け目のない帝国商人が、早速、商談を持ち掛けて来た。
「商業ギルドや冒険者ギルドを建設してみてはどうでしょうか?」
「できればそうしたいですね。ですが、先立つものがありませんので」
「もちろん、ご融資はさせてもらいますよ。今後とも女王陛下とは仲良くさていただきたいですからな」
言わなくても分かると思うが、この国にはお金がない。だから今回の視察の目標の一つに、融資を引き出すことも含まれている。後は、どれくらいの条件を引き出せるか、だけどね。
あっと言う間に夕食時となったので、自慢の料理を振る舞う。皆、初めて食べるサンドクラブやサンドサーペントの料理に驚愕していた。
ファラーハが言う。
「アレッサで食べたのは、単純な料理だったけど、今回はかなり凝った料理ね。合格点をあげるわ。でも、まだまだ美味しくできそうね。私のお抱えの料理人を派遣してあげるわね」
ファラーハは、上から目線で私に言ってきた。
自分が私に意見ができて、頭の上がらない存在だと配下の者や帝国商人に印象付けるためだろう。このオバちゃんは「良き理解者ポジション」だけでなく、「私の保護者ポジション」まで要求しているのか?
まあ、乗ってあげるわよ。
「お褒めいただき、ありがとうございます。料理人はすぐにでも派遣してもらいたいと思います。帝国産の食材と合わせても、いいかもしれませんしね」
帝国商人たちが色めき立つ。自分たちの商品を売り込むチャンスだと思ったからだ。そうなると、ファラーハにも、すり寄る奴が出てくるだろう。
ちょっとサービスし過ぎかな?
これは貸しだからね。分かってるよね?
そしてデザートに突入する。
かき氷に加えて、アイスクリームも出した。
「かき氷はアレッサでも食べたが、これは何だ?」
「甘く滑らかな舌触り、舌の上でとろける・・・旨すぎる」
「皇帝陛下に献上すれば、大変なことになるぞ。ゼノビア様、製法を教えていただくことはできませんか?」
「そうですね・・・そこは応相談ということで。こちらも開発までには、多くの時間と労力を払いましたしね」
そんなには払っていない。ミルクは普通に採れるし、砂糖も卵もある。後は冷やすだけだし。
ファラーハは仕切りに部下に何かを指示していた。類似品を作るつもりだろう。でも、そんなに簡単には作れない。このふんわり感はバルバラの超絶風魔法があってこそだ。
やれるものなら、やってみてよね。
食事会は大成功だった。ファラーハが言う。
「大満足よ。ここに帝国産のワインがあれば言うことないけどね。輸送が難しいし、それは無理だから、こんなのを用意したのよ」
ファラーハが自ら、フローズンカクテルを作って見せた。バルバラ程細かい氷は作れていないけど、それは色合いの美しさでカバーしている。帝国商人たちも大絶賛している。
私から主役の座を奪うつもりか?
一瞬、怒鳴りそうになったが、冷静になって考えてみると、これもメッセージが込められていると分かった。
まずは、単純に国賓級をもてなすなら、お酒にも力を入れるべきだという忠告だ。これは有難く受け取っておこう。時間がなくて、そこまで出来なかったからね。次にカクテルが流行れば、ウチの主力商品である砂糖が売れるぞと、教えてくれている。かき氷やカクテルをちまちま売るよりは、ドーンと砂糖を売ったほうが儲かるからね。
そして一番は、顔を潰された形になった私の態度を見るためだ。本当に嫌らしい。でも乗らないよ。
「そうか!!そこまで気が回りませんでした。早速、検討させていただきます」
「よかったわ。何かあったら何でも相談してね。力になるから」
次の日、大満足で視察団は帰って行った。何人かの商人は連泊することになったけどね。帝国でも指折りのインペリアル商会の関係者は、ウォーターベッドをいたく気に入り、家一軒が建つくらいの金額で買ってくれた。開発者のロクサーヌが言う。
「あのベッドは魔石代がかなり掛かるッスけどね。温度調整しなくても寝心地は良いッスから、温度調整機能は使わないつもりッスね。開発者としては、温度調整機能も使ってほしいッスけど」
ロクサーヌの気持ちも分からなくもないが、砂漠という過酷な環境でなければ必要はないしね。ダンジョン内も適温だから、そんな必要もないが、彼女の趣味には口を出さないでおこう。
それから1週間、「始まりの遺跡」の入場者は爆発的に増えた。ホテルに泊まる者は、まだ少ないけど、単価が高いので十分にやっていけるレベルだ。それにレストランは営業しているからね。みんなと共に視察に訪れたところで、ケトルにお礼を言われた。
「本当にありがとうニャ!!実は優秀新人ダンジョンマスターとして表彰を受けたニャ」
「よかったわね。これもみんなのお陰よ。特にケトラにはお礼を言わないとね」
何かを思いつめたようにケトルは言う。
「実は、このダンジョンはケトラの為に作ったダンジョンだニャ。ケットシー族のために危険な任務に就くケトラを何とかしたかったのニャ。これで僕も押しも押されもしない一人前のダンジョンマスターだニャ。仕事を辞めて、僕と一緒にダンジョンを経営してみないかニャ?これからずっと・・・」
おいおい!!いきなりプロポーズかよ!?
ケトラはというと赤面し、なんとケトルをぶん殴った。必殺技の猫パンチだ。
「一人前って、全部ティサやみんなのお陰だニャ!!ケトルは大したことしてないし、このまま調子に乗ったら、また失敗するニャ。それに急にプロポーズされても困るニャ!!もっと雰囲気のある所で・・・まあ、偶にデートくらいはしてあげるニャ・・・」
「ケトラ・・・」
側にケトラが居ないとケトルは駄目になるよね・・・
でもケトラも、嬉しいはずなのにね。
私はケトラを抱きしめて、力強くモフモフした。
「ケトラもツンデレさんだね」
「や、やめるニャ!!痛いニャ!!」
まだまだ、問題だらけのヴィーステ王国だけど、このメンバーが居ればきっと乗り越えられるよね!!
★★★
~ファラーハ視点~
ゼノビアちゃん、本当に驚いたわ。ちょっと意地悪をしたけど、全部跳ね返されちゃったしね。
でも本当に人が変わったようだ。少し前ならあんなことされたら、怒鳴り散らしたと思うんだけど・・・
そんなことを思っていたら、チャグムが報告に来た。
「ゼノビアの嬢ちゃんもやりますねえ。それに小麦のことで、吹っかけて来た帝国商人ですが、今度は手の平を返して、『ここはひとつ、お安くしておきますよ』なんて言ってきましたからね」
「そんなものよ。私たちに利益があるうちは、仲良くすることにしましょう。切るなら、いつでも切れるしね」
「ところで、この後はまっすぐに帰りますか?」
「そうね。久しぶりにクレオラを尋ねてみようかしらね」
私はクレオラが、軟禁されている港町トリスタまで足を運ぶことにした。政敵であり、母親でもあるクレオラの話をちょっと聞いてみたくなったからだ。それにトリスタのことも気になるしね。
ゼノビアちゃん、上手くいっているようだけど、まだまだこれからよ。オバちゃんは楽しく見させてもらうわね。
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次回から第二章です。まだまだ問題は山積みですが、きっとティサリアは試練を乗り越えていくでしょう。