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11 ハンデル部族

 万全の準備を整え、ハンデル部族の本拠地アレッサに向かう。アレッサはヴィーステ王国では、王都パルミラに次ぐオアシスで、パルミラの3分の2の大きさだ。多くの商人が行き交い、パルミラよりも遥かに活気にあふれていた。


 連れて来たメンバーはいつものケトラ、エレンナ、バルバラ、レドラ、ロクサーヌに護衛のレッドリザードが10名、エレンナが鍛え上げた精鋭近衛兵10名、バルバラの弟子の魔導士10名の編成だ。私たちが町に入ると大歓声というか、悲鳴が上がる。

 だって、巨大なサンドクラブ3匹とサンドサーペント1匹を運んで来たからだ。


「サンドクラブだ!!それにあれはサンドサーペント・・・」

「なんて奴らだ・・・」

「一体誰なんだ?」


 予想通りの反応だ。プレゼンの時と同じ手法で、相手を驚かせるのは大事だからね。今回は、それに「私たちはこんなに強いんですよ。戦争してもいいですけど」というメッセージも暗に込められている。私は戦争大好き人間ではないが、ある程度の脅しは必要だからね。


 すぐに慌てた様子で、お供を連れた恰幅のいい40代の女性がやって来た。身なりからして、コイツがファラーハだろう。


「ゼ、ゼノビアちゃん!!一体どうしたの?来るとは聞いていたけど、これは何なの?」


 かなり驚いている。作戦の第一段階は成功だ。


「我がパルミラが食糧危機の際に多大な支援をいただいたので、そのお返しですよ。本当に()()()()()、ありがとうございました。()()()()()殿()


 もちろん皮肉だ。

 ファラーハは、驚愕の表情を浮かべている。

 


 ★★★


 サンドクラブを目の前で茹でたり、サンドサーペントの切り身やスパイス漬けを焼いたりして、市民に振る舞った。こちらも大盛況だった。


「こんな旨い物が食えるのなら、パルミラに久しぶりに行ってみようかな?」

「もしかしたら、新たなチャンスかもしれないな」

「俺は明日にでも出発するぞ」


 一頻りパフォーマンスを終えた私たちは、ファラーハが拠点にしている商会の応接室に案内された。出て来たお茶もお菓子も高級品だった。それから判断すると、ちゃんと私たちと話をする気はあるようだ。


「ゼノビアちゃんは、雰囲気が変わったわね。昔は理想論を熱く語るだけの小娘だったのにね」

「私も、多くの失敗を経験しましたからね。その節はお世話になりました」


 軽い嫌味のジャブも笑顔で受け流す。


「単刀直入に聞くわ。何が目的なの?成長したゼノビアちゃんを見て、女王の風格が出て来たと思ったわ。本当に頼もしいわ。できることは何でも協力したいのよ」


 ほう・・・今度は褒め殺し作戦できたか。

 ここで手の内をすべて晒すと、相手のペースになってしまうからね。だったらこっちにも考えがある。


「まずは私どもの小麦を適正料金で買ってもらいたいんですよね。そちらにも利があると思うんですが?」

「ウチは帝国産の小麦で間に合ってるからね。あっちのほうが安いし、質もいいしね」

「もしものときの保険ですよ。急に帝国産小麦が値上がりしても困るでしょうし」


 ファラーハは笑顔のままだが、息遣いが少し荒くなる。多分、痛いところを突かれたと思ったのだろう。こちらのリサーチで、帝国商人から小麦の価格を吊り上げられそうになっているとの情報を得ている。ファラーハが小麦を安く買い叩けていたのも、パルミラ産の小麦と帝国産の小麦を両天秤に掛けて、上手い事やってきたからだ。

 パルミラ産の小麦が入手できなくなると、帝国産小麦一択になるから、実質、帝国商人の言い値にされてしまう。


「なかなかやるわね。それくらいはしてあげるわ。偉大なる女王陛下に対する投資としてね」


 これは貸しだから、何か寄越せということか。転んでも、ただでは起きないオバちゃんだな。


「実はいい話も持ってきたんですよ。バルバラ、お願い!!」


 バルバラに指示して、目の前でかき氷を作ってもらった。

 一口食べたファラーハが言う。


「こ、これは・・・これをどうするって言うの?」

「作り方をお教えしてもいいかなって思ってます。新米の魔導士でも、2ヶ月程訓練すればできるようになりますからね。こんな小さい子でも作れるんですから」


 バルバラが文句を言い掛けたので、ケトラに口を塞いでもらった。バルバラの弟子がファラーハに説明を始めた。


「氷結魔法と風魔法の併用ね。氷結魔法はそうでもないけど、風魔法は繊細な魔力制御が必要になるわね。余程の天才でない限り、これは訓練しないと身に付かないわね」


 バルバラが得意気に言う。


「お主は分かっておるのう。お主も、なかなかの魔導士じゃな」

「これでも魔物討伐では、先陣切って戦ってるからね。こう見えて、オバちゃんは強いのよ」


 ファラーハは、それなりの魔導士だったようだ。


「サンプルとして、シロップを置いて帰りますね。もちろん無料ですよ。かき氷の製法を学びたい魔導士がいればパルミラまで来させてください。指導料はお安くしておきますよ」


「なんだか悪いわねえ。他にはないの?」


「他の商品もあるのですが、全部は持って来られませんからね。是非一度パルミラまでお越しください。世界一の体験ができるホテルをオープンしましたのでね」


「是非、行かせてもらうわ。それでだけど、懇意にしている帝国商人も連れて行ってもいいかしら?」


「もちろんです。大勢でのお越しをお待ちしております」


 商談は無事に成立した。私たちはファラーハに最大限のもてなしをされ、1泊してから、パルミラに帰還することとなった。ファラーハ自慢のホテルに泊まったけど、「始まりの遺跡」には遠く及ばない。パルミラにやって来たファラーハの驚く顔が目に浮かぶわ。


 ★★★


 ~ファラーハ視点~


 ゼノビアのあまりの変貌ぶりに、正直驚いている。この短期間で一体何があったのだろうか?

 本当に人が変わったようだ。


 そんなことを思っていると、私の右腕と言えるチャグムが報告にやって来た。


「パルミラには、商隊に偽装させた密偵を送り込みました。すぐに報告が入るでしょう。それにしてもゼノビアには驚きましたぜ。ただ、かき氷の製法を調子に乗ってペラペラ喋るようじゃ、まだまだだと思いますがねえ」


「まだまだなのはチャグム、貴方よ。これには深いメッセージが込められているわ」


 まず、かき氷を作ったあの幼女は怪物だ。いとも簡単に作って見せたけど、あんなの私だってすぐにはできない。訓練すればできるだろうけど、あの域まで達するなんて何年訓練が必要か分からない。それっぽい物は1週間もすれば作れるようにはなるだろうけど。

 それに、魔力量が計り知れない。私も多いほうだけど、比べること自体が間違っているレベルだ。


 そして、護衛に連れて来た奴らは何なの?あんなのと戦闘になったら命がいくつあっても足りない。難なくサンドサーペントを狩ったという話も、あながち嘘じゃないだろう。「そっちがその気なら、やりますよ」というメッセージに他ならない。


「それって、マジでヤバいじゃねえですか!!」

「ただ、私にかき氷の製法とシロップを融通してくれたのは、多分こういうことだと思うのよ。「今なら、族長の中で一番の理解者ポジションが空いてますよ」ってね。後は貴方次第って言われてるのよ」

「それで姉御はどうするんですかい?」

「とりあえず、パルミラに行ってからね。それにいい女は焦らすものだしね」


 仕事に戻るチャグムに指示をする。


「パルミラ視察には、小麦の件で吹っかけて来た帝国商人も呼びなさい。強欲な帝国商人にどんな対応をするか見物みものだわ」


 さあて、ゼノビアちゃん。お手並み拝見と行こうかしら。

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