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10 古代遺跡 3

 甘かった・・・

 私はポンコツなのかもしれない。


 オープンして1週間が経過するが、全く客が来ない。あんなに集客やPRを頑張ったのにである。地元の冒険者や国軍の兵士が訓練で利用しているので、それなりにダンジョンの入場者は増えたのだが、肝心のホテル事業はさっぱりだ。このままでは破綻するかもしれない。

 ケトルが言う。


「ダンジョンポイントだけを考えれば、十分に採算が取れるレベルまできたニャ。でも一生懸命に頑張ったケトラが落ち込んでいるニャ・・・何とかしてほしいニャ」


 ケトラは誰よりも頑張っていたからね。特にホテル関係の総合的なプロデュースという難しい仕事をしてくれていた。本人も忙しいけど、楽しそうに仕事をしていた。ダンジョンポイントのことだけ考えると、定期的にやって来る冒険者や兵士、それに常駐するホテルスタッフの滞在ポイントだけで、十分に採算が取れる。

 でもケトラのことを思うと、絶対に何とかしてあげたい。


 原因を分析すると、私のPR方法が悪いというよりも、ゼノビアの所為だ。

 予想以上に他部族との関係が悪化していたのだ。私が3日間徹夜して作った、魅力的な案内状を有力な族長に送ったのだけど、ほとんどが「馬鹿にするな!!」「何を今更!!頭は大丈夫か?」といった内容が、丁寧な文章で書かれた手紙が返ってくるばかりだった。


 特に西部のゴルド部族の族長は完全無視だし、南部のザルツ部族の族長なんて、宣戦布告と取られてもおかしくない手紙を送ってきた。


「我らに勝てないからといって、暗殺を企てる気だな?小賢しい馬鹿女め。兵隊を引き連れて堂々と来てみろ。受けて立ってやる」


 オブラートに包むこともなく、そのままの文面だった。


 ゼノビアの馬鹿は、何をやったんだ!!

 絶対に私の所為じゃないよね!?


 社長時代の私なら、そう怒鳴り散らしただろうが、よく考えてみると、そういった予想外のことも含めて、全て私の責任だ。それにここで、ゼノビアの所為にしたところで、何も解決しないだろうしね。


 色々と解決策を練っていたところにケトラがやって来た。


「ティサに頼みがあるニャ。これから各部族を周ってお願いをしてくるニャ・・・このままじゃ、「始まりの遺跡」が始まる前に終わってしまうニャ。あんなに一生懸命なケトルのことを思うと、何とかしてあげたいニャ。だから、その許可が欲しいニャ」


 ケトルも同じようなことを言っていたよね?


「ケトラ、心配しないで、私に考えがあるからね。ケトラの各部族を周るという意見で思い付いたけど、一人の族長だけは、会うだけは会ってくれるのよ。だから、その族長との交渉が上手くいくように、これから対策を練ろうよ」


「分かったニャ!!」


「じゃあ、みんなを集めましょう」



 ★★★


「会ってやってもいい」と言ってきたのは、東部を支配しているハンデル部族の族長ファラーハだった。ファラーハは、40代の女性で、一見すると人当たりのいいオバちゃんに見えるが、とんだ食わせ者らしい。ゼノビアの個人的な日記にも、こう書かれている。


「あのクソババアには騙された。良い人そうに見えて、利益を全部取りやがった。もうあんなババアとは付き合わない」


 それに調べてみると、王都周辺の食料危機もファラーハが一枚嚙んでいるようだった。ファラーハはユーラスタ帝国と懇意にしており、ゼノビアの海運事業が失敗すると見るや、すぐにユーラスタ帝国から小麦を買い占めた。

 ゼノビアとしても、鉱石の産地であるゴルド部族や岩塩の産地であるザルツ部族との関係が悪化しなければ、交渉の余地はあっただろうが、主力の交易品が砂糖とスパイスだけでは、安く買い叩かれて当たり前だ。王都周辺が食糧危機だという情報は掴まれていたからね。


 ここで少し、ゼノビアが属するツェンドラム部族の収入源について話そう。主力商品は自作している砂糖とスパイスだが、王都パルミラはヴィーステ王国の中央に位置しているので、西のゴルド部族の鉱石、南のザルツ部族の岩塩、東のハンデル部族が扱う帝国産の商品を扱った中間貿易でも儲けていたのだ。しかし、他部族との関係が悪化したため、中間貿易の利益はガタ落ちしているのが現状だ。


 ゼノビアの個人的な日記を読むと、他の族長たちに対する恨みつらみが書かれていた。想像だが、海千山千の族長たちにやり込められたのだろう。プライドの高いゼノビアは、それが許せず、海上貿易に多額の投資をしたのだとも推察される。

 第三者的立場の私が分析すると、族長たちもゼノビアを再起不能になるまで追い込む気はなかったのだと思う。要は自分たちの利益を最大化しようと高圧的に交渉しただけだったのだろう。ちょっとした食い違いで、ここまで関係が悪化するなんてね・・・

 まあ、同じようなことをしてしまった私が言っても説得力はないだろうけどね。


「ファラーハという奴は曲者だニャ。ティサが敵う相手じゃないニャ」


 記憶が戻るまでの私ならそうだろう。でも今は違う。こう見えて私は、小手先の交渉術には自信があるからね。

 だって大した経営能力もないのに、父から経営権を奪い取るために派閥闘争に明け暮れ、実際に経営権を奪い取ったのだから、嫌でも上手くなるよ。


 だったらなぜ、倒産寸前まで追い込んだかって?


 数学にたとえるなら、計算は正確で異常に速いけど、式が盛大に間違っている状態だ。いくら計算が正しくても正解にたどり着けるわけがない。


 バルバラが意見を言う。


「ティサ、魅了スキルは使わんほうがいいぞ」

「今回は女性だから、使うつもりはないけど、それはどうして?」

「それはじゃな・・・ティサが魔王妃となったら、ずっとこの国には居られんじゃろう?ティサのスキル頼みの交渉は、引き継いだ者にはできんからな。それに魔王様の立場に立っても、他の男に魅了スキルは使ってほしくないじゃろうし・・・」


 少し歯切れの悪い言い方だったが、私は素直に受け入れることにした。魔王様が私にメロメロなのは知っているけどね。でも直接言ってほしかったな・・・


 私が魔王様との妄想に浸っていると、ケトラが声を掛けて来た。


「ティサ!!戻ってくるニャ!!時間がないから、早く対策を練るニャ!!」


 資料を読んだかぎり、相手の強みも弱みも分かったし、相手が望んでいることも分かる。だったら負けるはずはない。だって、私はゼノビアではないし、それに主力商品が砂糖とスパイスだけってわけじゃないしね。


「ケトラ!!忘れているかもしれないけど、私は魔王軍随一の美貌と知性を持つ智将ティサリアよ!!その辺のオバちゃんに負けるわけがないじゃない!!」


 久しぶりの交渉だ。腕が鳴るよ。

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