1 プロローグ
私はサキュバス族、いえ、魔王国を代表する美少女のティサリア。絶世の美女で、国民的アイドルでもある。それに仕事もできる。何と栄えある魔王軍の四天王でもあるのだ。当然、嫉妬されたり、嫌がらせされたりはある。
というのも、私はそこまで戦闘力は高くない。その美貌と知性で四天王に選ばれたのだ。だって、魔王様は私にメロメロだからね。
魔王というのは、魔王国を統べる魔族の王で、現魔王はダークエルフのエクセリオン様。褐色の肌にエルフと同じ長い耳を持つ、かなりのイケメンだ。普通は純血の魔族以外は魔王に選ばれないのだが、その戦闘力と類稀な知性によって、魔王に選ばれた。歴代屈指の名君としても名高い方だ。
私は魔王様との謁見を前に、鏡の前で服装を整える。
魔法で髪の毛をピンク色にし、更に胸元を強調したドレスに身を包む。得意の幻影魔法で胸を大きくし、バレないようにゼリースライムで作られた胸パットを仕込む。私の唯一の欠点である胸の小ささを隠すためだ。
「よし!!完璧!!」
満を持して謁見の間に入場する。
「魔王軍四天王ティサリア!!これより、砂漠の国ヴィーステ王国への工作活動に出発致します!!」
魔王様が言う。
「ティサリアよ。楽にしてよい」
「はい」
魔王様は声も渋い。
玉座から立ち上がり、私の前まで来てくれた。
「ティサ、君に危険なことはしてほしくないんだ。考え直してくれないか?」
「魔王様・・・私を気遣っていただいて感謝します。ですが、必ずや成果を上げて見せますので、ご安心を」
私はここぞとばかりにゼリースライムでできた胸パットを魔王様の右腕に擦り付ける。謁見の間にいた女性陣から強烈な殺気が飛んでくる。私がいない間に魔王様を取られたら、たまったもんじゃないからね。私と魔王様の仲をアピールしているのだ。
「ティサリアよ!!ここは公式の場であるぞ。言動には注意せよ!!」
注意してきたのは、竜人族で同じく四天王の一人、マドラームだ。戦闘力が高く、戦闘時はドラゴンの姿になることもできる。多分、私が魔王様に色目を使ったことで嫉妬しているのだろう。モテる女は辛い。
「マドラームよ!!そこまで厳しく言わんでもよいのではないか?ティサリアと離れるのが寂しいのであろう?それは妾も同じじゃがな」
間に入ってくれたのは、同じく四天王の一人、緑の髪に緑のローブを纏った幼女バルバラだ。実年齢は300歳を超えているようだが、ずっと10歳前後の幼女のままだ。彼女は「暴風の魔女」と呼ばれている魔法の天才で、私を孫のように可愛がってくれる。幼女に愛でられるなんて、変な感覚だけどね。
「名残惜しいが、気を付けてな。困ったことがあったら、すぐに言え」
「大丈夫です。あっという間に世界を征服してご覧に入れます」
謁見を終え、私は颯爽と謁見の間から退出した。
★★★
ティサリアが去った謁見の間、魔王と四天王であるマドラームとバルバラが、困り顔で話をしている。
魔王が呟く。
「ティサには困ったものだ・・・」
バルバラが言う。
「魔王様、止めなくてよかったのですか?妾は心配でならんのじゃ」
マドラームも続く。
「だったらお前が進言すればよかったであろう?」
「そんなことできるものか!!妾はティサの悲しむ顔を見たくないのじゃ!!それを言うならマドラームが、ティサを止め、落ち込んでいるところを妾が優しく慰めればよかったのじゃ」
「それは我の役目だ!!」
魔王が言う。
「喧嘩はやめろ。俺だって、止めようと思ったよ。でもティサが言って聞く奴か?心配だからケトラとエレンナを付けたんだ。ティサは乗っ取りの手伝いが終われば、帰らせると言っていたが、本音を言うとそのまま、二人には引き続きサポートをしてもらいたい。ティサは魅了スキルが使えないしな」
「魔王様、そのことじゃが、本当のことをティサに言ってはどうじゃろうか?」
「それは可哀そうだろう・・・サキュバス族の落ちこぼれだなんて、俺の口からは言えないよ・・・」
実はティサリア、サキュバス族の最大の特徴である魅了スキルが使えないのだ。サキュバスの女王の娘であるティサリアは次期女王候補だ。しかし、能力的に女王は無理と判断され、魔王軍に引き取ってもらった経緯がある。魔王もサキュバスの女王には、便宜を図ってもらっている手前、強くは言えないのだ。
「魔王様、ティサが可愛いのは分かる。じゃが、四天王にするのはどうかと思うぞ。四天王の権威が地に落ちてしまう」
「それは我も同感だ。戦闘力だけなら、オーガ族のオルグストンのほうが適任だ」
魔王が呆れて言う。
「だったら、それをティサに言ってくれよ。アイツが泣き叫ぶと面倒だし・・・」
「そこは魔王として、ビシッと言ってほしいのじゃ」
「うむ・・・」
そんなとき、ハイドワーフの小柄な少女が謁見の間に現れた。四天王の一人、ロクサーヌだ。
「あれっ!?もう終わったんスか?遅刻してしまったッス・・・」
呆れた顔でバルバラが言う。
「まったく・・・四天王は問題児をあてがう役職ではないぞ・・・」
「そう言うな。ティサもロクサーヌも、ある意味優秀だ。ある意味でだが・・・」
意味の分からないロクサーヌが質問する。
「何の話ッスか?」
「ティサが心配という話だ。それで三人に頼みたい。ティサが困っていたら、助けてやってほしい。今日は以上だ」
ティサリアは魅了のスキルは使えないが、魔王や他の四天王には愛されているようだ。ある意味でだが・・・
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