―序章―
ある者は嘘をつき、ある者は人を殺し、ある者は裏切る
そんな者たちを退屈そうに眺めながら
「ますます哀れになったものだな、人間も」
と1人呟いている者がいた
その者とはこの世を司る神である
最初は面白く思えた人間観察も飽きてきてしまっていた
人類の歴史は驚かされることもあり傍観するにはうってつけであったが何せ人間というのは同じ事を繰り返すのである
記録をしなければいけないので仕方なく見ているものの今では何も面白くもなければ哀れな光景を見る度に嫌気まで差してるくらいだ
[おや…?]
そう思いながら眺めていた神だが、とある者に目がふと止まったのである
1人の人間が墓に向かって祈りを捧げていたのである
見た目は子供というには大人びているが大人というには幼くも見えた
神である自分にとっては嫌でも祈りを捧げる人間は目につくのである
それだけだったらあまり気にしないのだがその人間はそこにあるいくつもの墓の前で祈り花を供えていた為さすが気になったのでしばらく傍観していた
そういえば少し前に大きな災害が起きていたのを思い出した
比較的小さな町で起きていた為特に気にしていなかったが運良く生き延びた人間がいたのかと思い眺め続けていた
「それにしても律儀な人間がいたものだ」
その人間はその地にあった全ての墓に花を供えたのである
人間が死んで、生き残った者が祈りを捧げることは決して珍しいことではなく恒例行事みたいなものだと思っていた神にとっては異様な光景だった
災害や戦争で多くの人間が死んだところやそれを弔う様子を見ることはよくあったがこの人間のような者はとても珍しかった
所詮人間のことだ、偽善でやっていることだろうからどうせ今だけだろうと少し興味を失せてしまいそうになりながら記録をしている手帳を確認する
すると神は思わず言葉を失った
なんとこの人間、約12年災害が起きた日に毎年来ては全ての墓参りをしていたのだ
神にとっては短い年だが人間からすればそうではないことは理解しているので余計理解できなかった
久しぶりにおもしろくなった神は失いかけていた興味を取り戻した
他に何かこの人間のおもしろい話がないか知りたくなり手帳をめくろうとしたのだが
「しまった…?!」
あまりにも興奮していた為かうっかり手を滑らせて手帳を落としてしまった
手帳は下へと落ちていきついには眺めていた人間のもとまで落ちていってしまった
これは非常にまずいことである
記録の手帳を落としたとなれば今まで記録したものを再度確認し記録し直さなくてはならないからだ
いくら神でもそれは勘弁して欲しいので仕方なく拾いに行くしかなかった
自分が神だとバレてしまうと色々面倒くさいので人間に姿を変えてから取りに行くことに決めた神であった