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変則的な投稿ですいません

「予定通りに」

バルディ様は壁際に置かれたフラワーアレンジメントから真っ赤なカーネーションを手に取り、ウインクをして人混みの中に紛れていった。

すごく自分に酔っているように見えるが、それを許せてしまうほどバルディ様はかっこいい。


私達も予定通りに動かなきゃ。

ライアン様と二人になって、ボールホールへと向かった。

沢山の人がワルツを踊っている。

オーケストラの重厚な音楽が響き渡っていて、優雅な空間だ。


ライアン様は、指揮者にリクエストをするために話しかけた。

「ダナンダノン山脈一帯で古くから伝わる民族音楽をかけてほしいんだ」


「ダナンダノンの地域の音楽ですか?ムッシュ、申し訳ありませんが私共オーケストラでは、準備していない音楽なのです」

楽譜もなければ楽器もないし、第一演奏できないと断られた。

やはり、想定通りだ。


「では、こちらで演奏しよう。音楽を止めてくれ」

ライアン様の大きな声で演奏が突然止まる。


ホールで踊っていた方々が動きを止めてこちらを注目しながら、ホールから退いて、壁際に立った。

ホールは今、誰も立っていない。

皆、これから何が始まるのか傍観していた。


指揮者は慌てて、右往左往しているが、ライアン様は構わずに、指揮者を退がらせた。

私はライアン様の横でクラッチバックを開けて、黒い革張りの大きな鞄を出した。ライアン様用の革張りの鞄も出して、足元に置く。


「では、とっておきの曲を披露しましょう!」

ライアン様の言葉で、革張りの鞄からピアノアコーディオンを出して演奏の準備をした。

ついでにバグパイプも出して横に置く。

これからが勝負だ。

本気を見せないといけない。強い気持ちを持って、ライアン様と向かい合わせに立った。

ライアン様は先ほどの鞄からバイオリンを出していつでも演奏できる準備ができている。


二人で視線を合わせて、息を吸うと、同時に演奏を始めた。

6/8拍子の早い音楽を奏でていく。

私の横では、魔道具がバグパイプを演奏している。


ボールホールにピアノアコーディオンと、オーケストラのバイオリンとは違う、早いリズムが響き渡る。


その時、ホールの真ん中にバルディ様が複数の女性達を伴ってやって来た。

皆、豊かなバストに細いウエスト、そして大きな形の良いヒップをしている。


この会場のセクシーな女性だけを連れて来たのではないかと思うほど、皆妖艶だ。


その女性達とお辞儀をすると、腕を組んで早いステップで踊り出した。

ダナンダノン地方に伝わるダンスだ。


軽やかに楽しそうにステップを踏んでクルクルと踊る様は、見ているだけで楽しい。

女性達は、スカートをたくし上げ、足首が見えるようにして、右に左にと軽快なステップを踏んで踊る。


すると、女性達は目の前にいる傍観者の手を引き、踊りの輪に加えては、クルクルとパートナーを変えながら踊っている。

手を引かれて踊りの輪に加わったのは、年齢、性別は関係ないようで、かなりの年配の女性や、若い男性もいる。


皆、はじめは戸惑ったようだが、見様見真似で踊るうちに楽しくなるのか、皆笑顔で踊り出した。


その様子を見ていたオーケストラの演奏者達は、私達の音楽に合わせてアドリブで演奏を合わせながら奏で出した。


演奏をしている方も楽しくなるのか、足でリズムを刻みながら演奏している。


踊りの輪がどんどん大きくなっていった。


ホールには笑い声が響き、皆楽しそうに踊る。

私達も、向かい合ってステップを踏みながら、演奏をした。

ライアン様のその綺麗な瞳が私をずっと見て離さない。


マスクをしていて良かったし、演奏していて良かった。

今、体を動かしながら演奏するから顔が上気している。

多分、動いていなくても、ライアン様に真っ直ぐな瞳で見られているだけで、顔が赤くなっただろう。

胸が高鳴って、気持ちが昂っている事に気が付かれずに、じっとライアン様の瞳を見続けた。


ボールホールでは、クルクルと回り、どんどんとパートナーを変えながら踊る民族音楽に皆、すっかり魅了されたようで、3曲を終えた頃には、大きな拍手が起こった。


「では、次の曲を」

ライアン様は次もバイオリンを構える。

私は、ピアノの所に行き、ピアニストに席を譲ってもらった。


次の曲は、ダナンダノンでも、北側の地域にのみ伝わる音楽で、先程までの曲とは、曲調こそ同じだが、ダンスがまるで違う。

先ほどまでは、男女でパートは分かれていなかったが、今回は男性は女性をリードする踊りだ。


しかも、ステップも独特で、習得するには時間がかかる。

バイオリンのリードに合わせて演奏が始まった。


バルディ様の友人達だろうか。バルディ様を含めた数組の男女が踊り出した。

それを真似て他の参加者も踊り出す。


私達の狙いはこの曲だ。

この難しいステップを踊れる、でも、バルディ様のお友達連中とは違う男性。

背格好はマシューくらいの中肉中背。

マシューと同じように癖毛の若めの男性。


きっとその人が犯人だとライアン様は目星をつけていた。

踊りの輪をじっと見る。


明らかに上級者のステップを踏む人物を探す。

あっ!!一人いた!!


バルディ様も同じ人物に目星をつけたようで、その男性の周りを踊る。

パートナーを変えながら踊るこのダンスで、バルディ様と一緒に踊っていた女性が、曲の転調時に、バルディ様の胸からカーネーションを抜いた。

そして、次は上級ステップを踏む男性とパートナーになった。


女性は手にカーネーションを持ち、そのまま踊り続けている。

次の転調のタイミングで、バルディ様の胸ポケットから抜いた真っ赤なカーネーションを男性の胸に挿し、すでに胸ポケットに入っていたチーフを抜き取った。


そしてパートナーチェンジになる。


その男性は驚きこそしたが、花を胸ポケットから抜くことなく、踊り続けている。


バルディ様のお友達の女性達は、クルクルと踊りながら、手から手へと、あの男性のポケットチーフをリレーしてくれて、あっという間に私の手にポケットチーフが届いた。


私はピアノから立ち上がると、ピアニストに演奏を代わってもらう。

「お手洗いに行きたくなったの。すぐに戻ってきますわ」

と伝えると、ピアニストは私の代わりに演奏を始めてくれた。


ライアン様も演奏の手を止める。

そして、二人でメイクルームに向かう。

ライアン様はドアの前で待ち、私は個室に入った。


このハンカチを成分分析紙を使って検査するために、ポーション窯をクラッチバックに入っているアイテムボックスから出した。

そして急いで検査を始める。


ポケットチーフがリレーされてきたのだと思っていたが、中には男性の髪の毛が挟まっていた!

さすが、バルディ様と仲良しの女性達はハイレベルだ。


早く会場に戻るために急がないと。

祈りながら、検査結果を待った。


すると外から、ライアン様の声が聞こえてきた。

「レディ、申し訳ない。私のパートナーが、ワインを飲み過ぎてしまってね。申し訳ないが、別のメイクルームに行ってくれないだろうか?」

ライアン様が申し訳なさそうに言うと、ドアを叩く音がした。

「大丈夫ですか?気分が良くなるポーションでも頂いて参りますか?」

ドアを叩いているのは親切なご婦人のようだ。


このメイクルームを使いたいだろうに、私の事を気にしてくれている。

心苦しいが、なんとか演技をしてこの場を乗り切らないといけない。

「ご親切なレディ、ありがとうございます。気分が良くなるポーションは既に服用いたしましたの。ですから、もう少しじっとしていれば回復いたしますわ」

気分が悪そうに聞こえる声を出す。


「それなら安心いたしましたわ。会場にはお医者様もいらっしゃいますからね。では私は失礼いたしますわ」

ご婦人は他のメイクルームに行ってしまったようだ。

ホッと胸を撫で下ろしていると、鍋の火を止める時間になっていた。


急いで火を止めて急冷する。

鍋から紙を取り出して……。

アイテムボックスから先日の偽馬の検査結果の紙も出し、メイクルームから出た。

その2枚の紙を比較してもらう。


「やはり、偽馬の側にいたのであろう、特徴的な同じ成分が検出されている。それに、この私では解析不可能な黒い部分も表示された。あと、これは外見を変えるポーションの成分だ。やはりあの男性が犯人だ!」

これで犯人がわかった。


「この会場でなんとしても捕まえないといけませんね?」

「ああ。ありがとうセーラ」

ライアン様が真剣な眼差しでこちらを見る。


「これからですよ?犯人に逃げられないように頑張らないといけません」

おどけて答えるが、本当は苦しい。

密着した距離と、この瞳。


ライアン様は、ダナジーンが好きなんだ。

この私に向けられている眼差しに愛情はないんだ。

勘違いしないように自分に言い聞かせる。


「急いで戻りましょう?」

早歩きでボールホールに向かう。

走るのはマナー違反だ。

ホールに差し掛かると、目に飛び込んできたのは、皆楽しそうに踊る様子だった。


あのカーネーションを胸に挿した男性もまだ踊っている。

ライアン様と視線を合わせて頷いた。

ここからが、今日の見せ場だ。


ライアン様は、再びバイオリンを持つと演奏を始め、すぐに次の曲へと移った。


それはバイオリンのソロ。

同じダナンダノン地方に伝わる曲でも、悲しい曲だ。


バイオリンのソロがホールに響き渡る。


バルディ様達主要メンバーはお辞儀をして踊るのをやめたので、ホールにいる人たちは次々と踊るのをやめた。


バイオリンは悲しく、心に響く。

皆、黙ってその様子を眺めていた。


突然、打楽器パートの、頭が卵のような形で前髪の後退した、ふくよかな体型の男性が前に出て来た。

そして、美しいテノールの声で歌い出したのだ。


ホールに響き渡るほどの声量で歌う様子は、まるでオペラのようだ。

皆、先ほどとは違い、じっと聴いている。


『貴方は沢山の罪のない命を

自らの欲のために無駄にした

死にゆく馬達

悲しみに暮れる街

その罪をダノンダナンの山は知っている

その罪をダナンダノンの草は知っている

草に聞けよ

その罪の深さを

もう逃れることはできない

もうわかっている

ダナンダノンの草について

ああ、愚かなカディク

お前の罪は消えない』


テノールの歌声はホールに響き渡った。

歌手はカディクと言った!


カディクって、騎士団魔導士のリチャード・カディク様?

ライアン様の同級生で、ご友人でもある。


驚いてライアン様の方を見ると、ライアン様は真っ赤なカーネーションを胸に挿した男性をじっと睨みつけていた。


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