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ライアンの悩み事

本日二回目の投稿です。

是非、お読み頂けると嬉しいです

ライアン・マクヘイルは人前に出るのが好きではない。

でも、そんな事は言っていられない。

今はマクヘイル伯爵家を名乗る詐欺集団を捕まえなければならないのだ。


そうしなければ、国から認められた希少種の馬の飼育の権限を剥奪されてしまう。

その強い気持ちだけで、慣れない舞踏会や祝賀会に参加する毎日は本当に辛い。


マクヘイル伯爵領の特産品は馬だ。

取引先は、王家に、有力貴族、騎士団と多岐にわたる。

通常の馬に加えて、希少種である魔法馬を飼育しているので、競合する牧場が今までなかった。


しかし、昨年、魔法馬の偽物が出回った。

普通の馬を、希少種の魔法馬に偽装するために、馬の毛を金色に脱色し、蹄を銀色に着色してあるのだ。

しかも、なんらかの薬を使って、馬の鳴き声を変え、馬のサイズまで変えてあった。

魔法馬は、普通の馬より一回り大きい。

体の大きさを変える薬はかなり負担が大きいのか、偽馬は短命だった。そんな事をしては馬が可哀想だ。


事件が発覚してから、注意を促してはいるが、希少種を間近で見たことがない庶民や、下位貴族には違いがわからないようだ。

そのため、被害は拡大し、偽馬が大量に市場に出回った。


この件は国にも報告して、詐欺集団を捕まえるために協力を仰いだが、大きな問題が起きた。

販売していた男に会ったことがある人々が、伯爵家に来た際、私の側近であるマシューを見て、「こいつが詐欺の犯人だ!」と叫んだのだ。


もちろん、それは濡れ衣であるが、マシューが誤認逮捕されないためには、真犯人を捕まえなければならない。

だから、今まで社交界に顔をだしていなかった私が、舞踏会や祝賀会と、沢山の集まりに顔を出さねばならないのだ。


「今日もパーティーか」

行きたくない気持ちを隠して、リバートンホテルにチェックインをした。


今まで、領地を出る時は、側近のマシューを伴っていた。

しかし、詐欺事件の濡れ衣を着せられているので、領地から出すことはできない。

だから、最近では経理など金銭的な管理を任せているケンネスを伴っては社交を行なっている。


ケンネスは、計算が早く、先見の明があるが、食い意地が張っており、少し軽率な部分もある。

でも、人から話を聞き出すのが上手く、人当たりがよい。

だから、今回のようなマクヘイル伯爵家を名乗る詐欺の被害者から話を聞く場合は、ケンネスがいた方がいいのだ。



今日のパーティーの参加者にも被害に遭った人がいるかもしれない。

そう考えながら、リバートンホテルのスイートルームにチェックインをした。


どこのホテルに泊まる時も、部屋には花を置かないでほしいとお願いしている。

それは過去に、花にも惚れ薬を吹きかけられていた事があるからだ。結婚相手に飢えたお嬢様方は手段を選ばないから怖い。


部屋に着いてすぐにそれをチェックする。

ちゃんとお願いした通りになっている。


しかもご丁寧に、荷物が先に部屋に入れられていた。

荷物と一緒に沢山の箱も置かれている。注文した品物だ。

ただ、その他に、私宛のプレゼントや招待状など、数十個の箱が部屋に届けられていた。


「ライアン様はどこに行っても大人気ですね」

ケンネスは、部屋の隅にうず高く積まれた箱を見て、揶揄うように言った。


「最近、舞踏会に行くと、未婚女性の視線が怖いんだ。それから、何故か未亡人達の視線も強く感じる。そういった婚約者探しの女性達からの贈り物だろう。全て捨てておいてくれ」

私の言葉にケンネスはプレゼントの山の方を見る。


「ライアン様はいつもそう言いますけどね、ライアン様を思って準備した女性達の気持ちを考えて、ここは一口ずつでも召し上がったらどうですか?」

そう言いながら、箱を一つ手に取った。


「これは王都で有名なパティスリーの包装紙ですよ!注文すれば数ヶ月待ちのチョコレートですよ?これも捨てちゃうんですか?」

「もちろんだ。中にどんな薬が仕込まれているか、わかったもんじゃない」


「人の好意を疑うなんて! ライアン様、薄情ですね。こんな薄情なのに、女性からの求愛が絶えないのは、見た目がすこぶる良いからですね」

そう言われたが無視をしていると、ケンネスは尚も一人で話を続ける。

「年齢も25歳と結婚適齢期を過ぎそうになっているのに、婚約者もいないんですから。しかも、マクヘイル伯爵家は有数の資産家貴族ですし。それはターゲットにされますね」 


「妄想が激しいな。とにかく、送られてきた物は捨てて、注文した鞍の試作品や、蹄の試作品などを確認しておいてくれ」

私は夜会用の服に着替え終わると、そう指示を出してスイートルームを出た。


パーティー会場に入ると、いつものようにご令嬢達に囲まれた。

「ごきげんよう、マクヘイル伯爵様!わたくしと是非ダンスを」

「いえ、先に踊るのは私よ」

「ダンスよりもワインはいかが?」

「それよりも新作のケーキを召し上がりませんこと?」

次から次へと話しかけられる。

しかも、激しいボディータッチも漏れなく付いてくる。


なんとかご令嬢達をやり過ごして、今夜の商談相手と握手をした時だった。


「マクヘイル伯爵様!」

血相を変えたホテルの支配人がやってきた。

「どうかしたのか?」

「マクヘイル伯爵様のスイートルームで人が倒れていると、清掃係から今連絡が入りました。一刻を争う事ですが、お客様の部屋に無断で入る事はプライバシーの事もございますゆえ……」


部屋にいるケンネスの身に何か起きたのかもしれない!

「急いで部屋に行こう」


支配人はトラブルを避けたいと遠回しに言ってきたのは理解できる。

確かに貴族の宿泊する部屋で起きた事に口出しをして、裁判になると負けるのはホテルだ。

でも、今は一刻を争うかもしれない。

私に許可を取らずにケンネスの元に向かって欲しかった。


そう思いながら、支配人を呼びにきたであろう清掃係の女性と3人で部屋に向かった。


支配人が、腰に下げた合鍵で鍵を開け、スイートルームに入る。

床には掃除中だったのか、ブラシや洗剤などがおいてあった。


「奥のベッドルームです」

清掃係の女性が指差す部屋のドアの方に私より先に支配人が向かっていってドアを開けた。


「大丈夫ですか?」

支配人の言葉と共に視界に入ってきたのは、普段通りに立っているケンネスと、ダークブラウンの波打つ髪の毛を無造作に一つに束ねた化粧気のない女性の姿だった。


「ええ。彼女が私を助けてくれました。本当に命拾いしました。もう大丈夫です」

ケンネスは笑顔をみせている。

何事もなくてよかった。

安堵で胸を撫で下ろす。


「こちらに病人がいると伺って、この部屋の宿泊客であるマクヘイル伯爵様にも、お越し頂きました。本当に何事もなくてよかったです」

支配人は大袈裟に安堵してみせる。


「支配人、うちの執事がご迷惑をかけて申し訳ない。せめてものお詫びに」

ポケットから高額紙幣を数枚出すと、チップとして支配人に渡した。


ケンネスの不注意のせいで大騒ぎをしたんだ。

これくらい渡しておかないと、後でどんな陰口を言われて、それが貴族社会で広まるのかわかったものではない。


「このお嬢さん方の仕事が終わっていないのは、ウチの執事のせいだ。支配人、どうか叱らないでやって欲しい」

ここで清掃員をフォローしておかないと、もしかしたら彼女達が時間通りに仕事を終えられなかった事を責められるかもしれない。

そう思って支配人に遠回しにその事を言う。


支配人はわかっております、というような作り笑いを浮かべて頷いた。

これで彼女達は怒られなくて済むだろう。


「申し訳ないが、このまま部屋を掃除して欲しいのだが、お願いできるだろうか?」

そうお願いをして、支配人には部屋を出ていってもらった。


何故、花瓶や花が床に置いてあるのか、何故ポーション釜があるのか、聞きたい事はたくさんある。


しかし、この場で聞いて教えてくれるのかはわからない。

そのため、まずお礼を伝える事にした。


「改めて礼を言います。お嬢さん方、ありがとう。あなた方がいなかったら今頃どうなっていたことか。貴方が、私達を呼んでくれなかったら、うちの執事はこの件を隠蔽しただろう」

ケンネスは、やらかした事を隠す傾向にある。


「さあ、ケンネス、何が起きたのか説明しなさい」

そういうと、ケンネスは頭をかきながらハハハと力なく笑った。


「この度は酷い目に遭いました。マクヘイル伯爵が、『届いたプレゼントは全て捨てるように』という指示を出してパーティーへと向かわれたんですけどね」

「そこまでは知っている」

私はソファーに座り、足を組んだ。


「プレゼントは、チョコレートに、高価なワイン。それから香水に、ハンカチに、シルクの靴下。どれもこれも一流品ですよ!捨てるなんて勿体無い」

さっきも捨てるのを渋っていた。

でも、身につける物は魔法がかけられているかもしれないし、口に入るものには薬が入れられているかもしれない。


社交界に参加し出した頃、頂いたお菓子を食べた使用人達がそれで幾度となく治癒師のお世話になったのだ。

ケンネスはその頃、他国に馬の視察に行っていたため、被害に遭っていないのだ。


「マクヘイル伯爵はパーティーに行っているし、私は暇で。美味しそうだったチョコレートを食べたら急に眩暈がして、なんとかベッドまでたどり着いたけど、そこで身動きが取れなくなったんです。意識ははっきりしているのに、体は全く動かないし、声も出ない。いやー死ぬかと思いました」


「そうか……。すまないが、この部屋のゴミ箱から回収したものを全て見せて欲しい」

そう清掃係にお願いをすると、未開封のプレゼントと、食べ終えたチョコレートの包み紙を出してくれた。


「女性からの贈り物には高確率で、中には惚れ薬が仕込まれている。しかも、大抵が自作した惚れ薬だから、食べた途端に倒れたり、泡を吐いたり、大変な事になる」

捨てろと言ったのに、捨てないからこんな事になるんだと、半ば呆れながら伝えた。


「贈り物には何が仕込まれているかわかったもんじゃないから、絶対に開封するなとあれほど言ったのに!先ほどの話だと、この他にワインや靴下もあるな?出しなさい」

すると、ベッド横の棚から、ワインの入った箱などを10個ほど出した。

やっぱり。

ケンネスは、私の言いつけを守ろうとしなかったんだ。


次に何があっても助けないぞ?

なんて言えるわけがない。


「これは全て処分する!」

目の前で火魔法を放ち全て焼き払った。


「はじめからこうすればよかった。注文しておいた荷物と一緒に届いたから、贈り物の廃棄と、荷物の開封をケンネスに頼んで出かけたら、この有様だ」


ケンネスはこうやって怒る私の話を全く聞かず、何かを考えている。そして、おもむろに紙とペンを出した。


「本当に貴女方のおかげで命拾いしました。何かお礼がしたいのですが、あいにく、本日は持ち合わせがありません。後日改めてお礼を送らせて頂きたいので、ここに名前と住所を書いてくださいませんか?」


女性二人に紙とペンを渡すと、ダークブラウンの髪の女性は『セーラ』とだけ書いてすぐに返してくれた。

それに対してもう一人の女性はフルネームと住所を書いている。


「わっ私、すぐに立退を言われているんですが、次の住所が決まってないの」

セーラと名乗る女性はそう言うと、すぐに掃除を始めた。


何かを隠しているようだが、それが何なのか知りたくなってきた。

しかも、エマと名乗る女性が居なくなったタイミングでポーション釜を、ウエストポーチに仕舞っている。


あのボロボロのなんて事ないポーチはアイテムボックスだったのか!

あのサイズのアイテムボックスにポーション作成のための道具が全部入るとは、かなり容量の大きいアイテムボックスなのだろう。


あれはかなり高価なものだ。

でも、本人は化粧っ気がなく、質素な出たちだ。

なんだかアンバランスな状況だが、質問をしたからといって答えてはもらえないだろう。


私は黙って様子をうかがう事にしたが、客室清掃員の二人は最後まで無言だった。


掃除が終わって、二人がいなくなってから、ケンネスと顔を見合わせた。


「ライアン様、セーラと名乗る彼女、絶対に腕のいい薬師ですよ!でも、それを隠しているようでしたね」


「やっぱりそう感じたか?私もそう思った。彼女の調合したポーションの方はどうだっのか?」

私の質問に、ケンネスは目を輝かせた。


「私は身動きが取れず、声も出ないだけで、視界は良好だし、耳も聞こえていました。だから、口に運ばれるポーションを見たんです」

興奮気味で鼻息が荒い。


「あんなポーション初めてです。なんと、全く色が無いんです。だから、無味無臭で、飲みやすかったですよ」

「無色で無味無臭?初めて聞くぞ」


普通、ポーションは色が付いている。

傷を治すポーションなら緑、食あたりならピンクなど、一般的なポーションは効能によって色が決まっている。

それは後から色をつけているわけではなく、使う薬草の成分が滲み出てしまう結果なのだ。もちろん、薬草の味もするのが普通だ。


「彼女はポーションを作る時、ぶつぶつ独り言を言っていたんです。うつ伏せで寝ていた私は、何をしているか見る事はできませんでしたが、多分、花瓶の中の草花も使っていましたよ」


「花瓶の?わかった。支配人に、廊下のフラワーアレンジメントからどの花が無くなっているか聞いてきてくれ」

「何て確認するんですか?そんな事をしたら、下手すれば掃除をした彼女達に迷惑がかかりますよ?」


「じゃあ、気分が悪くなった時に、ケンネスが食べてしまったとでも言えばいい」

「なんですか?私が変人みたいじゃないですか!」


そう言いながら、渋々確認してくれた。

無くなった花や草は、薬草ではなく普通の草花で、一般的にはフラワーアレンジメントに利用する、よく流通している物だった。


「普通の草花を使って調合ができるのか!そんな話聞いたこともない。それが本当ならば、セーラと名乗るあの女性はすごく稼いでいるのだろう」

「そうかもしれませんが、かなりお金に困っていそうでしたよ」

ケンネスはニヤッと笑った。


「なんでも、明日までに結婚しないと、祖父の遺産が手に入らないとかで。でも結婚相手がいないと嘆いていましたよ」

「お前、立ち聞きしたのか?悪趣味だな」


「違いますよ!部屋に入ってきた時、そんな話をしていたんです。その時は私がベッドルームで倒れている事に気が付いてはいませんでした。ライアン様、これは彼女と結婚して、その望みを叶えてあげる代わりに、こちらのお願いも聞いて貰いましょう」

「そんな簡単な話なのか?第一、稼いだお金は何処に消えているんだ?」


「女性がお金を使うと言えば、男娼か、ドレスか、宝石か。はたまたその全部か。どんなに金使いが粗くても、異性関係が派手でも、あんな人材はいませんよ」

ケンネスは真剣に私に迫ってきた。

「ライアン様!是非、セーラ嬢に結婚を申し込んでください!彼女なら、偽馬を助けられるかもしれませんよ。それに困っているセーラ嬢を助けるのですから、お礼にもなります」


どうせ誰かと結婚しなければならない。

黙って考え込む私に追い打ちをかけるようにケンネスは言う。

「それに、結婚してしまえば女除けになりますよ。彼女に干渉しなければいいのです。それから、報酬を払って偽馬に与える薬を作ってもらえるだけでいいのですよ!」


悪魔の囁きに腹を括った。

彼女に結婚を申し込もう。そうと決まれば、すぐに探し出さなければ。


窓から下を覗くと、ちょうどセーラ嬢がホテルを出るところだった。

「ケンネス!追いかけよう」

私達は部屋を飛び出した。


その後の自分の行動には驚くべき事ばかりだった。

なんとかセーラを見つけて説得にかかった。


契約結婚をするにしても、相手は貴族のご令嬢の方が良かったのではないのか?

そう思うのに、気がつくと、一生懸命に説得していた。


どうかしている。

そう思うけど、もう後には引けない。

覚悟を決めたのだ。


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