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ライアン様と、ボーンさんとサザーランドさんは治療中の偽馬を見に行った。


私は自室へと戻る。


騎士団は何を調べるのかしら?

私の過去を洗いざらい調べられるのは避けたい。

しかも、明日は王都に行きたいのに、監視されていたら困る。

そもそも何日、居るつもりなのかしら?


明日外出できない可能性を考えて、『行けなくなった』という手紙を送ろうかしら?

でも、送れない。秘密裏に手紙を送るには魔力を込めないと行けない。

どうしたらいいのか……。


上の空のままディナータイムに間に合うように、お料理やおもてなしの用意のために指示を出す。


今は目の前の事を考えないといけない。

結婚の契約の中には『滞在するお客様をもてなす』というものがあった。


ライアン様は私に『滞在するお客様のおもてなし』と『ポーションを作る』事を望まれたのだ。

言い換えるのならば、それしか求められていない。

だから、完璧にこなさないと。


一通りの準備を終えて、ヘアメイクのためにドレッサーの前に座ると、鏡越しにアンナがにっこり笑う。

「奥様、『自分に正直なダナジーン様』にも驚かれるくらい美しく変身していただきましょう」


アンナがコルセットを出した。

「あの豊満なボディーは反則ですよ!どうやったら必要な所だけ育つのかしら?」

そう言いながら、私を締め上げる。

「奥様はスレンダーですから、それはそれで美しいのですけどね。だからといって、いつもと同じではいけませんわ」


少ないお肉を胸に集めたあと、ライムグリーン色のドレスを纏った。

「お美しいですよ、奥様。長期滞在予定のお客様をおもてなしするのは初めてでございますね?」


「ええ。初めてだわ。だから緊張するの」

「マクヘイル伯爵家では、お客様はサロンでお待ち頂く決まりになっております。ホスト役の奥様は、お客様をダイニングにご案内して、おもてなしを始めるのです」


私は頷くと、アンナと共にサロンに向かおうとする。

その時、鳥型の手紙が飛んできた。

手を出すと、掌の上にフワリと乗ってきて、羽ばたき出す。


その羽の動きで鳥型の手紙から声が聞こえて来た。

『音声手紙』だ。


「ダナジーン様がサロンに入らずにダイニングに入って来ました。急いできてください」

声の主はメイド長のメリーさんだ。


それを聞いて私とアンナは顔を見合わせた。

そして急いでダイニングへと向かうと、すでにライアン様と騎士団員達が席についていた。


ライアン様の右横にはダナジーンが座り、左横にはボーンさんが座っている。

ライアン様の向かいにはサザーランドさんが座り、私はその横の席になっていた。


ダナジーンはさっきの挑戦的な格好から、ワインレッド色の総レースのタイトなロングドレス姿になっていた。

そのきめ細やかな綺麗な肌がレースからところどころ透けて見える様子は、異性でなくても目が釘付けになってしまう。

なんてスタイルが良くて美しいんだろう。


「あら!奥様は普段からお屋敷の切り盛りで忙しいはずですから、私がホスト役をするわ。今日くらいゆっくりして頂戴。ね?ライアン様」

そんな妖艶なダナジーンは、ライアン様の膝の上に手を乗せた。


「あっ、ああ。いつも私の手助けをしてくれているから無理せずに、ゆっくり食事を楽しめばいいよ」

ライアン様がそう言うので私は従うしかない。

この家の主はライアン様であって、私は契約結婚の間、同居しているだけだ。 


ディナーはその後すぐに始まったが、ダナジーンがヨーク司祭の話を始めた。

すると、私以外のみんなの共通の話題なのか、大変盛り上がる。


「お兄様ったら、何であんなに女好きなのかしら?それなら聖職者にならなければいいのに。この前なんて、結婚式の讃美歌を歌うために来た聖歌隊を口説いていたのよ?もちろん、一つの聖歌隊をよ?二十人はいるわ」


「一度に二十人を口説くなんて、ヨークはやりすぎだ」

ライアン様はそう言って楽しそうに笑う。


話はだんだんと、ダナジーンが10代の頃、サマーホリデーの度に、この屋敷に泊まっていた話へと変わっていった。


「ねぇ、ライアン様の自室には今でも、ジュニアアカデミーの頃の写真が飾ってあるの?」

「外す理由がないからね。他の写真と共に飾ったままだよ」

ダナジーンの質問にライアン様が答える。


私は、ライアン様のお部屋に入ったことがないので、何が置いてあるのか、どんなインテリアなのか知らない。


「写真にはフフさんとミミさんの双子魔導士や、孤高の剣士ユリーさんも写っているのよね?」

「そんな有名人とジュニアアカデミーで一緒だったんですか?」

「その写真見たいです!」


ダナジーンの言葉に、ドーンさんとサザーランドさんが興奮したように話し出した。

二人は、その写真には他に誰が写っているのか?など、興奮しながらライアン様を質問攻めにする。


何一つ会話の内容がわからない私は蚊帳の外だ。

どうすればいいかわからず、笑顔を作って皆の様子を見ているだけになってしまった。


ジュニアアカデミーって、確か8歳以下の初等部に通う子供たちの中で、何かしらの優秀な成績を納めた者だけが通える学校だったはず。


ライアン様もそこに通っていたということは、やはりかなり優秀な方なんだ。


ライアン様の過去の事を伺うと、必然的に自分の過去も話さないといけなくなるため、その話題は避けていた。


私の知らない過去の話をするライアン様の話に出てくる人物は、私の知らない人ばかりだった。

しかも、騎士団の三人の反応を見ていると、かなりの有名人との思い出話らしい。


新聞も読まず、世間とは関わらない生活を送っていたせいだろうか?

そもそも、ライアン様はどこの魔法学校を卒業したのだろう。


国内には、沢山の魔法学校がある。

教会が母体になったものや、王立のもの。騎士団の下部組織もある。


私の通っていた魔法学校は、主に、治癒師や薬師を育成する学校だった。

もちろん複合学科もあったので、武道を習う学科もあるが、あのまま薬師になっていたなら、どうなっていたのだろうか。


今まで考えた事なかったかが、少し想像してみる。

学生の時は、飛び級をしてみんなと年齢が違ったせいで浮いていた。

友達はいなかった……嫌、一人だけいたわ。


もしも私があのまま卒業して、何かしらの機関で薬師として働いていたなら、どうしてたかしら?

結婚もして、幸せに暮らしていたのかしら?


そんなタラレバの未来を想像しようとした。だが出来なかった。

『もしも、あの事が無ければ』なんて想像できない。


そんな事を考えながら、今目の前で繰り広げられている、ダナジーンがライアン様にワガママを言う様子を眺めていた。


この後も、私に会話が振られる事なく、無事にディナーは終わった。

私は自室に戻り、明日どうやって王都に行こうか考えていた。


アンナはメイク落としの準備をして待っていてくれた。

その顔はいつもと違い、ちょっと困ったような悲しいような顔をしている。


「本日は疲れたお顔をしていらっしゃいますよ?奥様を癒す事も私の仕事ですから。何なりとおっしゃってくださいね」

アンナはメイクを落としながら、柔らかな声で話しかけてくれる。


そんなに顔に出ていたかしら?

周りの人に心配をかけないようにしなきゃ。


何としても明日王都に行きたいと言う事を、さも正当な理由のようにして説明するのはどうしたらいいのかな?

アンナならわかるかしら?


「旦那様はダナジーン様にとっては、お兄様のような存在ですから。学生時代の旦那様は、ヨーク司祭様のご実家で過ごす事が多かったのでございます」


「そうなのね。ヨーク司祭様のご実家って、どちらなの?」

「ヨーク司祭様のお父様は、ヨーク王領伯様です。8つある王領の、西海岸の土地を統治する、『西岸王領伯』様ですよ」


王領伯様!

その呼び名の通り、国王陛下の私有地を管理する伯爵様だ。

爵位は伯爵だが、実際のところ侯爵様よりも権限がある。

管理というのは、どういった産業を行うかや、農作物はどうするのか、街の運営や公共工事など、国王陛下の領地運営の全てを行うのが、王領伯の立場だ。


しかもこの国の西海岸となると、海に面した港町で、貿易の要所だ。


という事は、ヨーク家は、遡ると王族に繋がるという由緒ある家柄。

ヨーク司祭様がそんなにすごい人だと思わなかった。


「と言う事は、もしかして王家の血筋の一族なの?」

「ダナジーン様のお婆様は、国王陛下の従姉妹になります」


それはすごいわ!

そんな由緒ある血筋の方だと怒らせないようにしないと。


主寝室に行き、ライアン様を待ったが今日も来なかった。

ライアン様にはライアン様の予定がある。

そう思って目を閉じた。


ライアン様にまとわりつくダナジーンの様子が思い出されたが、何とか振り払って眠りについた。

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