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秘密のパーティー

セーラは用意されたドレスを見て困惑した。


ドネリー商会のドレスは、どれもすごく上品で素敵だが、今回のドレスはいつもと感じが違う。


露出が多いのだ。

どのスカートにも膝上くらいまでスリットが入っていて、歩くたびに脚が見える。

「ねえ、脚が見えるのは何とかならないのかしら?」

そう聞くと、ふっくらした女性が困った顔をした。


「今、お金持ちの間での流行は、『貴族では着ないドレス』なんです。脚が見えるだなんてはしたないって貴族の方はおっしゃいますでしょう?」

「確かにそうですわ」

「だから、あえて見せるのです」


「この中でも一番、脚が見えないものをお願いします」

「わかりました。ではこちらをお召しになってください」


それは真っ赤なドレスだった。

胸元がハート型にカットされたネックラインで、女性らしく丸みを帯びたデザインになっている。

しかも、ウエストはぎゅっと締まり、スカートはフロントスリットのタイトなマーメイドラインになっていた。

スリットが小さいので、歩幅は小さく歩かないといけないのが欠点だが、あまり足は見えない。


確かに脚の露出はこれが一番少ないのかもしれない。

でも胸元の開き具合は、先ほど見たどのドレスよりも一番布が少ない。


渋々ドレスに着替えた後、アンナにヘアメイクをしてもらう。

髪をアップスタイルにして、薔薇をヘアアクセサリーがわりにつける。

そして、大きなスクエアカットのダイヤモンドのネックレスをした。

あまりにもダイヤモンドが大きすぎるから、イミテーションに見えるけれど、これは本物だ。

鑑定魔法が使えない私でもわかる。


「お支度ができましたので行きましょう」

アンナは私を旦那様が待つ部屋まで連れて行ってくれた。

「奥様の支度が整いました」

部屋の中にゆっくりと入る。


旦那様をまっすぐに見れない。

一番露出の少ないドレスと言われが、やっぱり色々なところが隠れていない。

背中も大きく開いている。


やっぱり違うドレスがいい。

そう思ってアンナを見るけれど、私とは視線を合わせずにただニコニコしている。


「旦那様、奥様に釘付けですね。貴族の舞踏会と違って庶民の富裕層の集まるパーティーではこれくらいが普通だそうですよ」

アンナはそう言うけれど、あまりに露出過多で呆れられているのではないのかしら?

確かにラウンジに勤めていた時のお姉様方と比較すると、まだおとなしいけど、でもやっぱり恥ずかしい。


「セーラは美人だから何を着ても似合うね」

あまり褒められ慣れてないので、作り笑いが難しい。


「ありがとうございます。旦那様」

その返事にアンナがダメ出しをする。

「奥様、貴族ではないという演技をしないといけないのですから、旦那様の事はお名前で呼ばないと変でございますよ」

「無理言わないでよ」


「アンティークショップの時と違って、人が大勢いるのですよ?」

アンナの言葉ももっともだ。


「あの……ライアン様、今日はよろしくお願いします」

その言葉に笑顔になる。


「ああ。では行こうか」

ライアン様にエスコートされ、あらかじめ頼んでおいた辻馬車に乗った。


馬車の中では、砕けた話し方をするように念を押された。


そして会場へと向かう。

「今日は、偽馬を売っている詐欺師が参加するらしいという噂だ。私達は、裕福な商会の息子夫婦という設定でいこう」

「わかったわ。でも、本当に私達が知っている人は来ないのかしら?」

「絶対とはいえない。でも、可能な限り、君を守るよ。それに、たった一ヶ月で君は別人のようになった」


私の事を知っているのは、魔法学園の同級生だった人と、仕事仲間だ。

同級生は5年も会っていないし、元々ほとんど交流がなかった。それは、私が飛級をして、17歳で最終学年で、周りは、21歳で最終学年だったからだ。

あのまま順調にいけば、私は18歳で卒業だった。


当時の事を思い出したが、学園にいる時は、いつもポーションの研究室にいたからお互いに殆ど顔を知らない。

それから、仕事仲間で裕福なパーティーに出る人なんていないはず。

まあ、ラウンジのお姉様方の中にはいるかもしれないが。それならなんとか誤魔化せる。


「別人のようになってますか?」

「ああ。全く違う」

無造作に髪を流したライアン様が屈託なく笑うが、恥ずかしくてチラリとしかその顔を見れなかった。


「もう着くから、これを羽織って欲しい」

そんな私に気にする事なく、マントを渡される。それを羽織ると、ドレスが全く見えなくなった。

そして、馬車が停まった。


そこはゴミ捨て場の隣の小さな扉の前だった。


「え?こんなところでパーティー?」

驚く私にライアン様は笑う。

「会員制の店で、わざと見つからないようにしているらしい。噂では、ここではなんでも揃うって」

「なんですか?その漠然とした情報は」

「私もよくわからない。でも、顔を隠した方がいいらしいから、この仮面をつけて」


それは顔全体を覆う、カーニバルのお面だった。

右目のこめかみの部分に、真っ青な宝石が二つ埋め込まれている。


ライアン様も全く同じお面をつけた。

そしてボロボロの扉をノックした。

中から出てきたのは、パジャマを着たおじいさんだった。


間違えて人の家のドアを叩いてしまったんじゃないかしら?

焦る私をよそに、ライアン様は平然としている。

「こんばんは。真っ赤なユニコーンと、ドラゴンのヨダレがある駅舎に行きたいんですが?」

ライアン様は不思議な事を言いながら、紙幣をおじいさんの手に握らせた。


「ああ。駅舎か」

おじいさんはそう言って、足元のハッチを開けた。

途端に大きな風が起こり、ハッチの中に吸い込まれた!


次の瞬間、山頂の大きなテラスに立っていた。

空間を直結させた移動魔法具に吸い込まれたようだ。


テラスといっても、巨大な教会くらいの広さがある。

そこに、沢山の人が談笑したり、踊っていたりと楽しそうにしていた。


空を見上げると、刻々と変化するオーロラが虹色の光を織り成し、眼下には大きな街の夜景が見える。

きっと、王都の夜景だろう。


「なんて素敵なの!」

「ここは、魔法で作り上げた空間だよ。毎晩、こんなパーティーをしているらしい。合言葉を言って入場料を払うと誰でも入れるらしい」

「移動魔法具に吸い込まれたのではないのですか?」

「ちがうよ。この空間の入り口のドアに吸い込まれたんだ」

「そうなんですか。でもすごい景色!」


噂で聞いた、身分は関係なくお金持ちしか入れないというお店だ。

周りを見ると、女性は私よりも派手なドレスを纏い、男性はそんな女性達に声をかけている。

声をかけられた側の反応は様々だ。

軽くあしらう人や、一緒にフロアで踊る人もいる。


「みんな仮面をつけている上に、名前を明かさなくていいから気軽に談笑できるんですね」

「そのようだ。奥にはVIPルームもあるらしい。ただし、そこは仮面を取らないといけない上に、身分を明かさないと入れない」


「ライアン様のターゲットは、もしやVIPルームに?」

「そう聞いている。そのために、偽の身分証も用意した」

渡されたのは、『セーラ・ドネリー』と書かれた身分証だった。


驚いてライアン様を見ると、楽しそうにウインクをする。

「そうだよ。ドネリー商会の会頭にお願いをして作ってもらった。今日の私は、ドネリー商会の跡取り『ライアン・ドネリー』だよ」


楽しそうにそう言うと、VIPルームの入り口に立つ護衛にお金を握らせながら、身分証を見せた。

護衛は、身分証に魔道具をかざす。偽物かどうか鑑定しているようだ。


ライアン様曰く、ドネリー商会の会頭が作った物だから本物だそうだ。

そう言われても身分を偽る事にドキドキする。


「入れ」

そう言われて、敷居を跨ぐ。

すると、いきなり迎賓館さながらの空間になった。

先ほどとは違い、天井にはシャンデリアが輝き、足元は大理石だ。


ここは、皆、上等な服装で、誰も仮面をつけてはいない。

ライアン様はスパークリングワインをグラスを給仕から受け取り、私にもくれた。


ここは、一定以上の身分がある人物か、その人と同伴者しか入れないと、先ほど聞いたから、知り合いに出会う確率が上がった。

「ちょっと待ってて」

そう言われたので、近くのソファーに座って人間観察をする。


確かに、皆、いい身なりで、先ほどのフロアとは違い、羽目を外したような人はいない。

ライアン様は、恰幅のいい男性に話しかけて握手をしていた。


ライアン様は社交が好きではないと言いながら、すごく人当たりが良い。

何を話しているかはわからないが、すぐに打ち解けたようだ。


私はその様子を見ながら、立ち上がり、給仕からワインを受け取ろうとした時、突然腕を掴まれた。

びっくりして、その人を見ると、ゲオルグ様だった。


ゲオルグ様は、従姉妹のヘザーの夫で、私の元婚約者だ。

びっくりして手を引っ込める。


「やっぱりセーラだ。見間違えるはずはない。何故こんな時間に、こんなところにいるんだ?」

私は何も答えられなくて黙っていた。

身分を偽っている事も、何もかも口には出さない。


「セーラ。答えられないのか?」

そう言われたが、なおも無言を貫く。

「私は、上司に連れられてここに来たんだ。セーラ、君は?君、結婚しているはずだよね?」


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