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悪趣味な格好

投稿に時間が開いて申し訳ありません。

体調が整わないのと、本業が忙しいので、週に一回の投稿にいたします。

申し訳ありません。

引き続きお読みいただけると幸いです

ライアン・マクヘイルは、ジャケットを椅子に向かって投げた。

「あの弁護士はビフラ伯爵の遺言の執行者なんだろう」

私の独り言にマシューとケンネスは笑った。


「ライアン様、珍しく怒っていらっしゃいますね」

「当然だ。なんなんだ?あのヘザーとかいうセーラの従姉妹は」

「ライアン様達の夫婦仲を悪くして離婚に至れば、相続人が一人減るからじゃないですか?」

マシューの言葉に納得する。

相続人が一人減れば取り分が増える。

そう考えれば辻褄は合うが……。


「それに、あの方も相続人という事はご結婚しているのですよね?」

「そうだろう。手首にはセーラのブレスレットとは異なるデザインのブレスレットを付けていたしな。何より驚いたのは、セーラはビフラ伯爵の孫だった事だ」


ビフラ伯爵は、魔道具製作ではかなり有名な方だった。過去には魔法馬を所有していた時期もある。


「ビフラ伯爵家の後継者はどうなっているんだ?」

「ビフラ伯爵家は、現在の当主になってからもう何年も経ちます。セーラ様のお祖父様は早めに家督を譲ったのでしょう。元々、ビフラ伯爵家は財務省の大臣を務めたこともある、文官の家系ですよ」

マシューは貴族名鑑を見ながら答えた。


「セーラ様のお祖父様が亡くなったという話は新聞にも載りましたが、そこに書かれていたのは、家督を譲った後に立ち上げた魔道具制作会社をどうするのか?と、莫大な個人資産の行き先でした」

ケンネスの説明を聞いて、私もその新聞記事を読んだ事を思い出した。


「ビフラ伯爵家は、南部の貴族会の所属ですし、マクヘイル伯爵家は東部の貴族会の所属。しかも、あちらは文官系の集まりですが、こちらは武道系の集まりです。接点がほぼ皆無ですから、あちら様のお嬢様方を知らなくて当然ですよ」

マシューの言葉にちょっと納得をする。


「……セーラが勘当されるような殺人未遂事件ってなんだろうか」

私の独り言にマシューは「お調べしますか?」と聞いてきた。


「いや。噂の域を出なかった話だろう?もしも濃厚な疑惑なら、リバートンホテルの清掃員にはなれないよ。だから調べなくてもいい」

「かしこまりました」

この話はこれ以上しないでおこう。そう思って、溜まった書類に目を通して行った。


それから数日は、いつも通り過ごした。

セーラははじめ、戸惑っていたようだが、今は普通にしている。


そんな時、偽馬がまた出回っているという話をつかんだ。

それはドネリー商会の会頭からの手紙でわかった事だった。


『当方のお客様から聞いた話なのですが、おかしな男がマクヘイル伯爵の親戚だと名乗って、魔法馬の話をしていたそうのです。

その男を見かけたのは、王都のアンティークの家具店だそうです』


その手紙と共に、そのアンティーク店のショップカードが入っていた。

開店時間は、15時からか。

これはセーラと共に行かないと、帰りは夜遅くになってしまう。


一日六時間は五メートル以内にいないといけないというのは、かなり行動制限がかかる。

だから、申し訳ないが、セーラにはついてきてもらわないといけない。


ディナーの時、その事を伝えた。

「なるべく早く行きたいと思っているのだが、明日、一緒に王都に行ってくれないだろうか?」

そのお願いに、セーラはにっこり笑った。


「わかりました。では、服装の指定はありますか?」

「そうだな。『地方都市に住む、金持ち』の服装で。もちろん、平民に見えるようにしてほしい」


今から行くところで、偽馬の販売をしている詐欺師に声をかけてもらい、その場で捕まえたい。

それには、貴族に見えては困る。


その指示に、セーラは困った顔をしていた。

「旦那様のご希望に合うドレスがあるかどうか。早速、アリスと相談いたします」

「もしも、無いなら、途中のどこかで買うことにしよう」


それ以上、セーラは何も相談してこなかった。

次の日、朝食の後も、事務仕事に忙しく、執務室での作業が続いた。

集中していたせいか、ノックの音で我に返った。

「ライアン様、そろそろ出発のお時間になりますよ」

ケンネスが入ってきた。

その腕には、光沢のあるグレーの布の塊を持っている。


「その手に持っているのは何だ?」

「こちらは、ライアン様が今からお召しになる服ですよ。地方住まいの派手好きな金持ちの平民の格好です」


「光沢あるグレーって、恥ずかしいな。それを着ないといけないのか?」

思わず顔が引き攣る。


「もちろんですよ。成金っぽく、カフスやタイピンはギラギラした物を準備しております」

ニヤつくケンネスを睨む。


「一体、どこで調達したんだ?」

「秘密です。私の人脈を使ったんですよ」

「これの持ち主は趣味が悪いな」


「ライアン様もそう思いますか?私もそう思いますよ。『どこで買ったんだ!』とね。私ではどこに売っているか検討もつかないのでレンタルしたんです」

すました顔のケンネスを見て、苦笑いをする。ケンネスの人脈は謎だ。


その謎の人脈でも、犯人には辿りつかない。

一体犯人はどうやってこちらの情報を得ているのだろうか。


疑問を感じながら、派手なグレーのジャケットを羽織り、成金趣味のカフスとタイピンをつける。

そして、銀縁のメガネをかけた。

こんな格好は誰にも見られたくない。


「奥様の準備も終わっている頃ですよ。エントランスに行きましょう」


待たせているかもしれないと言われて急いでエントランスに向かうと、セーラはまだ来ていなかった。

移動魔法粉の準備をするように指示を出していると、セーラが階段を降りてきた。


サーモンピンクのプリンセスラインのドレスには、ウエストやパフスリーブの袖口に大きなリボンの飾りがついていて、かなり目立つデザインだ。

しかも、スカートの裾は通常のドレスよりも短く、歩くたびにその裾から見える細い足首に目が釘付けになってしまう。


髪型も普段とは違い、高い位置でツインテールにしており、毛先はウェーブさせている。

確かに、地方の貴族と商談すると「娘です」と言われて紹介される娘に多い服装と髪型だ。

大抵、結婚相手を探している上に、おしゃべりで商談に割って入ってきてホトホト困るタイプの女性に多い。


言い方は悪いが、大人になりきれないデザインのドレスと髪型で、田舎の娘特有の野暮ったさがあるの典型的な例だ。

ただし、地方のお嬢様とは違い、ずっと王都で生活していたであろうセーラは、田舎から出てきた感じがしない。

何かのイベントで、わざと田舎の貴族ごっこをしているお嬢様の雰囲気だ。


普段、セーラはあまり首筋を見せない。

今の王都の流行りの髪型なのか、ハーフアップなど、おろした髪型をしているが、今日の綺麗なうなじが見える髪型は、新鮮でドキッとする。


「見たことのないデザインのドレスだ」

私の言葉にセーラは少し困った顔をする。


「このドレス、アイテムボックスの底に眠っていたドレスなんです。16歳のころ、このドレスを着て上級生のプロムに参加しました。ただ、その当時のデザインのままだと、あまりにも古臭いので、アンナが少し手直しをしてくれました」


「そんな古いドレスが着られたのか?」

「はい。当時はもう少し太っていました。でも、身長は変わっていません」


「7年前の流行りのドレスということなのか?」

「……いえ。そういうわけでは無いんです。当時、寮の同室だった友人のおすすめのドレスショップで買ったのですが、あまりに飾りがつきすぎてて、当時も悪目立ちしました」


何だか想像がついて、つい笑ってしまう。


「旦那様のお召し物も、確かに地方から出てきた方っぽい服装ですね」

「そうなのか?こんな服、地方に商談に行っても見たことがないぞ」


「リバートンホテルのお客様には一定数いらっしゃいました。私の職務上、どちらの出身かは存じ上げませんが、ホテルの廊下でたまにお見かけしましたよ」

「なるほどな。ところで、今日は偽馬を売っている詐欺師に接触できるかもしれないので、魔法馬では向かえない。たから移動魔法粉を使う」


「わかりました」

セーラに移動魔法粉を渡して、自分に振りかける。

その瞬間、ハリケーンの中に放り込まれたかのように、ぐるぐる回る感覚と、体がバラバラになるのではないかと思うほどの重みを感じた。


普段は魔法馬で移動しているから、移動魔法粉の不快さを忘れていた。

じっと我慢していると、重力が通常に戻ったので目を開ける。


そこは王都の東側の広場前だった。

移動魔法粉は、どこでもいけるわけではない。

王都なら、東の広場か、西の時計台の前だ。


広場の噴水前でしばらく待っているとセーラがふわっと出現した。

目を閉じて、口をぎゅっと結んでいる。

その顔も愛らしくて笑みが溢れるが、それを誤魔化すように咳払いをした。





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