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夢境のアルカディア  作者: 挟むギョウタン
第一章「王国編」
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迷宮探索〈中〉

 その後も魔物に次々と遭遇するが、一瞬で剣の錆になるか、魔法で塵芥と化した。どの魔物もEランク・Dランクだそうで、ルベンらCランクの冒険者とオリヴィエにとっては相手にもならなかった。



「…現在は午後4時、そろそろ上層も最後だろうな。オリヴィエさん、ここらで一旦今日は停止しないか?」

「もうそんなに経ったのですか?ならばこの一帯にキャンプを貼りましょうか」




 余裕が出てきたのだろうか、軽い態度でルーシアは迷宮突入前と同様に「敬称」で提案し、オリヴィエもそれに乗っかった。

 対してユージンはずっと前線で剣を振るってきたこともあってか疲労困憊といった状態で休憩は有難かった。3日前は現代の学生だった男が、軽装とはいえ鎧と剣を身につけて一日中動き回るのがそもそも重労働であったためである。

 そんな中でレッツェただ一人、少々焦った表情で迫り来る危険を告げてくる。



「…いやもう一仕事。12時方向から走って此方に向かってくる集団。足音は…50以上。臭いから恐らくゴブリンの類。このままだと30秒もあればぶつかる」

「50体!?…ルベン、やれるか?」

「うーん…数が多い。発動の時間を稼いで貰いたいわ」

「分かった。レッツェとオリヴィエは先行して敵集団の撹乱、俺とユージンはここでルベンの護衛。魔法が貯まったら大声で合図があるから先行組は直ちに撤収、いいな?」



 全員がルーシアに向かって黙って頭を軽く下げると、レッツェとオリヴィエは突撃する。オリヴィエは盾と剣を構えて走るのに対して、レッツェは松明を前方に放ってナイフ一本を逆手持ちすると、時々姿を消しては現れて――さながら「瞬間移動」を繰り返して駆ける。彼らは同時に走り出したが、直後からオリヴィエはレッツェの速さに追いつけていなかった。



「…なかなか面白そうな移動方法ですね」

「アタイの〈転移〉だよ!突撃の一番手は貰うよ!」



 さっきの焦りは何処へ行ったのだろうか、レッツェは興奮した表情で一番乗りとばかりに躍り出る。一足先に敵集団へと辿り着くと、先頭のゴブリンにナイフを首に突き刺す。ゴブリンたちはレッツェのあまりにも早い動きでたじろいだが、直ぐに両隣のゴブリンが正面のレッツェに剣を突き出す。だがその姿は突然消失した。応戦していたゴブリンは見失い戸惑っていると、




「――遅い、遅いなぁ?そんなんじゃいつまで経ってもアタイは捕まらないなぁ?」



 声が集団の背後(・・)から聞こえる。今し方正面にいた筈のレッツェ、が最後方のゴブリンに再度ナイフを突き立てる。最前方の振り返ったゴブリンはその様を目撃する。

 ――が、それは一瞬であった。刹那、視界は真っ暗に閉じる。



「…よそ見は禁物ですよ?」




 遅れてやってきたオリヴィエが剣で後ろを向いたゴブリンに突き刺すと、その勢いで後ろのゴブリンまで貫いて串刺しにする。そして抜いた矢先に手元に戻す動作でその隣のゴブリンへと乱暴に叩きつける。僅か一太刀で三体も倒したその動作は余程の「腕力」が無ければできない芸当だろう。

 数の優勢から一転、得体の知れぬ人種に挟まれたゴブリンたちは混乱する。しかし騎士の後方で待機している人間の姿を捉えると、集団の最両翼に位置したゴブリンたちは其方へ向かって駆け出す。




「見たところこっちに5体ってところか…。俺は魔法での支援しかできないから前衛はお前だけだ。頼んだぞ…!」

「頼まれなくたって全力でやるよ、負けたらおしまいだしな」



 準備中のルベンと後衛のルーシア、二人を庇うようにしてユージンは前に出る。ゴブリンもそれに呼応して二手に分かれる。



「三体か…上等!」



 〈心眼〉で確認すると敵はホブゴブリンと出ている。通常のゴブリンよりかは手強いだろう。苦戦することも考えられるが、レッツェやオリヴィエの先陣切っての突撃に感化されて高揚した感情がそれを払いのける。

 此方を上回る物量で押し寄せる魔物と抗う人種、この上なく御伽噺的で、冒険者の――否、「勇者」パーティーが立ち向かう困難としてぴったりの状況だ。



 ユージンは牽制目的の〈魔球〉を数発放ってゴブリンの足を止める。直後、前方に跳躍して斬りかかる。先頭のゴブリンに初撃は止められたが、続けて剣を振る。ワイトのような道中の魔物とは異なって何度も防がれる。その最中、残りの二体が左右から挟撃を試みたのを目にして魔法を放つ。



「〈黒霧(ブラミスト)〉!」



 両隣のゴブリンの目元に黒いモヤがかかって視界を遮る。手元が狂うのを避けるためか、一歩後ろに飛び退いて逃れようとするがそれは叶わなかった。モヤは動きに合わせて追従して再び視界を不自由にする。

 〈黒霧(ブラミスト)〉は〈魔球〉から着想を得た魔法だ。出てきた黒いモヤを持続させ生物の視界に纏わせることで視野を奪う。名称も〈火球〉を模して発動の成功を優先させた〈魔球〉とは異なり、ユージン自身がつけたものだ。RPGゲームの横文字魔法に慣れ親しんでいたので、一度漢名を考えた後に雰囲気で名付けた。



「よし…!」



 ユージンは新魔法の成功に軽く喜んで、正面のゴブリンを斬り捨てる。剣筋を読むのに時間はかかったが、オリヴィエのように力強くもないし俊敏さもない。一対一なら負ける道理はなかった。





 ――僕でも勝てる



 そう安心し、魔法で視界を奪ったゴブリンに目をやる。見ると丁度一体(・・)はモヤの追尾を振り払って再度突撃を試みようとしている。さっきと同じだと考え、剣を正面に構える――



 ――あと一体はどこだ?ふともう一体の姿を確認していなかったことに気づくがもう遅かった。







  ――後ろだ、喉元を狙っている、間違いなく死ぬ、と直感が激しく危険を伝えてくる。急いで振り向くと鈍い光を放った剣尖が目前まで迫っていた。油断した、避けられない。魔法を発動する暇もない。剣をぶつける余裕もない。




 ――終わりなのか?何も出来ずに?






「……〈障壁〉ぃ……!」

「!!」



 寸前、剣の刺突が止まる。跳躍しての突撃はすんでのところで防がれた。ゴブリンは跳ね飛ばされて背中を見せて隙だらけの姿を晒す。後方を見るとルーシアが杖と〈障壁〉で二体の攻撃を抑えながらも、必死で追加の〈障壁〉を発動していた。



「今のでもう限界だ!早くこっちに来てくれ!」

「…ああ!助かった!」


 ユージンはすぐさま意識を集中して転がり回ったゴブリンを一刺しにすると、続けてもう一体のゴブリンにも向き直る。二体のゴブリンがやられた様を見たゴブリンは不利と見たのか背を向けて逃げ出した。ユージンは背中に向けて〈魔球〉を放つと、ルーシアの方へ駆け出す。ゴブリンは避ける素振りすら見せずに絶命した。



 ルーシアもギリギリの戦いを繰り広げていた。本来は後衛職なのに加えて、魔法は一般(・・)的な実力しかないために終始防戦一方であった。

 そんな中、ユージンの迫り来る危機を目の当たりにしていたルーシアは無理矢理〈障壁〉を生み出す。最悪の事態は回避できたが、真横のゴブリンを阻んでいた〈障壁〉が弱まり始める。それを見て最後方のルベンは顔を青ざめる。杖での競り合いに加えて、2枚の〈障壁〉はルーシアに多大な負担を与えるには十分であった。

 〈障壁〉にヒビが入る。これ以上はまずいと慌ててイメージを再構築しようとするが、安静な心無くして魔法は練れない。ヒビはどんどん拡大していき、剣の先端が内側まで入り込んできている。









 ――二つの血飛沫が上がる。ユージンは間に合ったのだ。



「さっきは本当に助かった…礼を言わせてくれ」

「いや俺も今助かったんだ。あれで貸しを作ろうと思ったが、すぐに返されたな」






 ユージンにとっては無防備な二体のゴブリンの首を刎ねるだけでの簡単な作業だったが、互いの窮地を乗り切ったのだ。ルーシアはユージンにその奮闘ぶりを称えようと迫るがすぐに戦闘は終わってなかったことを思い出す。



「いや、まだ終わってないな。ルベン!あとどのぐらいだ?」

「……たった今イメージの錬成が終わったとこ!今から詠唱するから…オリヴィエ!レッツェ!すぐに戻りなさい!」



 ルベンの声を聞くと、直ぐにオリヴィエとレッツェは集団の間を縫って素早く後方へと駆けてくる。ゴブリンたちも後から追うが、到底追いつけるような速度ではなかった。





 〈魔法分身〉


 〈文明は戦火に始まり戦禍に終わる〉


 〈今!ここを!焦土とするが為に戦渦は顕現

  する!〉


 〈焔焔業炎(えんえんごうえん)





 詠唱し切るとゴブリン集団の上に炎の玉…「小型太陽」とも言うべき巨大な球体が2つ(・・)出現する。あまりの熱量に、離れたユージンらにも熱さが伝わる。そして2つの「太陽」はゴブリンに向かって落下し直撃する。



 凄まじい規模の炎にゴブリンたちは包まれる。悲鳴すら聞こえない。炎で姿すら視認できない。余りの勢いに洞窟が揺れているようにも感じる。やがて炎は集団を中心として渦巻くと、一瞬で消え去った。地表は焦げつき、ゴブリンの姿形は跡形もなかった。多分焦熱地獄が本当にあるとするならばあのようなものを指すのだろう。





「スキル〈魔法分身〉に大規模魔法の〈焔焔業炎(えんえんごうえん)〉を合わせた特別製よ!これで死なないやつはいないわ!」

「…洞窟の崩落とか一酸化炭素中毒とかは考えなかったのか?」

「その中毒はよく分かんないけど…ほら、効果範囲は狭めて威力を絞ったから平気かなーって…ね?」




 なにも考えていなかったらしい。ともあれ、魔法の衝撃で他の魔物が寄ってくるかもしれないとオリヴィエが懸念を示したので、来た道をそのまま真っ直ぐ引き返すことに決めた。結局入り口まで戻ったのは夜も更けた頃となった。

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