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夢境のアルカディア  作者: 挟むギョウタン
第一章「王国編」
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迷宮探索〈上〉

 朝日が昇らず薄暗い中、不意に貸し部屋の戸が叩かれる。開けると、宿屋の主人が顔を覗かせて不機嫌そうに要件を伝える。なんでも見目麗しい緑髪の魔法使い風の学生が来たとのことだ。ルベンのことだ、と思い慌てて隣部屋のオリヴィエを起こしにかかった。



 ※※※※※※



 道中は強力な魔物に遭遇することはなかった。出会ったところで狼やゴブリンといった、ゲームでもあまり強くなさそうな魔物ばかりであった。彼らは近づく前にルベンやオリヴィエの魔法で悉く退治され、余裕がある時はユージンも〈魔球〉を放つ。昨日の反省を踏まえてイメージは細かく威力も弱めたが、当たると紙のように吹き飛んで絶命した。一撃であった。曰く、みなEランクの魔物で非常に貧弱なため駆け出し冒険者にとっては戦闘の良い練習になるという。依頼にはないが、素材は買ってもらえるため討伐後は狼の牙やゴブリンの耳を回収して袋に納めておく。

 そういえば昨日今日と、模擬戦にEランクとはいえ魔物を討伐という経験をした。レベルはどうなっているだろうと考えてユージンは〈心眼〉を念じる。





 名前:ユージン・フラット

 種族:人間

 レベル:6

 クラス:魔法戦士

 魔法適性:闇、???

状態:???

 スキル:心眼D、第六感C、???、???

 体力:D、腕力:B、敏捷:C、技量:B、魔力:A




 確認していくと確かにレベルは2上昇している。クラスもそう自認しているからだろう。だがスキルに見慣れない〈第六感〉というのが開示されている。



「なあ、ルベン。〈第六感〉ってのはなんだ?今し方〈心眼〉を使ったら表示されたんだが…」

「レベル制限が外れたのね…それは直感が冴えて衝動的に行動を起こしやすくなるわよ。〈心眼〉と違って当たりの部類ね」

「〈心眼〉も便利だと思うんだが…?」

「少なくとも冒険者稼業ではハズレよ。例えば魔物のステータスは殆どが非表示、対人においては大きな欠陥が――」


 


「おいお前ら遅いぞ…ってオリヴィエさん…とルベンだと!?」

「これはなかなか面白そうな組み合わせじゃん?どういうことかなぁ?」



 視界の奥には大きな洞穴があり、その前には二人組が屯している。リーダーと思しき杖を持った神官風の装いをした男が此方に気づくと声をかけてくる。その隣では軽装の獣耳と尻尾を生やした女が不敵そうな笑みを浮かべている。


 男は高身長で青い短髪を短く刈りそろえた、好青年という印象を受ける。だが目線は鋭い。何かを見抜こうとしているかのように、じっとユージンに視線をやっていた。

 対して女の方は、ルベンとオリヴィエの中間ぐらいの身長、160ぐらいだろうか。そしてショートの栗色の髪を揺らしている。ルベンと異なり、快活そうな性格をしている。だが一方であまり隠されていない肌からは蠱惑的な美をも感じ取れる。




「ルーシア、レッツェ、見ての通りよ。アタシはオリヴィエのパーティーに入ったのよ」

「昨日ギルドに行ったら既に脱退済みと聞かされて心配だったんだぞ!」

「…脱退の期限を定めてなかったし、元々成り行きで組んだパーティーだから言わなくても平気だと思ったのよ。悪かったわ…心配かけてごめんなさい」




 ルベンからの謝罪を聞いた二人は、あまり納得していない顔ながらもそれを受け入れる。




「アタイとしてはもう少し一緒に組みたかったんだけどなー。なんやかんや楽しかったんだよ?」

「ああ俺もだ。パーティー間の連携はよく出来てたし、仲も悪くはなかった…と思ってたんだがな」




 一見するとパーティー内の関係は良さそうに見える。それにもかかわらず、何の相談もなしに脱退するルベンは割と人間関係にルーズな考えを持っているのかもしれない。



「遅れてしまい申し訳ありません。貴方方が依頼を受理したパーティーでしょうか?」

「ああ、俺らはパーティー『絶海の禁秘』。リーダーは俺、解呪師のルーシアと…」

「アタイはCランク、斥候を務めるレッツェ。ルーシアもCランクやね」




 オリヴィエの謝罪に対しては何も気にしてないように二人が答える。どうせ看破されないからと即座に〈心眼〉を発動しておく。ルベンが面識はあるようだが、彼らの情報を持っておくに越したことはない。




 名前:ルーシア・イーチェン

 種族:人間

 レベル:11

 クラス:商人

 魔法適性:水

状態:正常

 スキル:空間拡張B

 体力:D、腕力:E、敏捷:D、技量:D、魔力:B





 名前:ビスラのレッツェ

 種族:獣人

 レベル:15

 クラス:冒険者

 魔法適性:風

状態:正常

 スキル:転移C、???

 体力:C、腕力:D、敏捷:A、技量:D、魔力:E





 能力値だけ見れば至極普通、あまりユージン・ルベンと変わらない。しかし解呪師のルーシアは「商人」、レッツェは斥候と言ったのにも関わらず「冒険者」と表記されている。

 これがさっきルベンが言いかけていた「欠陥」だと当たりをつける。こうも異なっていると、他のスキルや能力値もあまり信用するべきではないだろう。




「此方はこの私、Bランクのオリヴィエ、そしてCランクのルベンとEランクのユージンです」

「Eランク!?依頼条件に反してないとは言え大丈夫なんだろうな!?」

「ルーシア、安心しなさい。そこで冴えない顔して突っ立ってるユージンはオリヴィエと何合か切り結べる程度には戦えるわよ」



 EランクがBと戦えるなんて嘘だろ、とルーシアは返すが、ルベンは、事実よ、と発言を訂正しない。

 昨日の斬り合いでオリヴィエの剣筋を読んで的確に対処できたのは偶々…いや、恐らく〈第六感〉のおかげだろう。これが何処かのタイミングで発現して斬り合えたのだ。逆にそうでなければ、たかが学校体育で少し剣道をやっていただけの現代人が、この異世界で魔物との戦いに明け暮れていたはずの騎士と互角に渡り合えるはずがないのだ。




「いや運が良かっただけだ…殆ど実践経験はないからあまり期待してもらっても困る」

「ルベンが言ってるんだ。俺はお前の実力を信じるよ」

「アタイは…んまあ程々にかねぇ…?」

「ユージン、そこは謙遜せずに素直に誇りなさいよ…?他の悪どい奴らだったら法螺話と決めつけられて舐められるかもしれないのよ」



 


 幾ら冒険者関係が対等に「向き合う」ものとはいえ、流石に実力を詐称するのはいけないと思ったが、どうやらそうではないようだ。こうした態度は改めていく必要があるとユージンは実感する。



「それでオリヴィエさん、そっちはどういった予定を立てている?此方は今日から迷宮内にキャンプを立てて探索を進めていこうとは思ってるんだが…」

「私は日帰りでいいと思ってましたが…ダメでしょうか?」

「それ本気で言ってんのオリヴィエ?あまりに非効率的、そんな日帰り探索じゃ深いとこまで行けないわよ」

「アタイもオリヴィエの意見には反対、上層止まりであっという間に日が暮れるでぇ?」



 どうやらオリヴィエの探索観はズレているらしい。ソロ冒険者を続けてきた弊害か、迷宮探索が初めてなのか、ルベンとレッツェは口々に苦言を漏らす。



「オリヴィエ、僕らもルーシアの意見に乗るべきだと思う…多分僕の安全を考慮してのことだろうけど、平気だ」

「そういうわけではないのですが…分かりました、では今日は探索後一旦街に戻って準備を整えましょうか」



 今は冒険者として活動しているから、彼等のセオリーに則って探索すべきとの考えで、ユージンはオリヴィエに指摘する。何もかもが初めてのユージンを気遣ってたのだろうが、流石に足を引っ張るのはごめんだ。



「…ルーシア、余剰はあるかしら?」

「――ああ勿論!俺は「商人」だ、今ここで物品購入しないか?騎士様(・・・)?」




 ルベンがルーシアに問うと、ルーシアは頷き手を下ろしていた背負袋に伸ばす。






 ――すると中から袋以上に大きな、畳まれたテントを取り出す。

 そしてルーシアは「商人」としてオリヴィエと向き合い直した。





「袋から取り出したということは…。〈無限の選択肢(ヴィア・ストレージ)〉の類でしょうか?」

「…ただのスキルだ。オリヴィエさん、それはなんかの魔法か?」

「…オリヴィエ、もしそれが洒落だとしたらなんも面白くないわよ」

「アタイもよく分からないなぁ」

「いえ昔見た魔法に似てたもので…すみません」




 せっかくルーシアが真面目な顔して商談に入ろうとしたのにオリヴィエの謎の洒落で一気に場の興が醒めた。

 …だが正直名前のセンスにちょっとだけ惹かれたのは黙っておく。これ以上雰囲気を変にしたくはない。




「んで今俺の袋はここにいる二パーティーが節約せずとも、一ヶ月は迷宮内で過ごせるほどには物資が入っている。どうだい、安くしとくぜ?」

「…相場の何割増しでしょうか?」

「リストリーネ硬貨なら3割増し、と言いたいところだが…ルベンの顔に免じて2割でいいだろう」

「分かりました、有り難く買わせてもらいましょう。食料品や松明などの消耗品は日毎に必要分を購入、それ以外は貸し出しでも可能でしょうか?」

「いいぜ毎度あり!だが一応〈宣言〉はさせてもらうぞ?」





  〈俺は宣言する。目前の騎士と商談が成立したと。この場において双方嘘偽りの意思はない〉




 商談はスムーズに纏まったようだ。したり顔のルーシアはオリヴィエと突如現れた炎の中でハイタッチを交わす。どうやらこの世界ではあれが握手の代わりになるらしい。炎の壁はすぐに消え去った。



「んじゃ今回の探索における迷宮の事前情報の確認をするぞ?この迷宮は先日Aランクの魔物、カースドラゴン討伐時に偶然発見されたものだ。迷宮内に確認された魔物はDランクだが、この事実を踏まえて難度はCに設定されている。現時点では上層のみ探索完了で地図はある。それ以降の階層数は不明だが、最深部の探索は不要。ここまでで何か質問は?」

「…僕から二つ、最深部と分かる目印はあるのか?Cランク以上の魔物が出る可能性は?」

「…ユージンだったか?Eランクとはいえ迷宮の仕組みを知らないとか初心者か?」



 常識的に考えれば上層しか情報がないのに魔物のランクを断定し、階層数が分からないのに最深部が何処かなんて分かるはずがないという当然の疑問のつもりだったが違うようだ。



「…基本的にBランク以上が迷宮の主なのよ。あとルーシア、ユージンに対しては〈感知〉も合わせて諸々道中で教えとくわ」

「おいおいおい本当に大丈夫か!?不安になってきたぜ…」

「…もし足引っ張ったらアテは助けないよ」

 

 

 ルベンが代わりに答えるが、どうやらユージンが全く常識を知らない人物であると二人には伝わってしまったようだ。反応を見て失言に気づくと、ルベンは慌てて付け加える。



「ユージンはね、えっと…記憶喪失なのよ。それで色々と欠けたことがあるだけ。実力はさっきも言った通り確かよ…ね、オリヴィエ?」

「その通りです。彼は実際私の剣を防いでいます」

「二人のお墨付けがあるなら信用してもいいんじゃない、ねぇルーシア?」

「…まあいいか。だが何か不都合があれば直ぐに街へ戻って、依頼の達成難航を報告する。ユージン、聞く限りだとこの中でお前が一番の問題児だ。そこはよく肝に銘じてほしい」

「…勿論だ、僕だってこの依頼は達成したい」



 ルベンはオリヴィエに確認を取るようにフォローする。ルーシアとレッツェは半信半疑のようだが、取り敢えずメンバーとして、仕事は任せてもらえるようだ。





 ※※※※※※


 入り口は人一人入れるほどの狭さしかなかったが、内部は案外大きく、全員が離れて行動できた。

 隊形は後衛のルベンとルーシアを中心として、五感が人間よりも利くというレッツェを先頭に、左右斜め前にオリヴィエとユージンがそれぞれ配置された。また迷宮内ではメンバーの過半数と面識があり、後衛で戦況把握のしやすいルーシアがリーダーとして指示を取ることになった。






「止まれ。2時方向、およそ60メートル先に敵。足音から数は2、背を向けて歩いているから多分気づかれてない。指示を」


 ふと先頭のレッツェが足を止めてルーシアに判断を乞う。その言葉は先程のように朗らかな口調ではなく、情報伝達を重視したためか、短くはっきりとしたものだ。ルーシアは少し逡巡すると、



「ユージンが斬り込み、ルベンと俺で後方から援護。オリヴィエとレッツェは他の方角を警戒して待機」

「まあ程々…いや任せてくれ」



 わざわざ最初の魔物との遭遇にEランクのユージンを当てるということは、本当にこの探索において足手纏いか否かを判断する試金石としたのだろう。ユージンも当たり障りのないように返事を返そうとするが、先程の「舐められる」ことを思い出して言い直す。そしてユージンが両手に剣と松明を抱えて突っ込もうとする。



「松明は置いて行きなさい。大丈夫、光源は私が確保する」



 そしてルベンが〈火球〉を唱えると小さな炎が出現して、ゆっくりと前方の暗がりへと向かっていく。切れかけた電灯のように弱々しい光だが、足元の視界を確保するには十分だった。これなら相手にも気づかれることはないだろう。光に連れられてユージンは前へと進み、少し離れて他のメンバーも追従する。少し歩くと薄らと人型のシルエットを視認する。



 

 

 名前:

 種族:ワイト

 レベル:

 クラス:

 魔法適性:

状態:正常

 スキル:

 体力:、腕力:、敏捷:、技量:、魔力:



 一角うさぎの時と同じく能力値やスキルは不明だが、Eランク、Dランクあたりなら恐らく大したことはない筈だ。弱々しく先導していた炎がワイトの背中を照らすと同時に強く燃え上がる。一体のワイトが此方に振り向いたがもう遅い。松明を捨てて両手に構え直した剣を思い切り振り抜いて首と胴体を離れ離れにする。



「成功だ!よし、〈湍水〉!」

「〈火球〉!」



 もう一体のワイトは慌てて腕を振るうが、ユージンは斬った勢いのまま真横を駆けてそのまま回避する。続けてワイトは後方に回ったユージンに体を向き直し、正面切って向かおうとするが、不意にユージンの視界の下隅に崩れ落ちる。見れば何処からか流れてきた水流がワイトの足に勢いよく叩きつけられて転倒している。そして後方から迫り来る無数の炎に焼かれると、小さな水たまりの中で動かなくなった。

 …取り敢えず簡単な作業だったが、実力は示せたのだろうか。剣を鞘に収めて、ルベンから松明を受け取るとルーシアに問う。




「…どうだった?」

「及第点だな。先もこの調子なら迷宮探索するだけの実力はあると認めてやる」

「…僕が言うのもあれだが、随分とご立派な態度だな?」

「なに、ぽっと出のお前がうちのルベンと組んでるのがさっきから気に食わんだけだ」

「あのなぁ…僕としても何でパーティーに入ってきたのか、全く心当たりがないんだ。九分九厘僕は関係ない」

「それはそうだが…っ!」



「ユージンにルーシア、お前らさっきからずっと警戒してるのに喧嘩してる暇はあるのか?さっさと使えそうなもん拾っとくべきやない?」





 ルーシアと言い争っていると、レッツェが少し怒気の籠った表情で口を挟む。ルーシアの方を向くと黙って頭を何度も縦に下げて頷いていた。ユージンも同調すると、急足でワイトの遺物回収へと向かった。

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