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夢境のアルカディア  作者: 挟むギョウタン
第一章「王国編」
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初依頼

 オリヴィエに連れられて、雑踏を抜けていく。時間がないこともあってか、オリヴィエが店に入ると、途中店内が騒がしくなったものの、直ぐ商品を持って店の外へ出てくる。予め決めていたものを買ってくるかのような速度だ。買ったものを見ると、街の兵士が付けていたような、皮一枚で成形した胸甲や剣などを持っている。

 


 聞けば、魔力や腕力の高い適性からクラスは『魔法戦士』が良いだろうと考えてのことらしい。魔法戦士は適性にもよるが、後方での火力担当と前衛での火力担当を共にこなすもので、ルベンの『魔法使い』といった後方特化のクラスと比べて汎用性の高いクラスだと聞かされる。



 確かに一理ある。腕力と魔力の適性を共に生かすことができる魔法戦士は適切なものに聞こえる。汎用性と聞いて、器用貧乏なだけとも一瞬考えたが、接近された際の自衛手段があることは安心だ。ここは魔法の存在するファンタジー世界だが、蘇生魔法のような、所謂「コンティニュー」の要素があるかは未だ不明だ。命は一度きりだと考えて、素直にオリヴィエの提案に乗ることにした。

 この装備の代金は全部持つと言われたが、それは余りにもオリヴィエに頼りすぎで、寄生プレイのような感覚があったので断っておく。口論になるが、結局代金は無期限であるが後払いするという事で決着した。





 その後オリヴィエに買ってもらった装備に着替えていく。あまり馴染みのないものが多かったが、身長がほとんど同じで勝手が分かっていたからだろう、装備のサイズが体型とピッタリだったために着心地の方は悪くなかった。

 着替えている最中、オリヴィエは先日の巨大狼の牙や魔石、それと襲ってきた魔物の毛皮などを換金してもらっていた。皮はなめしておらず、他のものも獲ってから1日以上経っているとのことで金額は正規のものより差し引かれたと聞くと、頭が上がらなかった。ユージンと会わずに依頼をこなすことに集中していればそんな事は起きなかっただろうことを考えると申し訳なくなった。



 



 着替えも換金も済ませると、もう約束の時間は間近に迫っていた。二人して早歩きで街を駆け抜けギルドに辿り着く。ルベンは食堂で一人お茶していたようで、持っていた杯の飲み物を豪快に飲み干すとこちらに向かってくる。そしてルベンは着込んだ装備をジロジロと眺めてくる。





「軽めの衣類にショートソード。…装備と適性を考えると魔法戦士のようね、アンタ結構様になってるじゃない」

「…新手の嫌味か?」

「普通に褒め言葉よ、折角の賞賛は素直に受け取っておきなさい」




 


 意外だ。ついさっき別れるまではあんなにキツイ態度だったのに今はわりかし柔和な印象を受ける。そういえば自分の経緯に同情するかのような節があった。今は取り敢えずそのせいだろうと考えておくことにしたーー









※※※※※※




「いい?戦闘中は碌に会話できないけど連携を取る必要はあるわ。だから大体は共通の手信号を使うのよ。ここまでいいかしら?」



 


 分かったと威勢よく返事する。合流した後にすぐ街の外へと繰り出して、今は街道の外れにある雑木林に立ち入っていた。道中オリヴィエが先頭に立ち、最後方はルベンが位置取って警戒していた。

 中央で後衛職に護衛されるのはいい気分がしないが、冒険者一日目の初心者に警戒は任せられないとルベンとオリヴィエが二人して口にしたので渋々受け入れる。とはいえ街の周辺でここまで目立った脅威には合わなかった。余裕があるからかルベンから冒険者としての基本を叩き込まれていた。





「今この場で言われても、そう多くは覚えられないと思うんだが…」

「細かいのは追々言うわよ。取り敢えず二つだけ覚えときなさい。まずはこれ」




 そう言ってルベンは中指を立てて、手首を右に90度回転させる。…後の動きは分からないにせよ、明らかにファ○クのハンドサインだ。







「やっぱり僕のこと嫌ってるだろ、それはうちの故郷だと相手に対して挑発の意味があるんだ」

「やっぱりってなによ!これは前衛後衛の交代を手信号で伝えるものでそんな訳わからない意味じゃないわよ!人様がちゃんと懇切丁寧に教えてんのに茶化さないでよ!?」



 



 初対面のキツイ印象がどうしても抜けずに、言葉を悪いイメージで受け取ってしまう。




「本当にすみませんでした…是非もう一つのものもご教授願えませんか…?」

「まあ悪気がないのは分かったからいいわよ。もう一つは…各人の生命を最優先に逃亡せよの意味を込めた、あまり使いたくないやつね」



 



 と言って、右手を狐の形にして見せてくる。スタイルも良くルックスも良い同年代の女子がやるには少々キツイが、同時に微笑ましいものでもあった。ギャップによる面白さ9割、可愛さ1割というところか。ユージンは居た堪れなくなり目線を逸らす。






「…何よ」

「いや…良いものを見させていただきまし…た?」

「これ使う状況なんて悪い時だけよ!?アンタまさかさっきから揶揄う気でそんなこと――」







「静かに…一角うさぎを見つけました」



 オリヴィエが促すとすぐに、三人とも近くの草むらに隠れるようにしゃがみ込む。

 見れば現実のうさぎと同じぐらいのうさぎだ。違っているのは名前の通り、頭頂部に尖ったツノが一本座していることだけ。狩るのは容易だと思いつつも、目の前の一角うさぎのステータスを頭にイメージする。



 名前:

 種族:

 レベル:

 クラス:

 魔法適性:

状態:正常

 スキル:

 体力: 腕力: 敏捷: 技量: 魔法:




 〈心眼〉で得られた情報は殆ど皆無であった。僅かに「状態」だけは正常であると分かるが、それ以外には得られなかった。だが目前のうさぎと比べて自分が劣っているようにも思えない。実力差からくる表示の不可視とは考えにくい。…初めから見えないものなのだろうか?もしかしたらこれが微妙なスキルと呼ばれる所以なのかもしれない。





「ここからはユージン、君一人で狩ってみてください」

「え僕だけで?オリヴィエとルベンは?」

「私も見る側に回るわ。一角うさぎなんてすばしっこいだけの雑魚よ、これぐらいは一人でやりなさい」

「大丈夫ですよ、一角うさぎはそこまで強くありません。簡単にやれるはずです」



 



 二人とも簡単であるとユージンを後押しする。一角うさぎについては道中で聞かされていた。魔素によって生み出された魔物であるが、普通の「うさぎ」と特徴はそう変わらない。人への害も凡そ辺境における農耕地への被害が殆どだという。

 だからこの討伐依頼も、討伐というよりかは魔物の部位目当てであった。依頼主はとある商店の店主であり、依頼達成の際に発生する報酬の税金対策として「採取」ではなく「討伐」なのだ…とルベンが言っていた。一事業主の「討伐」依頼が、魔物の部位の「採取」であるのは冒険者の不文律だという。






「分かった…やってみるよ」




 そういってうさぎの前に姿を現す。うさぎはこちらに気づいているが、動こうとする気配はない。チャンスだ。

 オリヴィエは魔法とは願いの強さだと言っていた。闇属性がどう作用するのかは不明だが、しっかりと物理的に衝撃波が広がるような光景を思い描き、魔法を錬成出来るように強くイメージする。






〈我が願いに応じよ…全ては等しく無と帰す…僕は、世界は、お前――



「……!?待って!その魔法をすぐに止めなさい!」


 



 


 ルベンの静止の声にユージンは思わず詠唱を止める。だがその声に驚いたのか、一角うさぎは森の奥へと逃げ出そうとしていた。





「焦ったいわね…〈火球〉!」




 


 無茶な魔法発動こそ止めたが、目の前の獲物をみすみす逃す理由はルベンにはなかった。掌から炎の球が浮き出る。その球はうさぎめがけて一直線に空を切って飛んでいく。視界に映った光が消えると、少ししてから視界の少し奥の方から黒煙が立ち昇る様子が確認できた。ルベンはそんな黒煙を眺めるユージンへと詰め寄る。






「魔法を使うのに長ったらしい詠唱なんか要らないわよ!今みたいに目の前の敵が悠長に待ってくれるわけじゃないのよ!?隙だらけでどうぞご自由に攻撃してくださいっていう試合放棄みたいなもんよ!?」

「全くもって仰るとおりですルベン先生…」

「そもそも魔法使ったことあるの!?今の魔法、とんでもない量の魔素を操作してたけど自覚は!?」

「魔法の使用経験も自覚もありませんでした…」

「あー…じゃあ〈感知〉からやらせるべきかしら…?」




 



 ルベンが思案に耽っているのを横目に、ユージンは本気の叱咤に思わず項垂れる。確かに言われてみればその通りであった。別にアニメでもマンガでもないのだから、態々相手の大技をダラダラと待っておく必要はない。寧ろ悪意ある敵だったら、ルベンの言う通り絶好の機会と捉えて反撃に転じるに違いない。

 …正直に言うと浮かれていた。初めて使う魔法、しかも思い描いたイメージ、願い・詠唱がそれを強力にするというシチュエーション、興奮しない男子はいないはずだ。



 


 でもオリヴィエも。願いが、詠唱が、大事と言っていたではないか。それを思い出して、助けを求めるように視線を向ける。





「…私も詠唱を挟みますけど、いちいちあそこまで仰々しいものはやりませんよ」

「ええ!?オリヴィエも普段から詠唱を!?」



 



 オリヴィエが助け舟?らしきものを出すが、それにもルベンはあり得ないと言った表情で反論する。





「いちいち詠唱を捻り出すなんて時代錯誤もいいところ、今の時代、殆どは詠唱せずに魔法名や無詠唱で発動するのが基本形よ!?詠唱するなとまでは言わないけど…あぁモヤモヤするわねっ!」

「善処しましょう…」


 



 頼みの綱のオリヴィエもただ項垂れるだけだった。ただこれは怒りの矛先がオリヴィエに向いたと判断できる。今のうちに魔法の行末を確認すると言う名目で視界から外れるべきだと考えて立ち上がる――






「ユージン、元はと言えばアンタが悪いのよ?」

「あ、はい…」






 目線がしっかりと合ってしまう。目の前の悪魔に逃す気は毛頭ないようだ。もう諦めてお縄につくことにする。こってり絞られるだろうなと、覚悟を完了させてから面持ちを堂々とし直す。



「…今から言うことをよく覚えること、いい?魔法ってのは詠唱せずとも十分に威力を発揮できるわ。もちろん無詠唱もね。直接的な言葉が無くとも、イメージの伝達だけで大抵は事足りるわ」

「…それだけか?怒らないのか?」

「これだけよ、何も知らない奴に理不尽な理由つけて怒ったりしないわよ。…あとね、一つ聞きたいんだけど」



 



 てっきりルベンから怒号が飛ぶと思っていたので拍子抜けだった。その言葉は丁寧に物事を教えてくれる家庭教師のように思えた。勿論、その有難い忠告は頭にインプットする。






「さっき唱えようとした詠唱、あれ自前のものでしょうけどこの場で態々考えたの?」

「ちゃんとイメージが強くなるように格好良く、ゲーム…いや、御伽噺のような謳い文句を考えたつもりだ」

「今ここで、即興で?だとしたらアンタの感覚を疑うわ。何というか変に気取ってて気持ち悪いわよ」






 ――あれが気持ち悪い?



 


 ユージン自身、今の詠唱は失敗したものの、渾身の力作のつもりであった。イメージは魔王に対峙する勇者が起こすトドメの一撃。確かに一角うさぎ程度にこのようなイメージは大層仰仰しいだろう。浮かれていたから変に大袈裟にやったのも認めよう。だが少なくとも、カッコいいものとは今でも反芻出来る。それだけに「気持ち悪い」はユージンに酷く衝撃をもたらすものであった。

 ルベンやオリヴィエらのかける声に応じることも出来ず、しばらくただ項垂れるしかなかった――





 




 その後うさぎを見に行くとしっかり黒焦げになって息絶えていた。ルベンはナイフで頭部からツノを切り離して、背負い袋に投げ込む。ルベンが言うにはモンスター討伐の際は依頼達成の証明として部位を見せる必要があるという。後に残った遺骸は魔素として分解されるよう、腐敗が気にならない限りは放置していくのが基本だそうだ。この辺りはオリヴィエも言っていた記憶がある。



 再度一角うさぎを見つけるのに時間はかからなかった。ルベンとオリヴィエはもう一度、と単独での討伐を勧めてくる。その言葉を呑み込んで、先ほどと同様に魔法を準備する。



「…ユージン、多分魔法は失敗するだろうから剣を抜く準備をしておきなさい」

「…?あぁ分かった」



 さっきとは打って変わって、ルベンは魔法が不発に終わるだろうと忠告する。ユージンも魔法を自身で発動させたことはないので、素直に従い、不発に終われば剣を抜くという意識を持っておく。




「〈魔球〉!」





 先ほどルベンが意図せずとも実演して見せた小さいが絢爛と輝いていた炎の玉。これを参考にして頭の中で魔法のイメージを練り上げていく。

 ただ球に闇属性を纏わせるだけ、といった可能な限りで単純化した想像を頭の中で出力する。名前も殆ど変えないことでイメージをできる限り崩さずに、ただ魔法が成功するだけを考える。

 すると何かが集まる感覚を覚える。と同時に目の前に真っ黒いモヤのかかったようなビー玉サイズの球体が現れると、斜め下に一直線。うさぎを飛び越えて、そのまま地表に激突すると小さなクレーターを形成する。







  不発だ。幸い今回のうさぎは大きな音が鳴ったのにも拘らず、未だ動く気配を見せない。意識した通り、魔法による攻撃を断念して鞘から剣を抜く。

 特段変わった特徴を持たない、鉄製の両刃をもつ片手剣だ。オリヴィエのものよりかは短い、柄も合わせて60センチぐらいだろうか、見た目だけは軽くて取り回しやすい。だが剣を抜くのは初めての経験だ。重量に振り回されないように両手でしっかり握る。



 



 気配を悟られぬように、後方から忍び足で着実に距離を詰めていく。大丈夫、気づかれていない――――

 


 そして射程内に収めたと判断すると直ぐに、慎重な動きから一転、素早く剣を前方に突き出す。うさぎも背後から迫る殺意を察知したか、素早く顔を振り向くが時すでに遅し。背中から赤黒い血が吹き出すともにそのまま絶命した。






「終わったな…」



 



 胸がすく気持ちでいっぱいだった。人目さえなければスキップでもして気持ちを発散させていた。

 異世界にきて初めての魔物討伐を果たした達成感は、現実でどうやってもほぼ得られない快感であり、加えて用いた手段が現代の猟銃や魔法といった、直接手に伝わるものでなかったことに起因していた。

 拙いながらも剣を使って生物の命を刈り取る行為は、全身に何とも言えない感触を伝え、ユージンに「たった今、この異世界で、冒険者(・・・)として」生きているという実感を沸かせた。

 剣が生物を突き刺す際の感触に多少の不快感はあったものの、今得ていた快感の方が遥かに上回っていたのは、この先の魔物討伐を難なくやれるだろうという希望的観測を感じさせるものであった。

 そして外したものの、見様見真似でやった魔法がしっかりと発動させることができたのは、先の討伐と合わせて、ユージンに更なる感動を与えた。今日の依頼に対する感想を求められたら、まず初めに「楽しかった」と即答するほどには、今心臓は激しく鼓動していた。

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