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夢境のアルカディア  作者: 挟むギョウタン
第一章「王国編」
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ルベン

「はぁぁぁ…」



 私は憂鬱そうにため息を漏らす。オリヴィエとユージンが支度しに街へと繰り出した後、手持ち無沙汰でやることがない事に気付いたので正午まで食堂に居座って熱々の蜂蜜酒を注文する。勿論自身の酔うラインは把握している。把握した上で注文したのだ。何処ぞの業務中ですら酔っている女とは違うのだ。そう心で述べながら、一杯目を勢いよく飲み干す。

 背負い袋から新聞を取り出す。取り出したのはこの冒険者ギルドが不定期に発行している『ヴィブレ冒険者新聞』、名前の通り冒険者ならば必読すべきものだ。何度も読み返していてくたびれた雑巾のようだ。その新聞の一面はこうなっている。



『今話題のC級冒険者、単独でドラゴン討伐!』



 オリヴィエがこの街に来たのは丁度半年ほど前のこと。私も学院の単位を取り切り、卒論も提出済みでやる事無沙汰だったので冒険者稼業の真似事をし出したころだった。今でこそオリヴィエに多く羨望の眼差しを向けられているが、その頃は私かティアールに向けられたものだった。寧ろ初めは、オリヴィエに対して新人だがソロ活動しかしない薄気味悪い冒険者という印象が共有されていた。

 

 冒険者は本来パーティーを組む。ソロ活動だとやる事に限界が生じるからだ。幾ら強者であろうとも、数の力には抗い難い。

 例えば一人の剣士が四方から同時に襲われたとする。普通は対応できずそのまま地に伏せるだろう。たとえ無属性魔法の〈感知〉で攻撃の軌道を読み切ったとて、それに合わせて身体を動かして対応していくのは至難の業となる。

 

 加えて魔法適性も問題だ。属性ごとに行えることが異なっている。炎属性が威力に特化したものであり、水属性が被対象者の状態を改善する、同名称のスキルと同効果の〈解呪〉が使える、といったものだ。

 私自身、スキルの恩恵で全属性の効果はある程度保証されているが、体系化されていない闇や光は勿論、適性外の風や水といった魔法を行使しようとは思わないし、効率的でない。せいぜいが使い勝手の良い無属性魔法を併用するぐらいだ。もし全属性を操る者がいるのなら…そんな事が可能なのは世界にただ一人、学友として付き合っていたエスタータだけだろう。

 そもそも効率を重視するならば、イメージでなく魔法式を――逸れた。…私の悪い癖だ。魔法のこととなるとそれにしか目が向かないのだ。




 思考を戻す。オリヴィエは本来纏まって行動する冒険者の中でも、ソロ活動のスタイルを一貫させていた。だがその実力は確かで、グングンと冒険者のランクを上げ続けていった。そしてつい先月にはヴィブレーヌ大森林に突如出没したカースドラゴンをも討伐してしまった。本来ならば、A級冒険者も入れたパーティーで無ければ討伐できないような難敵だ。

 実際街一番、否、この大陸一の実力者とされていたA級のティアール…あの御坊ちゃま(・・・・・)は討伐に失敗して国許に帰ってしまった。

 

 …まあ、十中八九「政変」の影響でもあることは容易に推測出来るが。

 こうした未曾有の危機のなか、オリヴィエはたった一人でドラゴンを討伐した。あの日はまさにヴィブレの英雄が誕生したような日だった。




 その頃からだろうか、私はオリヴィエに憧れを抱くようになった。元々外見だけなら同年代、冒険者をやり始めたのもほぼ同じ時期で気にはなっていた。時折あの端正な顔立ちをギルドで見かけては、自然と目で追うようになっていた。

 そうした中で昨日オリヴィエは風変わりな格好をした男を連れてやってきた。私を含めた周りの人は、最初は依頼の上で連れ立ったものとばかり思っていた。




 そう考えていたが、現実は予想の斜め上を行っていた。あろう事かオリヴィエはその冴えない奴、ユージンという男とパーティーを組むと言い出した。しかも、その言動からオリヴィエが多大な信頼を寄せているとも分かった。これには思わず解体用のナイフを懐から取り出して問い詰めようとしてしまった。幸い同じパーティーメンバーの(ルーシア)に取り押さえられて事なきを得た。


 

 兎も角、オリヴィエたちが去った後、掲示を張り出すより前に受付のお姉さんにパーティーへの加入申請をした。何処の馬の骨とも知れない男がオリヴィエに近づくなんて許せない、きっとオリヴィエは騙されているに違いない。あの時はそんな義憤の思いでいっぱいいっぱいだったのだ。



 直後、パーティーの仲間(ルーシア)からはあまりに激情的すぎる、お前らしくない、と叱咤を受けた。これは私もそう思っている。周囲に気が強い女という印象を与えているというのは自覚している。だが、あそこまで頭に血が上ったのは初めてだ。今思えば、何故あそこまで怒っていたのか。正直よく分からないのである。確かに不満の一つも漏らしたくなる出来事ではあったが、それだけのことだ。




 明朝、ギルドの中で入り口に目をやりオリヴィエたちが来るのを待つ。

 そしてオリヴィエが受付に行ったのを見届けた後、ユージンと食堂に腰掛けて朝食を頼む。食べている間、ずっと腹を鳴らしていたのが非常に不快だったのでパンを一個手渡す。食事の前後、ずっと無言で私自身不貞腐れていた。だが昨日のことで不機嫌な上に、目の前の男が初めは自分の食事すら注文せずに腹を鳴らし続ける姿には虫唾が走った。このぐらいは許して欲しい。



 

 だが話してみると、ユージンに抱いた印象は「物腰の低い田舎者」だった。当初考えていたような、オリヴィエを誑かした悪人であるとは到底思えなかった。しかもスキルといい、冒険者の常識といい、この国なら幼子ですら知っているような知識ですら欠如していた。

 情に任せて思わず出身を問いただしてしまったが、得られた回答は南方の辺境であるという事。今現在、南方大陸の開拓地や共和国は最南部の魔王領と隣接していて、「第二次大戦争」の最前線となっている。

 共和国の軍を中心として、未だ直接の侵攻を受けていない国々からも援軍を派兵されているものの、南方の被害は甚大で戦火によって故郷を追われた者は数知れないと聞く。




 ユージンはこの戦火によって北方まで逃れてきたのだろう。ステータスの「状態」が不明瞭で、世間に疎いのはきっと何かショッキングな出来事があったために起きた記憶喪失かそれに類する状態に違いない。そんな中でオリヴィエは彼の身の上に同情して世話しているーー

 事情として考えられるのはこのような具合だろうか。



 ふと目を上部の時計にやるともう正午だ。ふと視線を入り口に移すと先の二人が入ってきている。少しは優しくしてやろう、とユージンに対する態度を改めて考えながら、机の上で冷め切った蜂蜜酒を勢いよく飲み干した。



 


 冒険者として活動できるのも残り二週間、精一杯楽しみたい。どうせなら楽しいまま終えたいのだ。

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