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夢境のアルカディア  作者: 挟むギョウタン
第一章「王国編」
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顔合わせ

 典型的な魔法使いの風貌をした女性、ルベン・エト・ミイル・ヴィブレと共に、ユージンはギルド内の酒場の席に腰掛ける。どうやら日中は食堂を営業しているようで、疎らに座った人たちは湯気の立つ飲み物や謎の焼き物を口に運んでいる。

 



 席に着いてからというもの、ルベンは終始不機嫌そうだったが、ユージンの方に視線をやると、注文していたパンを一つ無言で差し出してくる。思えば昨日この世界に来てから何も食べていないせいか、腹がずっと鳴りっぱなしで、聞くに絶えなかったのだろう。厚意に甘えて、パンを受け取ると頬張る。正直固くて美味しくない、パサパサとした食感を覚える。品質は現代のパンとは比べるまでもない。


 対してルベンは手元に自分用に注文していたスープにパンを浸してから口に運んでいる。チラチラと覗くと、豆やイモのようなものがそこそこの量入っている。異世界風の変なものが入っている様子はない。ユージンも付近で配膳する者に声をかけて同じものを注文した。流石に手のひらより少し大きいぐらいのパン一個では空腹を完全に満たすことはできない。オリヴィエには後で支払いをお願いしよう、と心の中で謝罪する。


 運ばれたスープからは調理して少し経っていたのだろう、器から緩くなった感触が伝わってくる。そして恐る恐る口を運ぶ――軽く塩辛さを感じる。少量の塩だけで味付けしているだけのスープだと分かる。続けて中の具材も味わっていく――普通に美味しい。恐らく見た目と味からはひよこ豆とじゃがいもだと判断する。異世界ということから料理に変な物が混じっているか不安ではあったが、農作物はある程度変わりないと分かったのは大きな収穫だった。少なくともこのスープとたった今浸して食べているパンは美味しく食べれている。空腹で料理を食べ切るのに時間はそうかからなかった。


 


 少しすると、メンバー追加の確認を取っていたオリヴィエが依頼書を持って、間に割り込むようにして席に着く。オリヴィエが戻ってくるまで、不貞腐れた態度を取るルベンとは無言で気まずい状況だった。



「先程確認をとってきました…歓迎しますよルベン」

「えっとルベン…様?これから宜しくお願いします」


 


 先程の名乗りから恐らく彼女が上流階級の出身であると当たりをつけて丁寧に挨拶する。いつ何処でもこういった礼儀作法は大事だ、初対面の相手に好印象とは言わずとも、悪い印象は与えないだろう。




「ハァ!?…〈向き合い、探らず、愛さない〉よ、敬語を使わないのも常識の内よ、知らないの!?」

「…すみませんが聞いたこともないです」


 


 ルベンは信じられないといった顔でこちらを見る。何か不味かったのだろうか。そういえば昨日、受付嬢のアイステアさんが同じような忠告を言っていた覚えが――




「落ち着いてくださいルベン。ユージンはとある事情で世間に疎いのです。」

「だからってこれすら知らないの…?仕方ないわね、一度しか言わないから耳かっぽじってよく聞きなさい。冒険者は身分・年齢問わず対等な立場で、進んで生い立ちや事情を深く掘り下げず、パーティー間の恋愛沙汰は禁止、これはパーティー内の調和を保つための鉄則で、子供の頃から何度も聞く機会はあったわ。まあオリヴィエみたいな感じならギリギリ大丈夫よ」


 


 ルベンはやれやれといった表情で説明する。成程、確かに現代でもサークル活動や市民活動においては今挙げられたことが発端となって活動不能に陥った例は聞いたことがある。冒険者パーティーも互いに深く干渉しないビジネスライクなものだと理解する。少々抵抗はあるものの、郷に入っては郷に従えの精神でルベンの物言いに素直に従う。



「だからユージン、アンタもアタシのことはルベンと呼びなさい。このパーティーにおいてはただのルベン(・・・)よ」

「分かったよルベン、これからはそう呼ばせてもらう。…〈心眼〉を使っても?」


 どうせこっちからは分からないから構わないわ、と言ってルベンは快諾する。ここまであまり会話できていなかったが、興奮で体が震えそうだった。異世界でのパーティーに新たな仲間が加わる、ゲーム好きのユージンにとってはリピドー高まるシチュエーションだった。そんなユージンが仲間のステータスを覗きたいのも当然のことだった。

 


「スキル、〈心眼〉」

「…っ!?」



 鳩が豆鉄砲でも食ったかのような顔をしたルベンをよそに、ユージンは〈心眼〉を唱える。



 名前:ルベン・エト・ミイル・ヴィブレ

 種族:人間

 レベル:13

 クラス:魔法使い

 魔法適性:炎

状態:正常

 スキル:全属性適正C、???

 体力:D、腕力:E、敏捷:C、技量:D、魔法:S



 脳にステータス表示が流れ込んでくる。レベルはそこそこ、スキルも名前からして強力そうで、魔法適性も最高位階のS。ルベンもそこらの冒険者よりかは強いと目星をつける。強気な態度は自身の実力に裏打ちされたものだろう。



「なんでアンタは〈心眼〉にすらいちいち詠唱を挟んでんのよ!?〈心眼〉なんて簡単なスキル、無詠唱でいいでしょうに!…頭の中でイメージしてからもう一度やってみなさい」

「スキルも無詠唱で出来るのか…?わかった」


 


 ユージンはもう一度ステータス表示をイメージしてから心の中で〈心眼〉と唱える。すると先に見た表示と同じのものが再び流れ込んできた。




「冒険者の決まり事は知らない、スキルも詠唱を挟んで効率的じゃない、一体全体どこの田舎者よアンタは!」

「あっとえー…南の方の辺境から遥々来たんだ。だからあんまり知らなくてだな」


 


 ルベンの物言いに釣られて、たった今適当に思いついた経緯を語る。この世界の地理も情勢も何も分からないから、これでルベンが納得するかは神のみぞ知るところである。…こちらの世界に神はいるのだろうか?




「南の辺境…南だけど帝国は辺境とは呼べないし、都市連合も同様に呼べない…。もしかして南方大陸の開拓地か共和国かしら?あぁ、なら昨日の状態表示が見えなかったのも辻褄が…。成程、ごめんなさいねユージン。もう少し事情を考慮すべきだったわ」



 何やらぶつぶつと呟いていたが、納得は出来たらしく謝罪を入れてくる。よく分からないが、この適当な経歴は人を納得できるものだと分かったのも幸いだ。後になっても使っていけるだろうと考えて、思い付きの設定を復唱できるように今一度頭に叩き込む。





「…取り敢えずこれぐらいにしときましょうか?」

「「あ…、はいすみませんでした…」」


 


 隣を見るとオリヴィエが不穏そうな雰囲気を漂わせて威圧してくる。今まで彼そっちのけで会話に没頭したせいで、ずっと蚊帳の外だっただろう。自身も会話から置いてきぼりにされたらいい気分はしない、当然だ。



「…でも最後にもう一つだけ言わせて。なんでユージンがリーダーなのよ。オリヴィエの方が実力は圧倒的に上、冒険者に関しての知識も豊富なはずよ」

「…冒険者は深く事情を詮索しない。あなたが先ほど言ったことです」

「いいえ、その文句は使えないわ。これは個人の問題というよりパーティー運営という共通の問題よ。オリヴィエ、少なくともその不文律を当て嵌めるのは合理的でないからアタシは納得しない」


 その通りだ、とルベンに頷いてオリヴィエに反対の意を示す。ルベンの言っていることは何も間違っていないし、実際何故オリヴィエがリーダーにならなかったのかは不明なまま。こんなパーティー運営を容認しろというのは不満が出て当たり前の話だ。

 ユージンは厄介な事この上ないと思う。

 オリヴィエという男はやたらとユージンに対してのみ無条件の信頼を寄せている。対してユージンにはそこまで信頼を寄せられる理由が分からない。彼が詐欺師で騙そうとしていると見知らぬ誰かに警告されれば、逡巡した後に肯定するだろう。それぐらい分からないのだ。



「…分かりました、何処かのタイミングでリーダー変更だけはしましょう。それで今日することなのですが――」





 そしてオリヴィエはルベンの言い分に納得してから予定を話し始める。昼までにユージンの装備を整え、正午に再びギルドに集合。集合した後出発し、街付近の街道から外れたところで依頼をこなすという。依頼書を見せてもらうと、「一角ウサギ2匹の討伐、期日は30日まで、ランクはE、討伐証明は忘れずに」と記してある。




「…すまない、暦が分からないから期日ってのも分からない」

「今は新生歴312年リューネの28日、期日まで余裕は有りますが今日だけで達成は出来るはずです」

「リューネ…?ああ7月のことね。古代文字発祥の旧暦を使う人なんて久々に見たわよ…」

「…旧暦というよりかは私の出身だとこちらを使っていたのですよ」


 エルフなら確かにそうかもしれないわね、とルベンは頭を縦に揺らす。ここまで一連のやり取りを聞いていると、恐らくオリヴィエも世間の常識に疎いのだろう、ルベンとの間で時折話が噛み合っていない。先のスキルだって、オリヴィエは初め詠唱を挟むと教えてくれたがそうする必要は無かった。

 そういえばオリヴィエは学問的な魔法を修めていないと言っていたことを思い出す。一方でルベンは名前からして貴族である。少なくともこの辺りの常識ならば詳しいのはルベンの方だろう。ユージンは、今後分からないことを聞く時はルベンに聞くべきだと考える。




「依頼自体はBのオリヴィエとCのアタシがいればすぐに終わるわ。でももうお昼前よ?準備するならそろそろ解散するべきじゃない?」

「そうですね、では…」




 オリヴィエとルベンは、遅れて自分も、立ち上がって席を引き払う準備をする。ただ最後に新しい仲間には宜しく伝えねばと握手を求めて手を差し出す。コミュニケーションは最後までしっかりと丁寧にするべきだ。



「…?何かしらこの手は?」

「握手っていうんだ。手と手を軽く握り合う事で互いの信頼関係を確かめ合う…南の習慣だ。」

「そう、ならこれから宜しくねユージン。…くれぐれも足引っ張らないでよね?」




 握手にすら咄嗟に適当な理由を付けてしまったが、無事に応じてもらえる。ルベンの小言には、勿論だ、と言って力強く頷いた。

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