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夢境のアルカディア  作者: 挟むギョウタン
第二章「帝国編」
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教皇国〈2〉

 「両替、感謝するよ。今日も教皇国の武具を仕入れにしたんだが、市場の流通量はどうなってる?」

「それなんだが…実は殆ど流れてこなくなったんだよ。だからとんでもない程に高騰してる」

「おっとそれは…祭りが近いってのに「聖戦」をやる気なのか?」

「多分そうだろうが…いやはや困った話だ」

「全くだな、同感だ」

 ルーシアは目の前の両替商と共にやれやれと首を振る。「商人」の彼らとしては、市場が著しく乱れる戦争は喜ばしいものではないのだ。


 当然開戦当初こそ、急激に物価の上昇する軍需物資を保有してれば儲かるだろう。しかし戦争直前の急激な物価高騰や戦後に起きる市場の混乱を考えると、トータルで見積もればマイナスにしかならない出来事の一つなのだ。

 一方で国は違う。商人的価値観の根強い、「冒険者ギルド」主導のムジーネ都市連合なら別だろう。

 だが大半の国家は、一見して非合理的な理由を以て戦争を行うことは当たり前である。

 例えばリストリーネ王国ならば「未回収地」の奪還として。

 例えばレーベ帝国ならば皇帝の御意向次第で。

 例えば教皇国は教皇の御意向次第で。

 特に教皇国は好戦的な国である。2年に1回は世界平和のためとして「聖戦」を実施するのである。


「…上流・中産階級向けの魔法具、これの流通はどうだ?」

「ああ、それなら武具ほどは上昇してないね。せいぜいが1.3倍といったところだな」

「よし決まりだ、有難う」

 そう言って感謝を示すハイタッチを交わす。

 そしてルーシアは両替商から魔法具を取り扱う工房の話を聞き出した後、情報料として数枚の硬貨を渡すとその場から立ち去る。



 魔法具専用の工房は然程遠くはなかった。ノックをして丁寧に要件を伝えると、出て来たのは蜥蜴人(リザードマン)の男性。たった今作業してました、とばかりに汗を滲ませた布を頭に巻き付けている。

 中に入るよう促され、応接間のような小綺麗な椅子と机が並べられた場所へと案内される。


「初めまして、ムジーネ出身のルーシアと申します。こうして巡り会えたのは、ひとえに聖者様の御導きに依るものでしょう」

「珍しいな、余所者だったか。…オイは其処まで信仰に拘ってねぇ。無理に聖者様で無く、神に祈っていい」

「ハハ、そうでしたか。これはとんだご無礼を」

 無駄な心配だったな、とホッとする。教皇国は公式に神の存在や信仰対象としての否定はしていないが、信仰の最頂点としているのは神ではない。

 あくまでも聖者様・・・こそが、現世における至高の存在で崇め奉るべき存在であると捉えているのだ。そして教皇国の住人の中にはこれを気にする人も多い。

 こうした事情もあって、他の巡礼者との応対を見ていた門の兵士や顔見知りとは違う、目前の蜥蜴人に対しては別の挨拶を示したのだ。

「さて…お前さんは珈琲か紅茶か…どっちが好みかな?」

「…珈琲ですね」

 蜥蜴人は「ならば直ぐに出せる、少し待っててくれ」と言って奥に引っ込む。

 少しして珈琲を二杯持ってくる。今し方飲んでいたのだろうか、今から抽出するにしては早すぎるとは思った。

 案の定少し香りが落ちているようだが、口に含んだ感触は悪くなかった。


 ――ルーシアは珈琲よりかは紅茶の方が好みである。

 だが、紅茶が長い伝統を持っていて未だ上流階級の飲み物で有ると認識されている事。

 蜥蜴人が口ぶりからあまり作法に拘らない類の人であると推測した事。

 これらの事実を踏まえて、少しでも心証を良くしようと考えた末の選択であった。 



「それで…魔法具の取引だったか?知ってるとは思うが、今は武具の値段が高騰している。魔法具の大半はそこそこの値段がかかるぞ?」

「ええ、重々承知しています。ですから、生活用の魔法具、例えば抗魔具とか。魔物が滅多に出ないこの国ならば、需要も殆ど出ていない筈。如何でしょうか?」

「ああ、それなら大丈夫だ。殆ど相場は変わってねぇ。とはいえ在庫の分は少ないぞ?」

「構いません。相場が殆ど変わらない魔法具を中心に購入したいのです。そして出来れば機能性というよりかは装飾華美なものを中心に」

「…ってことは王国向けか?」

「ええ、王国の御上(おかみ)は見かけを取り繕う事を第一として執着しますからね」

 そうか、と一言だけ呟くと蜥蜴人とルーシアは取引内容を細かく詰めていく。

 蜥蜴人が矢継ぎ早に取り出していく魔法具を、注意深く観察する。不良品があっては堪らない。

 そして一通り購入を決めると、先ほど両替を済ませた通貨を用いて支払う。勿論〈宣言〉は忘れない。初めての取引相手で且つ、そこそこ大きい商談だったのだ。

 ルーシアにとっては、出来る限り徹底しておきたいと考えるのは当然のことであった。


「毎度あり。お前さん、コイツらを積む馬車がないようだが何処か別の場所に停めてるのかい?」

「いいや?俺にはこれが有るから平気だ」

 そう言って、ルーシアは〈収納〉の魔法を掛けた袋に大きな魔法具の一つを押し込める。袋は特段膨らんだ様子は無く、平べったいままであった。

「おお〈収納〉か…!ただでさえ、余所者が商人してるのが珍しいってのに、それに見合ったスキルもあるのかい?」

「ええ偶々運が良かったもので。…この国では違いましたっけ?」

「ああ、みんな10歳になると『聖別』を受けるんだ。多分この時間帯ならそろそろ広場でやるんじゃないか?良かったら去り際に見てくといい」

 是非そうさせてもらいます、と言ってルーシアは他の魔法具も袋にどんどん詰めていった。

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