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夢境のアルカディア  作者: 挟むギョウタン
第二章「帝国編」
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教皇国

 リストリーネ王国のヴィブレから北東の街道沿いに馬で駆けること2日半。道の脇にある王国が運営する駅で馬を替えながら、自分と同じ神官服を纏った人々をぐんぐん追い越してゆく。

 その先にある都市はフェーデという、大国の一つとして数えられる、アリアンディーゼ教皇国の首都である。


 ルーシアが態々こんな所までやって来たのは商談のため。教皇国製の魔法具を求めてのことであった。ヴィブレのものより一回り大きく絢爛な門で兵士に呼び止められる。


「今日は何の用でお越しでしょうか?」

巡礼(・・)と商談です」

「通行証を拝見しても?面倒かとは存じますが規則なもので」


 ルーシアは慣れた仕草で懐から冒険者ギルドの登録証を取り出す。教皇国は建国当初から一貫して冒険者ギルドを国内から排斥しているものの、依然として訪れる者の身分証明手段としては有効である。


「通って大丈夫ですよ。神のご加護が在らんことを」

「ええ、貴方にも神のご加護が在らんことを」


 門を潜ると直ぐに見えるのは商店が立ち並ぶ通りである。ヴィブレよりかは人は少ないものの、日中の賑わいは遜色ない。

 他方ヴィブレの大通りが木造建築主体であったのに対して、ここフェーデは石造りの小綺麗な建物が多い。また街灯は建物に吊るす形式ではなく、道の脇に備え付けられ、地中浅く埋められた『魔法線』から魔素の供給を受ける仕組みとなっている。

 ルーシアは街の風景を見て純粋に感心する。

 教皇国は国の規模だけで言えば非常に小さい。この首都と付近の街や村を合わせても集住地は10かそこらである。

 それにも関わらず大国の地位を保有しているのは、他国の追随を許さぬ魔法技術の発展に起因している。

 だがその技術は国是のために流出することは殆どない。

 フェーデ教総本山における国是の実践は徹底したものであり、実際、教皇国は各国との公的交流は「慈善活動」を除くと、全て絶っている。魔法を禁忌であると主張するニベレ共和国に対しては「大罪国家」として断ずるほどである。


 良い国なのに面倒だな、などと思いながら顔馴染みの両替商の元へと赴く。ルーシアが教皇国で商談する時は毎度相場や教皇国内の情報確認も合わせて利用している。

「やあ、久しぶりだな兄弟。今日は何の用だい?」

「久しぶり。んで先ずは両替だ。リストリーネ王国と教皇国の交換比率はどうなってる?」

「小銅貨と銅貨、小銀貨なら教皇国と王国で1:3ってところだな。銀貨は1:2で金貨は小金貨含めて1:1だ」

 神官服に身を包んだ中年の男性がそう答えるのを聞いて、ルーシアは首を傾ける。

「三ヶ月前に来た時はどれも1:3だったじゃないか。何かあったのか?大きい「聖戦」でも?」

 教皇国は世界的に広く信仰されているフェーデ教の総本山である。

 その教義が慈愛に満ちたような、平和を促す内容の一方で、大元たる教皇国は好戦的な国家としても知られている。

 亜人種・人種問わず「世界の調和を乱している」と判断した国に対しては、軍が派遣されて「聖戦」が実施されるのだ。

 そして「聖戦」が行われる前後には決まって相場が著しく変化する。

「それもあるだろうが…ほら、そろそろ『独立記念祭』が近いだろう?そのせいで王国・帝国の通貨が余剰気味なんだよ」

 そうだった、とルーシアは失念を悔やむ。


 教皇国は歴史的な成立背景として「大戦争」直後のリストリーネ王国との戦争が契機となっている。

 当時人間によって殆どを構成していた王国としては、北東に突如出現した新興宗教集団の指導者―教皇が魔族と亜人の混血であることは断じて許されないことであった。

 加えてそういった素性の教皇が「人間・亜人・魔族の調和・世界平和」を訴えることなどもっての外。

 王国は戦争で荒廃した国内を顧みずに、半壊した軍を纏めて「叛乱」の鎮圧を試みた。

 しかし結果的には失敗に終わる。

 教皇を中心した宗教集団が当時から魔法技術が卓越していたのも一因ではある。だが大きな要因として、同時期に王国内で当時奴隷身分であった亜人による蜂起が発生していたことも挙げられる。

 こうして教皇を頂点とした集団は、戦争終結後に教皇の名前に由来したアリアンディーゼ教皇国を建国。国都も宗教名から取った、「フェーデ」を冠された。

 そして教皇国は建国の日を『独立記念祭』と称して祝う。この時期になると毎年多くの巡礼者が訪れる。

 巡礼者の内訳として多いのは近隣の帝国やリストリーネ王国からの者たちである。苛烈な国是とは裏腹に、フェーデ教は各国に救貧院や施療院を設立しての「慈善活動」を行うので、北方大陸を中心として広く信仰されているのだ。


「ならば仕方ない、これはどうだ?ムジーネの通貨だ」

 ルーシアは国許から幾らか持って来ていた奥の手を両替商に見せつける。

「高純度が売りのムジーネ通貨!コイツはこの国じゃ流通量が少ない癖して、巡礼者の中には帝国・都市連合の高い手数料を嫌って交換する奴は多いからなぁ…銅貨から銀貨まで全部1:1、金貨類は1:2だ。どうだ?」


 それはムジーネと教皇国の比率だよな?と確認してから両替を行う。ムジーネ金貨と銅貨を合わせて数十枚、〈収納〉を掛けた袋から取り出すと、それに応じたアリアンディーゼ通貨を受け取っていく。

 アリアンディーゼ通貨も王国や帝国と比べれば純度は悪くないが、やはりムジーネには劣る。手にした一枚の通貨をひっくり返すと、そこには教皇国内の信仰の最頂点に位置する「聖者様」を形取った横顔が彫られている。

 面倒な国を作ってくれたもんだな、と思う。

 そしてルーシアは何気なく通貨を袋に投げ入れるのであった。

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