流転
「…状況は?何が切っ掛けで死ぬの?今までの的中率は?」
ルベンは冷静になって聞き出す。一瞬いつもの冗談であるかと思った。
しかし真面目な表情であったために、アイステアの言が「真」であると仮定してひとまず話を進める。
「切っ掛けはユージン君が冒険者になる事。ルベン、貴女は薄暗い場所の中、後ろを振り返る。そこに立つ誰かに満面の笑みで微笑む。そしてその後脇から飛んできた光によって貴女は胸を貫かれる」
「ふーん…アタシが最後に聞いたのだと、確認した2人は当たったんだっけ…?」
「そうね。〈天啓〉はいつ発動するかも、誰に対して発動するかも分からないもの。偶々見えたところで、その事実が実際に起きたか確認のしようが無いことも多いけれど、当たった事はあるわ。」
…一体全体何故ユージンが生死に絡むのだろうか?ルベンとして不思議でたまらない。
だが情景には心当たりがある。恐らく先日の迷宮で魔族と戦闘した事だろう。そう考えると、
「姉さん残念ね。〈天啓〉は外れたようよ」
「そう…?明確に外れたと確定したこともないのだけど?」
「その情景に心当たりがあるの。でも外れたから平気よ」
――実を言えばルベンは納得し切ったわけではなかった。その情景がもう過ぎたものであると断定はできないからだ。
だがこれは次に考えていることへの決意を鈍らせてしまうと判断し、少しだけ話題を遮す。
「ということは姉さん、アタシが今日聞きたかった、ユージンが冒険者に向いてないって騙そうとしたのもそういうことかしら?」
「正解〜。彼の口ぶりからして世間知らずのようだったからね」
通常、冒険者とは適性をある程度見た上でギルドへの加入の可否を判断される。秀でた適性がない場合は基本的にEと表記されるためにユージンの適性は魔法がAであるだけでも、加入を蹴る合理性がないのだ。
「…それ受付嬢として失格じゃない?」
「私があなたとユージン君を天秤に載せた、それだけよ。どの道、オリヴィエさんもユージン君も世間知らずだろうから気づかないかなって思ったし」
アイステアは特段悪いことはしていないといったように手を大っぴらに広げる。
ルベンもアイステアの気性は理解してるので、それ以上理由は求めなかった。
「それで彼ら、オリヴィエさんとユージン君はどうなのかしら?」
「…どうって?」
「彼らの素性とか諸々よ。オリヴィエさんは珍しいソロ冒険者で、ユージン君はそんな彼と組んだぽっと出の新人。私だって、ちょっとは気になるわよ?」
「…アタシだって知り合って数日よ。でも分かった事を言うのなら、二人とも普通じゃない」
「というと?」
「…それだけね。アタシだってみんなのことをちゃんと理解してるわけじゃない。此処で陰口のように叩く趣味はないわ」
「レッツェさんの時は文句ばかりだったのに…入れ込んでるのね」
「レッツェの悪癖は彼女自身認めてるじゃない?それとは話が違うわよ」
ルベンの無難な返答にアイステアは一言同意を示すと、席を軽く動かして立ち上がる。
「そうでなくてももう辞めるんでしょ?冒険者。なら気にする必要はないじゃない」
「……!そ、それはあくまでも良識ある冒険者として…」
狼狽えるルベンを尻目にアイステアは続ける。
「その反応でルベンちゃんが次に何をしたいか想像ついたけど…後悔しない方を選びなさい、とだけ言っとくね」
そしてアイステアは椅子をテーブルに向けて押し入れる。
「じゃ、今日はお食事ありがとうねー!支払いは貴女の分まで先に済ませたから帰るわね?」
「…貴族として来てんのに、平民が払うだなんて面目立たないじゃない」
個室で一人になったルベンは悪態をついた。
※※※※※※
ルベンは照明用の炎属性魔法を発動し続けながら、2冊の本を広げる。
一冊は『王国文書』の写本。近年は王国内でも木版印刷が盛んとなり、こういった古典の入手はある程度しやすくなった。先に話題を出した「ステータス」に関する項目の載る頁を開く。
もう一冊はいま流行のラブロマンス小説である『蒲公英の国の騎士と姫』。
確かに流行しているのも納得だ、と『王国文書』と「一文ずつ並行しながら読み進め」て感想を抱く。
照明用の魔法を発動しながら、多くの本を並行して読み進めるという、一見して不合理な動作は就寝前の習慣であった。
ただ時短したいだけなら、魔法を発動し続ける必要はない。
中に詰まった発火の元となる魔石に対して、一度きりの〈焼却〉を行えば燃え続ける魔灯を使えばいいだけの話だ。
これは特別高価な代物ではなく、街灯や個人所有もされていて、広く普及している魔法具である。
加えて並べた本を眼を忙しなく動かしながら、内容を同時に覚える必要もない。そもそも一冊ずつ読んだ方が理解は確実に進むし、読了速度も段違いである。
それにも関わらず、面倒な習慣を課しているのは、ひとえに思考に負担をかけて、並行して物事を正しく認識する一種の訓練とするため。ひいては魔法の同時発動という技術の向上を目指すためであった。
「(やっぱり…ステータスは自我をもって表示が行われる代物。じゃあ魔物は種族のみ表示が開示されるのは一体…?)」
どうせこんな雑な読み方では疑問が解消するはずはない。内容自体は把握できたので、続いてラブロマンス小説を頭で構成し直す。内容はこうだ。
ある日、蒲公英が咲き乱れる国の騎士が夜道を巡回していると、異国のお姫様が困った様子で立ち往生しているのを見る。
聞けば、冠が半分に欠けてしまったのだという。騎士は蒲公英を懐から取り出すと、「どうかこれに魔法をかけてみてください」と言う。
姫が祈ると、あっという間に騎士の持つ蒲公英が新品の冠へと早替わりして、無事解決した。
その後騎士はお姫様の住む異国に招かれると、御礼として姫の元へ婿入りして物語の幕は下ろされる。
「(何よこれ?話は支離滅裂、動機付けは非魔法的もいいところ…。駄作じゃない)」
著者の文章表現や技巧自体にも目立って面白いところはなかった。ハズレを引いた、と落ち込みながら本を閉じようとするが、ふと何故蒲公英だったのか、気になって逡巡する。
少しして、答えは出た。恐らく花言葉だろう。確か恋愛関連のものだったはずだ。著者は愚直にそれをもって小説に挿入したのだろう。
だがルベンはもう一つ意味を思い出す。不吉なものだ。小説は婿入り後の結末を示していなかった。そう考えると、著者は陰湿で悪趣味な性格ではないだろうか?と訝しむ。
と同時に今日の食事での予知も思い出す。
嫌なことを思い出した。こういう時はさっさと寝て、気持ちを落ち着かせるべきだ。
ルベンはそう考えると、もう一冊の本も閉じると灯りを消した。
灯りひとつ無い部屋は静寂に包まれる。




