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夢境のアルカディア  作者: 挟むギョウタン
第一章「王国編」
2/29

ターニング・ポイント

 陽が落ちかけたころ、目の前に大きな影、石造りの巨大な門が映る。街に着いたのだ。


 そこでオリヴィエは駐屯する兵士に名刺サイズの紙を見せると兵士から中へ入る許可を得る。そして後ろの男の分です、と銅貨を数枚渡す。

 兵士の姿形はボロいチェーンで網状に編まれた帷子で、オリヴィエの鎧と比べて、見た目だけで数段質の劣るものとわかる。





「長い道のりでしたがお疲れ様でした。休む前にもう一箇所、ギルドに寄って冒険者登録だけ済ませてしまいましょう。登録さえすれば、明日から活動できますので」




 これから先もオリヴィエと行動を共にするか別れるかは不明だが、街に入る前も考えていたように、生活基盤は早く固めたほうがいいだろう。申し出に肯定の意を示すと、雑踏を抜けながら街を巡っていく。

 街中は灯が灯され、陽が落ちたのにも拘らず、大勢の人や馬車が道を行き交っている。辺りは賑わい、道行く人の数も多いのは街の繁華を示している。他の街を見たわけではないが、恐らくここは大都市の部類に入るだろう。

 通りの道は石造りで綺麗に整えられている。灯の元は一見すると街灯の形状を模しているが、現代で見る科学的な光ではなく直接に燃焼している炎を中に灯している。それが街の建物の外壁に吊り下げられている。

 すれ違う人々は人間だけでなく、時々獣耳や尻尾を生やしている者も見かけるのはここが異世界であることを再認識させられる。

 だが一方で、道の中央を御者の誘導で緩やかに走る荷車に繋がれた馬は現代でも見る「馬」だ。神話上の馬のように尖った角や翼を有していない、至って普通の馬だ。この一場面だけを切り抜けば、ステレオタイプな近世ヨーロッパの情景であった。

 続いてユージンは建物や道脇の露店に目をやる。城門と比して、どれも木造や急拵えの天幕を張られたものが大半で一回り格の下がっているような感想を抱く。




『アユイの雑貨屋』『何でも揃う!ヴィブレ支部アンツ貿易協会』『ヴィブレ薬品販売所』……





 書かれた言葉を見るとどれも日本語で書かれている。発声は当然として、書かれた文の読解にも全く困らないレベルで流暢な日本語だ。店には人が多く出入りし、楽しげに会話している。



「どの街もこんなに賑わっているものなのか?」

「ここがリストリーネ王国の中でも二番目に大きな都市のヴィブレだからでしょう。教皇国と帝国を繋ぐ宿場町としての役目を果たしているので夜もこんなに賑わうのですよ。…見えましたね、あそこが冒険者ギルドです」


 色々な地名や国名らしきものが出てきた事で、ふとユージンはこの世界の地理すら全く知らなかったことに今更気づく。またやる事が増えたな、と取り敢えず適当に記憶しておく。

 そしてオリヴィエが指差した先には通りを抜けて、大きく目立った建物が聳え立っている。

 壁や柱は通りの建物と同様に木造であるが、屋根には瓦が葺かれている。目の前まで距離を詰めると、中層建築物を思わせるほどの高さで全容を見るには見上げる必要がある。柱の元には礎石が拵えてあることから、街の中でも一際重要な建物なのだろう。

 オリヴィエに連れられて中に入ると、途端に屯している群衆が騒ぎ出す。





「おい見ろよ、この街の稼ぎ頭、オリヴィエが帰ってきたぞ!」

「あぁ…いつ見てもオリヴィエは良いわね…!」

「あの後ろにいる冴えないやつは誰だ?見かけない顔だが…」

「どうせ依頼の護衛対象かなんかだろ、放っとけ放っとけ」





 二種類の視線が僕らに向けられた。一つはオリヴィエに向けられた羨望や憧れ、恋慕といったポジティブな感情を込めた視線。もう一つは僕に向けられた嫉妬や好奇といったネガティブ寄りな感情を込めた視線。オリヴィエは彼らに向けて僅かに微笑むだけで殆ど気にせずに共に受付まで歩んでいく。

 受付にはメガネを付け、長い茶髪を後ろに纏めた理知そうな印象を受ける妙齢の女性が座っていた。何やら頬が赤いが、体調が悪いのだろうか。





「あーー…おリゔぃエ様ですね、こんな夜に依頼達成報告ですか……?」

「それもそうなのですが今日は別の用もあります…アイステアさん、相変わらず呑みながら仕事しているのですね…」

 


 オリヴィエはそう言うとため息をつく。

 訂正、一人で勝手に酔っているだけだ。頭を抑えながら応じる女性の手元を見れば酒瓶が握られている。ギルドの受付業務は果たして酔っ払いがこなせるものなのか。側から見ればコミカルだが、まともに仕事できるのか思わず疑念を抱いてしまう。




「あー失礼…今酔いを覚ましますので。スキル、〈解呪〉」


 

 そう唱えると女性の顔から赤みが消えた。恐らく今の詠唱のようなものが関係しているのだろうが、スキルとも言っていた。魔法とはまた別物なのだろう。




「お待たせしてしまい失礼しました。オリヴィエ様、この度はどういった用件でお越しでしょうか?」

「隣にいる彼の冒険者登録をしに来ました。加えてパーティー結成とメンバー募集の掲示もお願いしたいのです。それと夜遅いので先のグレートウルフ討伐報告は後日でも構いませんか?」

「えぇ!?オリヴィエ様が受理した依頼報告の期日はまだ先ですので大丈夫ですが…本当にパーティーを結成されるのですか?単独で活動を続け、僅か半年足らずでB級まで至ったあなた様が?」




 女性が驚くのと同時に、周囲の人々もざわめく。




「おい嘘だろあのオリヴィエが!?」

「オリヴィエに連れられたあの男は誰なの!?そこどいて、あいつ殺せない!!」

「おい落ち着けルベン!何か考えがあってのことだろ!」

「何者だあのガキ…」




 視線が痛い。負の感情がさらに増した気がする。群衆の中には、ナイフを抜いたルベンと呼ばれた魔法使い風の女が神官風の衣装に身を包んだ男に取り押さえられてる。お願いだからしっかり押さえておいてくれと心の中で願う。でないと降り立って早々、異世界生活が僅か一日で終わってしまう。



「ええ本当です。アイステアさんもまたお酒を呑みたいでしょう?出来れば早めに終わらせてもらえると助かりますが…」

「か、かしこまりました…ではえっと…」

「ユージンです」

「ではユージン様、先ずは適性検査を行うのでこの水晶玉を手に持っていただけますか?」




 アイステアはボウリングボールほどの水晶玉を注意深く布に包んで渡してくる。それをしっかりと押さえて受け取ると、水晶玉が光出す。そして、まるでゲームの画面のようなものが目前に浮かび上がってくる。




 名前:ユージン・フラット

 種族:人間

 レベル:4

 クラス:

 魔法適性:闇、???

状態:???

 スキル:心眼D、???、???、???

 体力:D、腕力:B、敏捷:C、技量:B、魔法:A





 目の前に表示された「ステータス」はまさにゲーム的なもので、ホログラムを疑うほどに精巧に浮き出てきた。

 確認できるものもレベルやクラス、スキルといった、現実生活においてはあまり日常で使わない用語ばかりで物珍しさを感じる。

 ユージンは此処が現実的な感覚を持つ以上、ゲーム的というと異質なものであると感じる。

 しかし魔法や魔物を実際に見ているため、一先ず「そういうもの」であると納得する。

 一方大きく表示されたステータスを見た者たちは再びざわつき始める。





「スキルと魔法適性が四つに二つ…!?オリヴェエさん、彼は一体何者ですか!?」

「私も少々驚いています…ですがアイステアさん、彼、いえユージンはあまり世間の常識に詳しく無いのです。出来ればユージンにもわかるように詳しく説明してもらえると助かります」





 オリヴィエは僕にも配慮してか、謙虚に頼みこむ。僕自身これを見たところで何も分からないから、このような助け舟は非常にありがたかった。




「ではユージン様に説明させていただきます。まず名前、クラスというのは当人の自覚によって表記が変更されます。例えばオリヴィエ様が使えば、クラスは騎士と表記されます。そして魔法適性というのは、使用者が発動する魔法の中で最も効果の見込める属性となります。適性外の魔法も行使は出来ますが、程度は期待できないでしょう」




 正直この仕様は願ったり叶ったりだ。もし表示される名前が本名ならば、ユージンという名前が偽名であるとバレて不信を買ってしまっただろう。魔法も存在し、適性もあると分かったのは嬉しい。誰しも少年時代、一度は魔法が使えないかと憧れるものだ。


「しかし闇属性…加えて光属性魔法もですが、殆ど適性を持つ人がいません。光属性ならオリヴィエ様がいらっしゃいますが、闇属性はここ数年、王国において使用できる人物は現れていません。あまり研究も進んでいないこともあってか、炎や水、風に無といった、所謂通常の魔法とは格下のもの、未知のものであると考えられています」

「魔法の属性は今述べた炎・水・風・無・光・闇の6つだけでしょうか?」

「ええ、現在発見されている魔法属性は仰られた6つになります」




 ここだけはものすごく胡散臭いと感じる。巨大狼…恐らくグレートウルフのことだろうが、それをオリヴィエが討伐した際の魔法はレーザーのようであった。あれで格下の魔法というのなら、一体全体他の魔法はどれほどの威力なのだろうかと疑問を抱かずにはいられない。

 そもそも魔法属性が少ないというのも気になる。例えば氷や雷。これらは存在しないのか?それとも既存の属性で分類し得るのか?



「レベルについてはこれ迄の得てきた経験によって数値化されたものとなります。これによる明確な戦闘力の差異は無いものの、一般的には高ければ高いほど強いとされ、冒険者ギルドにおいても冒険者様のランク付けのおおまかな指標としています」

「ランクと言うと…先程耳にした、オリヴィエがB級というのがそれですか?」

「その通りです。オリヴィエ様さえ良ければ、試しにスキルの心眼を向けて使用してみてください。」

「いやでも使い方とか何も分からないですし、オリヴィエもよく分からないのものに同意するとは…」

「私は構いませんよ。スキル、心眼とだけ唱えてみてください。魔法のように細かいイメージは必要ありません。その存在が自明であると考えれば、凡そ自然と発動できるはずです」

「わかった…スキル、〈心眼〉」





 名前:オリヴィエ・パペーネ

 種族:エルフ

 レベル:???

 クラス:騎士

 魔法適性:光

 状態:???

 スキル:???、???

 体力:???、腕力:???、敏捷:???

 技量:???、魔法:???

 






 脳内に情報が流れ込んでくる。先程のようにホログラムのごとく空中に表示されるわけでは無いようだ。しかし、自分のものと比べてあまりにも不可視の部分が多すぎる。




「アイステアさん、何か先程のステータス表示のようなイメージが脳に流れ込んできました」

「〈心眼〉はこの水晶玉のように、生命体のステータスを表示させることが可能です。ユージン様、ステータスはすべてご覧になれましたか?」

「いや、自分のと同じで分からない箇所もありました」

「〈心眼〉はその対象との力量差によって公開されるステータスが変化します。またご自身のステータスが見れなかったのは実力不足から来る制限によるものです」

「レベルを上げるといずれは見れるようになりますか?」

「基本的にはそのように捉えてもらって差し支えありません。一応見えずともスキルは使えますが、名称・効果ともに不明だと意識して使うのは難しいかと思われます。そしてレベルも含めた実力を上げることで、既知のスキルは段階を踏んで位階を上昇することがあります。スキルは確認されている限りE〜Sまでの範囲で効果に差があります」




 ということはオリヴィエのステータスが殆ど確認できなかったのは、実力に天と地ほどの差があったと言うことだろう。ユージンは自身が勇者でなく、オリヴィエの方が勇者に相応しいのではないかとすら考えてしまうほどだ。



「続けさせていただきます。スキルというのは一つか二つ、生まれながらにして持っている能力のことです。ユージン様は何故か四つも表示されていたのですが…」

「何か不都合でもあるのですか?」

「大抵の場合、スキルというのはその人の個性ともいうべき重要なものです。例えば私が持つのはあらゆる状態を完治する〈解呪〉、他にメジャーなものですと〈魔法効果倍加〉や〈転移〉といったものがあります。こういったスキルの効果を魔法で代用する方もいますが、殆ど代えの効かない唯一無二のものです」




 そこまで聞いて、察してしまった。



「…成程、じゃあ〈心眼〉は使えないんですね?」

「…心眼は先程の水晶玉や無属性魔法〈表示〉によって代用可能なもので、有名な外れスキルとして悪名高いものです。いくらスキルが四つあるとはいえ、一つは心眼、それ以外は効果も使い方もわからないとなると…」





 …つまりこういうことか。




「アイステアさん、言わずとも分かります。僕は冒険者として向いていないんですね?」

「残念ですが…その通りだと…」


 


 そうアイステアはユージンに告げた。態度こそ事務的ではあるが、表情からは僅かに憐れむような様子が窺い知れた。

 だが微かに違和感を覚える。自分を心配してのネガティブな感情ではないように思える。そう、何か別の――



 思案していると隣のオリヴィエから不穏な雰囲気が漂っている事に気づき、ユージンはこの場に意識を戻す。

 こうなるとこれからの話は変わってくる。態々向いてない職で生活基盤を築く必要はない。そもそも冒険者自体が危険かつ不安定な職、というイメージがある。オリヴィエには悪いが、別の職業を斡旋してもらおう。

 そのように提案しようとした矢先、




「待ってください。確かに今ユージンの持つスキルは殆ど不明瞭です。ですが、希少な闇属性魔法と四つのスキルは彼の個性と呼ぶのに不足はないでしょう。しかもレベルが低いのにも拘らず、彼の魔力適性は高い基準値を示しています。私はユージンが出来る男であるとこの身に誓って信じています」




 落ち着いたオリヴィエがアイステアにそう言うと、ユージンに目線を合わせる。中身を全て射抜くかのように鋭い眼光からは確かに固い意志を感じる。恐らく本気で自分が何かできる存在だと信じているのだろう。アイステアの他人行儀ではあるが丁寧な言葉が正しいのは事実だが、オリヴィエの言葉には不思議と何事にも変え難い説得力を持っていた。




「アイステアさん、続けてください。まだ諸々の適性について聞けていません」


 


 ここまでオリヴィエに信頼されているのに応えないわけにはいかない。意を決して話を続けるように促した。



 表示された体力、腕力、敏捷、技量、魔法の項目は其々各々の現時点での実力や潜在的な伸び代を総合的に評価したものだという。評価は其々基本的にはE〜S、スキルとは異なり、例外としてFが存在するという。勿論、これ自体がその人の実力に直接結びつくものではない。あくまでも身体を構成する魔素から力量を推し量ったもので、そうした適性をどうやって活かしていくかはまた別の問題だという。これはレベルも含めて、あまり過信するべきではないとアイステアはユージンに忠告する。そして――



「魔素欠乏症?魔素というのは空気中にあるものではないんですか?」


「魔素というのは身体を構成するものとは別に、呼吸を通して体内に微量存在するとされています。その魔素は魔法を行使する際、空気中の魔素と一緒に持っていってしまうそうです。そして体内の魔素が減少すると頭痛や目眩、酷いと意識が混濁し倒れ込みます。これが魔素欠乏症と呼ばれる症状です」




 ゲームでいうMPのようなものだろうか。体内のMPが魔法を行使することで尽きると、体に異常が生じる。自分が想像しやすいように脳内でイメージを形成しておく。




「長々と助かります。大体は理解できたので、冒険者や依頼についての説明もお願いできませんか?」

「かしこまりました」




 オリヴィエの言っていた通り、冒険者とは所謂何でも屋として存在していて、依頼をこなしていくものだという。ギルドはその依頼人と冒険者の仲介役を担っていて、依頼の難易度を評価したり素行の悪い冒険者への強制力を有している。依頼と冒険者にはそれぞれスキルと同じくEからSまでの位階があり、その位階未満の依頼を冒険者が基本受理することはできない。冒険者の身の丈に合わない依頼受理による失敗を防ぐための措置だというが、正当に受理した依頼が失敗した場合は、冒険者に、違約金の支払義務が課せられる。


「その位階というのが感覚を掴みにくいです。何か基準みたいなのはありますか?」

「冒険者様のの実力にもよりますが大体レベルが20未満だとC以下、それ以上がB以上となります。現在全冒険者ギルド内ではA級・B級共に一人づつ登録されており、A級は活動停止中のためにオリヴィエ様が単独でトップ、間違いなく冒険者の中では最強となります。またS級は設立以来空席となっております。…説明は以上となりますが、何かご不明な点はお有りでしょうか?」




 と聞いて、十分に分かりやすいものだったと礼を述べ、冒険者登録を済ませる。アイステアは表示を見ながら何か書き込んでから名刺のようなサイズの紙を渡してくる。同時にオリヴィエが城門で衛兵に見せたそれであるということに気づく。

 それはカタカナで書かれた名前の横にEと書かれた登録証だった。クラス欄は空白となっている。この登録証も含めて気になることは他にあったが、アイステアがしきりに酒瓶に視線を移しているのでこれ以上言及するのは避けた。するとオリヴィエがこれだけはと遮るようにして会話に割り込む。





「申し訳ないですが最後に、ユージンをリーダーとしたパーティー結成とそれに伴ってメンバーを一人追加募集する掲示作成をお願いします」

「ユージン様がリーダー!?…いえ失礼しました。メンバーについて何か条件はございますか?」

「魔法能力に特化したものであれば何でも、…いえクラスは神官以外とさせてください。加入者が複数の場合は先着順で一名、レベル・性別・種族などは全て不問、加入期間も問いません」

「その、神官がいないのですが…」

「ええ構いません、この条件でお願いします」




 アイステアは渋々、あまり納得していないような表情で手元の用紙に書き込んでいく。ユージン自身もオリヴィエの言葉、特にリーダーが自分であるということには納得のいかないものであった。他の冒険者のざわつきも更に大きくなり、向けられた視線も嫉妬の感情が増えたように思える。メンバー募集掲示のための作業が一通り済むと、一礼してオリヴィエと共にギルドを後にしようとする。



「あぁ、最後にユージン様」

「…はい?なんでしょうか?」

「この国において、もう少し敬語の使い方は考えた方が良いかと思います」

「???」



 ユージンは去り際に聞いたアイステアの言葉を流すように聞いた。正直不可解であったからだ。第一、自分が異国の出身であると伝えた記憶はない。何処かでやらかしてしまったのだろうか。





 その後、オリヴィエが宿泊しているという宿屋に入った。街一番の冒険者が使うにしてはあまり見栄えの良くない建物で、受付の中年男性も無精髭を生やした、悪く言うと浮浪者のような見た目をしていた。男性はオリヴィエが言った相部屋への変更を伝えられると、驚いたような表情をしたが、渋々了承した後に部屋へと案内する。

 部屋の中も布団、いや枕すらない伽藍であった。適当に拵えられた壁からは風が少々入り込んできて、建物外観通りの内装であった。

 オリヴィエに何故こんなところを選んだのか聞けば、「こういったところの方が落ち着きますから」、と言って微笑んだ。冒険者の中で最強となればそこそこ稼いでいるはずだが、どうやらこの騎士は庶民的な感覚の持ち主らしい。但し、庶民感覚といってもそれは行き過ぎているし、間違いなく悪癖の一つだ。

 その後はオリヴィエに疲れたからもう寝るとだけ言って床にそのまま寝転ぶ。体・衣服の汚れや明日のことまでやるべきことはあったが、心身ともに既に限界のようで、眠りに落ちるのに時間は必要なかった。





※※※※※※

 

 明朝、目覚めるとすぐに、オリヴィエと共にギルドへと向かう。ユージンとしては昨日からずっと着ていて、風変わりで目立ってしまうジャージの代わりとなる衣服を何とかしたかったが、そういった支度は依頼の確認を済ませてからだという。なんでも張り出された依頼は早い者勝ちで、報酬の美味しいものはすぐに無くなってしまうとのこと。オリヴィエの提案を妥当と判断して、それに従った。




 ギルドに立ち入ると、直ぐに一人の女性が視線を向けると、駆け寄ってユージンらの進路を塞ぐ。



 清潔感のある、リボンを付けたブレザーや膝まで隠すほどの丈の長い赤と緑を基調としたチェック柄のスカートは現実のプレッピーを思わせる。その上にフード付きの黒いコートを、前を大きく開けて羽織っている。垣間見えるよく手入れしていそうな翠の髪を覆うとんがり帽子と合わせて、服装が彼女は魔法使いであると主張する。

 吊り目でキツそうな、口をへの字に結んで腕を胸の前に組むその姿からは、気の強いイメージを受ける。だが細身のスレンダーな姿と歩み寄る際の綺麗な所作からは貴賓を感じる。

 キツイ目つきのせいに反して、整った顔立ちからは可憐とも美しいとも取れる印象を受ける。ユージンは自身の背丈が169センチメートルだったはずだから、それを踏まえて目算すると凡そ150半ばぐらいだろうか。背丈さえもう少し伸びれば現代でモデルとしてやっていけそうなルックスである。




 ユージンはその女性を何処かで見たような気がすると感じる。よくよく思い出してみると、昨日ナイフを取り出して男に取り押さえられていた人だと気づく。名前は確か…




 「アタシはルベン、ルベン・エト・ミイル・ヴィブレよ。今日から宜しくお願いね!」

 

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