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夢境のアルカディア  作者: 挟むギョウタン
第二章「帝国編」
19/29

きっと何もかもが歪で

「難しく考えすぎじゃない?」

「そう?じゃあアタシが昔言ったやつ、何でそうなのか分かるのかしら?」

「そういうものでしょう…?それ以外にあるかしら?」

 ルベンはメインに運ばれてきた肉を丁寧に切りながら、「そういう考え方が可笑しいのよ」と指摘する。

 昔言ったやつ、というのは6年前に当時宮仕であったアイステアが〈解呪〉を使っていた際、ふと思いついて問うたものであった。


 スキルと水属性魔法の〈解呪〉とは同効果かつ同名称である。実際、この世界(・・・・)に文化的基礎を齎したとされる『王国文書』と呼ばれる膨大な文書にも記述されている。それはまさに百科全書のような代物である。

 現在各国に存在する写本は、どの項目も共和国の編纂を交えていて不完全ではあるものの、魔法についての記述も多く存在する。その一項目において、スキルとはレベルの上昇と共に自ずから使用が可能であると知覚し、同名の魔法と同様の効果を発揮するとされている。

 ――だからこそ、可笑しいのだ



「何でスキル〈心眼〉と無属性魔法〈表示〉は同様の効果があるんですか?って私に聞いたやつよね?」

「そそ、ま、今もって何でかわからないんだけどね」

 肩をすくめるようにしてルベンは両掌を挙げて口にする。

「学院の卒業論文もそれだったわよね?『〈心眼〉と〈表示〉の非同一性〜魔素分離実験を踏まえての省察〜』…だったかしら?」

「アタシとしては出来に納得してないんだけどね」

 ルベンはその不満を飲み込むようにして杯を豪快に傾けた後、再び入れ直すと、また直ぐに全てを飲み干す。

 一応、世間的に高い評価は受けた。

『魔法学』が未発達の手狭な界隈であるとはいえ、魔法使いが属するギルドから学院卒業後の加入を打診されたほどだ。直ぐに断ったが。

 結局のところ、あの論文は殆ど何も解明することは叶わなかったのだ。其れこそ、論文の題名通りのことだけだとルベン自身は考えている。

「そんなにグイグイ飲んじゃって。一体誰に似たのかしらねぇ?」

「目の前の誰かさんのせいよ。これでも自分の限界は把握できてるもので」

 自分への苛立ちを解消するようにして飲んでいたのに、変に煽られて無性に苛ついた。

 続いて適当に注ぎ足して直ぐに喉奥へと流し込む。普段ならここまでイラつく事はないが、自分の不甲斐なさを今更思い出し、やりきれない気持ちで一杯になってしまった。

「発表されてからすぐに読んだけど…専門外の私でも良かったとは思うわよ?ステータスについて言語学的に言及してたのは成程と頷けたし」

 蛇足にすぎないわよ、とルベンは自身に抱く正直な感想を口にすると、〈表示〉をアイステアにも見えるように唱える。


 名前:ルベン・エト・ミイル・ヴィブレ

 種族:人間

 レベル:18

 クラス:魔法使い

 魔法適性:炎

状態:正常

 スキル:全属性適正C、魔法分身

 体力:D、腕力:E、敏捷:C、技量:D、魔法:S



「そうそう、この位階表示が滅茶苦茶だ!って書いてたのよね」

「そ、『S』だとか『D』だとか何でこう見えるのよ?別に数字みたいに既存の言語に則った表記でいいじゃない」

 ルベンが論文に書いた「蛇足」はこうだ。現状スキルや魔法の位階表示はF〜Sまで確認されていて、Fに近づくほど低く、Sに近づくほど高いものであると認識されている。これは誰しもが当然のように持つ共通認識である。冒険者ギルドも頻繁に用いられる『表示水晶』のステータス表示に則り、依頼や冒険者ランクの設定を行っている。

 だがそもそもFとは、Sとは、何なのか?既存の言語にはそういった表記方法は存在しない。

 現状世界で用いられる言語は、「大戦争」以前に用いられていた複雑極まりない古代言語、それを『ひらがな』『カタカナ』『漢字』の三種の文字を持って体系的に整理した統一言語の二種である。

 そして、そのどちらにもFやSといった表記に対応した文字は存在しないのだ。


「それ読んでやっぱルベンちゃんは凄い!って思ったもの。昔みたいに頭撫でよっか?」

「もうやめてよそんなの。アタシとしては平民で宮仕したかと思ったら、あっさりと冒険者ギルドの受付嬢になった姉さんのほうが凄いと思うけど」

 ルベンは素直な賞賛に若干顔を紅潮させるが、一瞬のこと。もう今更頭を撫でられるような年齢じゃないと、態度を一変させてから一蹴する。

「貴方のお世話できなっちゃったからつまんなくてね。でも再就職は結構大変だったのよぉ?」

「それはそうでしょう。冒険者ギルドの運営に携わるなんて実質別の国(・・・)で宮仕するようなもんよ」

 ルベンはハァっと思わず溜息をつきながら、デザートの果実を口にする。今まで散々に考え事をしたせいか、脳が甘みを欲していたのだ。


 冒険者ギルドとは別の国(・・・)

 これは「冒険者」として考えると、非常に好ましい状況ではある。

 だが「貴族」として考えると、頭を悩ませる問題なのだ。

 リストリーネ王国の冒険者ギルドは、他の職能ギルドと異なり、王権への対抗権威として我が物顔で活動している。王国内の各冒険者ギルド支部はその領地の軍に匹敵するほどの強大な武力を保有し、経済活動から治安維持活動にまで至る、ありとあらゆる領域に介入し続けている。現在の王国はいわば「二重国家」、二重に権威が存在している状況なのだ。


「んで…姉さん、本題に入ってくれない?もうじきデザートも終わるのだけど?」

「悪かったわね…最初に冒険者を辞めるよう言ったのは覚えてるかしら?」

「ええ勿論。そのせいでアタシが店側に態々個室を用意してもらったの忘れたの?」

「はいはいそうでしたね。でね、私のスキル〈天啓〉がね、こう告げてくるのよ」


 アイステアがこれまでにない、深刻そうな表情を浮かべる。

「ルベン、このまま冒険者を続けてると貴女は間違いなく死ぬわよ」

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