「デート」〈下〉
自分の用事を粗方済ませた後、ルベンは用事があると言って「魔法具店」へと足を進める。そして何やらカウンターの手前に鎮座している容器に入った魔石の購入を申し出て、袋に詰めるよう店員に促す。迷宮の時に持っていたものの全てを使い切ったために、補充する必要があったという。
「魔石なんてそこらの魔物を狩れば手に入るんじゃないか?何でわざわざ買うんだよ」
「魔物の魔石をそのまんま飲み込むなんて危ない真似出来ないわよ。そんなことしたら人間辞める事になるわよ。でも非常時に備えて魔素の補充手段は必要。だからちゃんと専門工の手で加工した魔石を買ってるわけ」
「…成る程、確かにそうだな」
ユージンが、ルベンが魔石を何十個も流し込んでいた時を思い出す。
それと同時に、脳裏にあの最深部での出来事をも想起してしまう。
もう終わった事だ。いい加減割り切る頃合いだ。しかしこうして考えていくうちに思考が外れていく。
話の前後を深く考えず、あまり適切とは言えない言葉で返してしまう。
重く沈んでいく思考を振り切るようにして、話題を転換する。
「なぁルベン。この棚にある、椅子サイズの箱の形した『抗魔具』ってのは何なんだ?」
「抗魔具ってのはね、周囲の魔物を近づけさせないための魔法具よ。…あぁ、魔法具について知らなかったっけ?いい?この裏に無属性魔法〈刻印〉の魔法式を用いて、別の小さな魔法式が刻んであるのは分かるかしら?〈感知〉で見たら分かると思うんだけど、魔法式自体に魔法発動直前の魔素を仕込んでるのよ。これを用いる事で、道具自体に魔法の効果を付与することが可能なのよ。そうして出来上がるのが魔法具。例えばこの抗魔棒は…専門外だけど多分水属性魔法〈修祓〉…?に類する魔法式を刻んでるの。店員さんに聞けば詳しく分かるだろうけど、込められた魔素の量的にはEランクまでの魔物なら寄せ付けないだろうから、農耕・畜産・行商用ならちょうど良いぐらいの…。ってこの隣の抗魔具、教皇国製のじゃない!?見なさいよこれ!さっきのはリストリーネの奴なんだけど、これは手のひらに収まるぐらいの棒状で小型化されてる。それでいて、〈刻印〉と〈修祓〉の魔法式は更に精密なものよ!多分Dランクぐらいの魔物になら効果が見込めるはずで―」
「よく分かった。ルベン、頼むから周りを見てくれ」
「…あ」
何故だろうか。目についたもので適当に話題を提供しようとしただけなのに。いつの間にか周囲の注目を集めてしまっていた。
其れこそ、店の外にまで聞こえるほどの声量で熱弁を振るっていたルベンを早めに止めなかった自分のせいでもある。
だがその語り様はこれ以上ないほどに生き生きしていて、自分自身楽しんで聞いていてしまったので、口が挟むのが遅れてしまったのだ。
対して、指摘されたルベンはぐるりと見渡して周囲の状況を把握すると、居た堪れない様子で店を後にする。そして出て少し経ってからユージンはルベンに問う。
「あのさ」
「…何よ」
「…もしかしてなんだが、散々パーティー組んでる時も懇切丁寧に教えてくれたのは…」
ルベンのその早口で奮ったご講釈は現代でも見たことがある。
既視感。
具体的に言うと、特定の一ジャンルに熱中した者たちのそれと良く似ていた。
この事実を告げようか少し迷ったが、何時もは冷静なルベンが、ああいった周りが見えなくなるのは悪癖だと考えて、伝える事にした。
「実はお前…魔法大好きなんだろ?」
「………ええ、そうよ。悪い?」
ルベンは顔を伏せるようにして言う。此方の様子を窺っているようだった。
「悪いなんて思ってない」
「…本当に?貴族のアタシが魔法なんてものにうつつ抜かしてるのが可笑しくないとか思ってないの?」
「何で貴賤の問題になるんだ…?少なくとも僕はルベンの話を聞くのは面白いと思ってるよ」
これは紛れもないユージンの本心だ。こういった一分野での趣味人の話を聞くと言うのは非常に興味深いことだと思っている。彼彼女らの奮う言葉には熱意が籠り、此方が聞いてもいないことまでベラベラと喋る。
勿論、その主張は受け手の文化水準を考えない、どちらかと言えば一人語りの印象を受けるものが多いことは否定できない。
だがそれは――ユージンには決して出来ない事だ。話の内容というよりかは、彼らの激情に感化されてのことかもしれないなと見つめ直す。
「ふふ…ありがと。…またどっかで機会あれば話してあげるわよ?」
「さっきみたいに公衆の場では勘弁願いたいな」
ルベンははにかみながらそうユージンに告げる。
そういえば。いつの間にこういった話が出来るようになったんだろうか。ユージンはそんな事を考えながら、穏やかな雰囲気で会話を続けた――




