ボーイ・ミーツ・ガール?
――気がつくと瓦礫の山の中、ユージンは一人立っていた。
一体ここはどこだろうかとユージンは思案するが、こんな場所に見覚えは無かった。あの後一体どうなったのか?殺しきれなかった魔族の魔法に嵌ったのか?それとも二人組――第三者の仕業で移動させられたのか?この場にいないルベンはどうなった?
色々と心配事が目に浮かぶが、状況を把握するために辺りを散策する。
瓦礫の山は木や石が殆どであるが、加工されている様子が見受けられる。また今歩いている場所はボロボロにひび割れているが石畳で舗装された痕が見受けられる。
どうやら既に廃墟と化した街であると分かった。
歩きながら何か情報がないかと見渡すと、視界の奥に小さな子供が辛うじて家屋の原型をとどめた残骸の中、一人腰掛けている。そして同じくその子供を視認して、遠くからゆっくりと歩み寄る人間も確認する。取り敢えず何か情報を聞き出すべきだろうとユージンも其処へ向かった。
子供の元にいち早く辿り着いたユージンは声をかける。
「あの…すみません、ここが何処かご存知ないでしょうか?」
思わず冒険者としての姿勢を忘れた、敬語調で話しかけてしまうが、子供は無反応のまま。ユージンは無視でもされているのかと訝しむが、その子供は一切反応せずただ俯いたまま微動だにしない。
一つの可能性に至ったユージンは落ちている瓦礫を適当に持とうとするが――手は掴むことなくすり抜ける。
ユージンはこれを踏まえて、恐らく夢のなかだろうと結論するが、こんなにも意識ははっきりとするものだろうか?何はともあれ、今自分が出来ることはただ目に映る情景を眺めることだけだった。
子供は全身が薄汚れていて小汚い印象を受ける。だが擦り切れてはいるが上等な絹の服と目元まで深く被り込んだ頭巾、黒い煤を被っているが見事な金細工の装飾品と腰の上まで大きく伸ばした金髪からは女性らしさ、貴賓さを感じる。
女の子に人影がやっとのことで詰め寄った。背丈はユージンと同じくらいだろう。
その人は女の子の服以上に擦り切れて、穴だらけの真っ黒いクロークを被っていてボディーラインは不明瞭だ。
表情はクロークのフードを深く被っていて、未開芸術を思わせるような、人の顔の要所要所を不自然なまでに強調したような仮面を付けていたために窺い知ることは出来ない。
そうした姿格好で、血濡れた太い木の棒を杖代わりにして歩みよる姿はまさに不審者といったところであった。もしこれが現代であるならば、即座に通報されるだろう。
「もし、そこのお嬢さま、今日はいい天気ですね?」
声からして――男は舞台役者のような口ぶりで声をかける。天気は曇っているし、明らかに女の子は憔悴した状態であるのになんと酷い態度だろうか。現代風に言うのなら「空気が読めていない」と形容すべきだ。
「――――?」
対して女の子は、声をかけられてゆっくりと顔をあげるが、首を傾げて理解できないといった様子を見せる。
「…もしかして声が小さかったり?それとも言葉が通じてない…?」
男は急にあたふたとし始める。今までの口調は演技だったようだ。
「――――!――――――――――――――…これでどうですか?」
女の子は何かに気づくと、そっと口元に指を当てながら、理解のできない言葉を長々と語る。そして指先に光が灯ると、それを男の体に溶け込むようにして投げ込んだ。
「……思わず冷や汗をかいた。今のはなんだ?」
「魔法です。あなたが、何をいっているのか分からなかったので。」
男は突然の魔法に驚いた様子を見せた一方、女の子の方も恐る恐る話しかけるといった形で、いまいち要領を得ない。
「…コホンッ。いや失礼しましたフロイライン。私の名は……ドバーティン。旅芸人をしている者です」
「そう…――――よ」
「…?うまく聞き取れませんね…。もう一度声に出してもらっても?」
「――――よ。今名前言ったのだけど。もしかして魔法が機能してないの?」
「魔法かどうかは定かでは有りませんが、上手く聞き取れない…いえ聞き取れてはいるのですがどう発音すればいいのやら…」
「じゃあ好きに呼んでちょうだい。そのふろいらいん?ってのでいいじゃない」
「これでずっと呼ぶのはちょっと…うーん……うまくコミュニケーションが取れない…弱ったなぁ…」
女の子はぶっきらぼうに名前を語るが、仮面の男も、ユージンも、その名前を聞き取ることは出来なかった。
そして男が首を捻って唸る様子を女の子が眺めていると、突然視界に光が出現する。
その光は周囲の景色を呑み込むかのように吸引していく。瓦礫も、空も、石畳も、女の子も、男も、そしてユージンも吸い込まれていく。夢が崩壊してゆく。
どれもこれも、みな吸い込まれる中で徐々に形を崩していき歪んでいく。抵抗することは出来なかった。
そのまま身を任せ、ユージンはただ今の自分の無事を祈って意識を手放した。




