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夢境のアルカディア  作者: 挟むギョウタン
第一章「王国編」
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迷宮探索〈下〉

「もうクタクタだ…これからどうするんだ?」


「先程レッツェに入り口付近の様子を確認してもらいに行った…。問題なければ再突入して上層と中層の間で休憩を取ろう」


「正直アタシめちゃくちゃキツいんだけど…」


 ユージンらは一旦入り口まで戻ると、その場で火をおこし食事を手早く済ませる。今日はもう朝早くから動いていたので体は限界に近かった。強力な魔法で魔素が枯渇したのか、両の手で頭を押さえて蹲ったルベンも休憩を取りたいと口にする。




「いや案外オリヴィエさんもユージンさんも想像より遥かに強いおかげで探索の速度は悪くなかった。地図を一々確認せずに元来た道をまた歩くだけだから…次は多分2、3時間もあれば十分なはずだ」



 ルーシアは最後もう一踏ん張り、少しの辛抱だと此方を励ましてくる。…まあそれぐらいならいいだろうと了承した。



「…ルーシア、改めて礼を言わせてくれ。援護がなければ僕はおそらく死んでいた」


「礼はもういい。…Dランクのホブゴブリン三体をEランク冒険者が対峙するという状況を作ったのは俺だ。実を言うと俺かお前、どちらかが大怪我をしても可笑しくないと思っていた」


「…!ルーシア?聞き間違いでなければ良いのですがユージンは死にかけたのですか?もし本当なら…」



 


 そんなにやばい状況だったのかと改めて振り返っていると、横で怒り心頭、般若の顔をしたオリヴィエがルーシアに詰め寄った。





「やめてくれオリヴィエ」


「ですが…」


「あの時は誰もが必死だった…。オリヴィエとレッツェは僕よりも多い数を相手にするほどには状況は切羽詰まってたじゃないか」


「…そうですね。少し辺りの警戒でもして頭を冷やして来ます」



 


 この一件はリーダーだったルーシアが最も責任を負うべきだろうが、全員最善の動きはしていたと思う。ユージンは無理に責めるべきではないと指摘するが、オリヴィエの表情は明らかに納得しておらず怒りの感情を収めていなかった。このままだと感情を抑えきれないと判断したのか、オリヴィエは木陰に姿を消した。





「…ルーシア、ホブゴブリンが五十体ほど迫るみたいな状況はよくあるのか?」


「予測できなかった俺が言う話ではないが、普通はあり得ない。〈感知〉でも魔素はいつも通りで、特別濃いことは無かった。考えられるとすれば、中層以降の魔素が濃いために大量発生したゴブリンが上層に登ってきた…だろうか?」


「えっと俺には〈感知〉が分からないんだが…」


「〈感知〉は無属性魔法で大気中の魔素の疎密を把握できるのよ。迷宮ってのは魔法で再構築されてるから、残り滓の魔素を感じ取ることで魔素から生み出される魔物の手強さも分かるってこと…痛っ」



 


 オリヴィエがあそこまで怒るからにはルーシアが何か重大なミスをしていたのではないか。険悪なムードでは探索もままならないと思い、フォロー材料を考えるためにユージンは聞いた。だがルーシアからの返答は意味不明なものだったので、諦めて解説を求める。ルベンはそれに割り込んで説明してくれるが、また痛んできたのか頭を押さえる。




「ルベン、調子が悪いのに態々ご講釈を垂れる必要はないぞ?俺が説明するとこだったのに」


「…あくまでも今はユージンらと組んでるのよ。同じパーティーの縁としてよ」


「…まあそれ言われたら俺が口挟む道理はないな」



 こうして見ると互いにそれぞれ方針を持っているように思える。ルベンはビジネスパートナーとして接している。一方ルーシアは以前からの「仲間」ではあるがその主体意志を尊重して扱っているように思える。ルーシアが騙し騙し合うことを考えとして有しているであろう「商人」であることを考えると、寧ろ逆転するのが自然。ユージンには歪に見えた。



「〈感知〉は僕でも使えるのか?」


「ええ、アタシらはみんな無詠唱で行使してるわよ。範囲広げると疲れちゃうから、レッツェの索敵能力頼りで狭く絞ってたけどね。一応、魔法とかスキルの発動タイミングがある程度読めて便利だからユージンも覚えときなさい」



 そしてルベンは魔素が実際に触れて見えるような、そういった空間を作り出した後に雨を捉えるイメージだと教える。ユージンにとってはイマイチ飲み込めないイメージだったが、今後の参考として記憶する。




「レッツェと言えば…指示の的確さといい、ルーシア・ルベンの後方からの支援といい、悉く噛み合ってたのは凄かった。前々からこうなのか?」


「何度か加入と離脱を繰り返してるが、これでも俺ら三人、『絶海の禁秘』は固定メンバーでやってきたからな」


「何度も?」


「俺の本職は商売だし、ルベンはやんごとなき身分の学生だ。このパーティー名だって冒険者一筋のレッツェが考えたものさ」



 ユージンにとって、商人と貴族様のご令嬢が冒険者をやっているのは異常に思えたが、不定期で活動すると言うのなら一応は納得できた。

 だがそれよりも気になるのは…



「そのパーティー名って何か由来があったりするのか?」


「えっとそれはだな…」


「アタイ抜きで何やら面白い話しとるなぁ?混ぜてくれへん?」



 ユージン好みのイカつい名前が気になってルーシアに聞くと、丁度様子見を終えたレッツェが顔を見せる。



「んで迷宮はどうだった?」


「ちょっと焦げ臭さが奥から漂うけど、崩落の心配はなし。でも魔物の動きに目立った異常は無いから、下の層は相当広いと思う」


「好都合だ。密閉された炎の中にいると意識が混濁するとは言うが、広ければその心配はない。辺りを見回ってるオリヴィエさんを呼び戻し次第、探索続行だ」


「いけずやねぇ、アタイだって話に混ざりたかったのに」



 ルーシアと会話する中でレッツェは口調を斥候をやってる時のと普段のとで器用に転々とさせる。




「…たった今、一人で迷宮に潜入してた女の子に休憩すらさせないなんて。ルーシアは酷い人やねぇ?」


「…休憩は5分追加だ」



 余程語りたかったのだろうか、ルーシアはレッツェの当て擦りに対して簡単に折れる。これだけだと商人はレッツェの方だと言われても全く違和感はない。



「んで『絶海の禁秘』って名前はな、ここ北方大陸と南方大陸を結ぶ海にある孤島から由来してるの。海の中央にあるその島は遠目で視認こそすれ、絶対に入れないんや」


「入れないって言うと?」


「船乗りが言うにはな?入ろうとして向かっても、いつの間にか島を中心とした反対側に抜けてしまうっていうんや」




 魔の三角地帯のようなものだろうか。こういった話はゲームのファンタジー的要素の好きなユージンとしてもワクワクするものだった。




「そんな島には一体何があるんだ?」


「これがなーんも分からない。大昔の『大戦争』を生き延びた輩が入り込んだとか、世界の全てを掌握できる最高の魔法式があるとか、色んな噂があってなぁ…。ワクワクしないかい?」


「…物凄く興味ある。そういう探究心は僕も持ってるし好きだ」


「さっすが〜。ルーシアやルベンと違って話がわかるなぁ?アタイはそういった世界の未知を追い求めたいんや。だから冒険者になったし、パーティー名もそういったものを解き明かしたいって思いでつけたんや」




 ルーシアとルベンは興味がないだの非現実的だのと口々に反論する。だが二つの世界があることを今もって経験しているユージンにはそういった「御伽噺」でさえ現実味があり、予感めいたものすら感覚していた。

 話に夢中になっていると、ルーシアとルベンが立ち上がって歩き出す。休憩はもう終わりらしい。



 ――「現実」の迷宮探索が再び始まる

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