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11.引退

 カエデに見てろと行った手前、こんな事を言うのは気が引けるが⋯⋯。


「ファルガン」


「なんだ?」


「仕切り直し⋯⋯という訳にはいかないのか?」


「仕切り直してるじゃないか。二年も待った」


「そうか⋯⋯仕方ないな」 


 スケジュールはギリギリだ。

 そろそろ戻らないと、仮に冒険者たちがベルンさんの剣を発注してくれたとしても、納品が間に合わない。


 それに、最初に実演販売したパーティー。

 感触は良かったが、人は時間が経つと冷静になる。

 せっかく購買意欲が高まっていたとしても、それが冷めれば買わなくなるかも知れない。


 だから本来なら、ここであまり時間を取られたく無いのだが⋯⋯。



 ファルガンと戦うとなれば、短時間とはいかない。



 二年前、ファルガンと立ち会った時には約九時間かかった。


 二人で構え、お互い目に見えない程度の駆け引き、意識の奪い合いを続けた。


 均衡を破ったのは、一匹の羽虫だった。


 ファルガンから流れた汗を舐め取ろうと、羽虫は彼の腕に止まった。


 それは隙と言うには過大な、僅かながらの変化だが、集中力を削がれたファルガンへと俺は打ち込み、彼の胸を斬り裂いた。


 それは、もう戦える傷では無かったが、ファルガンが叫んだ。


「ふざけるな! 今殺せただろう!」


「⋯⋯」


「トドメを刺せ! アッシュ!」


「依頼は⋯⋯敗北させる事⋯⋯だろ?」


「腑抜けが⋯⋯良いから殺せ! こんな決着は、認めん!」



 それでも、俺はファルガンを斬れなかった。

 師の友人であり、子供の頃から師と彼に剣を習った。


 もう一人の師。

 彼は俺の憧れだった。


 ──そこに達成感はなく、後味の悪さだけが残った。




 これは二年前の出来事、その再来。

 あるいは、続き。


「正体を知っている悪人は殺す、だろ? なら、今の俺はお前に斬られるに相応しかろう。盗賊の用心棒に身をやつした極悪人さ」


 ファルガンが構えた。

 それに合わせて、俺も構える。


 ──すぐにわかった。

 わかってしまった。


「ファルガン⋯⋯」


「惨めなものだろう?」


「酒浸りのせいだ」


「違う。断じてな」


 俺はこの一年、最低限の修行しかしていない。

 しかも実戦から離れていた。

 どうしても勘は鈍る。


 それでも、わかる。


 ──ファルガンは、かなり弱くなっていた。


「なぜ?」


「年だ。魔族はピークが長い代わりに、下がり始めると早い」



 しばらくお互いの隙を探る。

 均衡はすぐに崩れた。


 ファルガンはもう、かつての集中力を持ち合わせていなかった。

 前回と同じく、俺が繰り出した攻撃は、ファルガンの胸を裂いた。


 いや、前回より深い、これは──致命傷だ。


 倒れたファルガンが、俺に語りかけてきた。


「⋯⋯自分がまだ最盛期だと思える内に、お前に斬って欲しかった」


「⋯⋯」


「お前に、強かったと、そう思って貰いながら⋯⋯逝きたかった」


「⋯⋯ファルガン、俺は」


「サボってるな? それとも新たな道か? いいさ、剣に⋯⋯囚われるなんてのは⋯⋯俺や⋯⋯カムイ⋯⋯お前は、お前の道を⋯⋯」


 ファルガンが死んだ。


 それは、剣士を引退しなければ、俺もいつかたどり着いたであろう運命だったのかも知れない。









──────────────────────


 カエデと街まで戻りながら、お互いの近況を話す。

 俺が冒険者を引退し、武器商人ギルドに就職してから、カエデは一人ファルガンを探していたとのことだ。


「父なら、ファルガンおじさまを止めるだろうと思って」


「⋯⋯」


 今回彼女が盗賊退治の依頼を受けたのは、ファルガンらしき人物がそこいるという噂を聞いたからだという事らしい。


 俺は冒険者を引退し、ファルガンの事も、カエデの事も思い出さなくなっていた。


 まさかこんな所で過去を精算するハメになるとは。


「兄さん⋯⋯戦神流を継いで貰えないんですか?」


 別れ際、カエデに聞かれるが⋯⋯。


「お前か、兄者が継げばいい」


「あの人は、忙しいから⋯⋯」


「俺が暇みたいだな」


「そうじゃなくて⋯⋯わかってる癖に」


「⋯⋯」


「わかりました。私は私で、この先を考えます」


「ああ、好きにするべきだ。ファルガンも言っていただろう?」


「そうですね」


 何かに囚われる必要はない。

 自分で考えて、選ぶ。


 今日が俺の、剣士としての引退式だったのだ。

 


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