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【完結】終末の花と猫と百合  作者: くもくも
8章 人の心を救うもの
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8-2

 3日後。


 生理が重いとのことで、凛がしばらくダウンしていたが、この日の朝にはすっかり復活を遂げているようだった。


 もちろん彼女の生理中、奏の性欲のぶつけ先は僕しかいなかった。

 一対一のいちゃラブも幸せだなー、なんて生ぬるいお話ではない。


 このままでは、抱き殺される。

 

 確かに奏のアレのマジカルなパワーは多少抑えられていたが、あくまで、多少、である。


 ただひたすらに、凛の生理が完全に終わるのを待ち続ける日々だ。

 確かに僕の方も、一匹のメスとしての幸せに目覚めてしまっていることは否定しない。

 だけどもう、僕一人の体ではとうてい身がもたないのだ。



 それはともかく。


 ウサ耳美少女の遥から依頼があった通り、今日は怪しい宗教団体の施設へ潜入調査を行う予定だ。


 遥から相談を受けたあと、生理が始まりげんなりとしてしまった凛に留守番を任せ、僕たちはいくつか事前準備を進めてきた。



 まず僕と奏は、余っている物資を車に積んで、以前にお世話になっていた避難所の病院へお裾分けに行ってきた。

 入口で自衛隊の人に荷物を提供しただけだが、その際宗教団体の拠点らしき場所を聞き出すことはできた。

 なんでも、避難者の一部がそちらへの移動を希望したらしく、自衛隊がその搬送を請け負わされたとのこと。


 少し仲良くなっていたあの自衛隊の青年とは会えなかったが、バケモノから受けた怪我もかなり治療が進んでいると聞いた。

 近々現場にも復帰予定らしい。



 次に僕はクロの協力のもと、猫たちの情報連絡システム、NNN(ネコネコネットワーク)の駅前支部に連れていってもらった。


 行ってみれば、ただ駅前の広場に猫たちがたむろしているだけ、というのどかな光景だったが、確かにこのあたりの情報には詳しい猫たちが集まっていたようで。

 自衛隊から教わった宗教団体の集まっている避難所と、猫たちが把握している、人間が集まっている建物の場所の情報は完全に一致していた。

 

 情報提供の対価としてカリカリの猫餌を支払ったので、向こうもホクホク。まさにウィンウィンの関係である。

 たまには縄張りの猫たち以外も見て癒されたいし、またきっと遊びに来ようと思う。


 ちなみにNNN支部までの道中では、フラウアに寄生された人間に二回も襲われかけたが、いまだにびくついている僕を、いともたやすくクロが助けてくれた。


 ちょっとそのあとからクロのしなやかで力強い体を見ると、カッコよく見えるというか、少しドキドキするというか、謎の感覚に襲われている自分が怖い。

 恋ではない。断じて。たぶん。

 僕にそういう性癖はないし、僕の半分はちゃんと人間だ。そのはずだ。



 昨日は我が家の屋根の修理で、押し入れに入っていたブルーシートを、屋根の長らく穴が開いたままになっていた部分に張ることにも成功した。

 高い屋根上での作業も、今の僕のネコジャンプならば、梯子無しで登り降りできるから楽チンだ。


 作業中、またフラりと現れたウサ耳の遥が、潜入調査用のアイテムとして、スマホと連動させて使うインカム、というかマイク機能のあるイヤホンをいくつか提供してくれた。


 これを凛に持たせておいてアプリでこっそり通話しておき、何かピンチがあれば近くで待機している僕たちが助けに向かう、という手はずになっている。

 まあ多分誰が助けに行っても、逆に凛の足手まといにしかならないとは思うけど。


 一緒にお昼ごはんを食べたりして、遥との距離感も少しずつ縮まってきていると思う。

 縄張りの猫たちも、遥に対してだいぶ慣れてきたようで、最近はシロも自分からすり寄ったりしているくらいだ。


 だからこそなおさら、今彼女が一人で暮らしていることも凄く心配だし、今回の宗教団体との件も、なんとかしてあげたいと強く感じる。




 そして今日がその本番。

 自分もついていくと言い張った遥も車に乗せ、フラウアの赤い花が未だ咲き誇る道路を進む。


「じゃあアンタ、絶対ヘマしないようにね! 危なくなったら、すぐインカムで報告しろぴょん!」


 駅前から少し離れたドラッグストアに車を停め、遥の号令で黒髪の美少女が出発する。



 凛は朝から奏にあれこれ化粧をされたり、着るものを決められて、いかにも儚げな美少女、という見た目に扮している。

 なんとなくカルトに騙されそうな、気弱な感じの女の子、という演出らしい。


 正直普段とのギャップがめちゃくちゃにかわいく感じてしまい、出発前にはスマホで写真をひたすらにとっておいたし、彼女もノリノリでポーズをキメていた。


 ただしその握力はゴリラ以上。

 今回はその溢れるパワーの出番が無いことを祈るばかりだ。



『んっん! 少し離れたが、みんな聞こえているな? ……いや、聞こえてるかしら? 私、ちょっとスパイになったみたいで、楽しくなってきたわよ……! キュンキュン!』


 凛は僕らの視界の先をずんずん歩きながら、嘘くさい女の子言葉でインカムから通話してくる。


 ……ていうか、キュンキュンって、何?

 不安しか感じない。いきなりヤバいやつだと思われて大失敗に終わらないだろうか。


『ちょっと凛! すっごくかわいいけど、もうちょっと不安そうに歩いてよお! バケモノが周りにいるかもしれないのに、そんなに堂々と歩く美少女がいるわけないじゃん!』


 偽物の乙女を作りあげた奏は、けっこうこの姿の凛を気に入っているようだが、さすがにその豪快な動きにはヒヤヒヤしているようだ。



 駅前の宗教団体が集まっている建物までのルートは、事前に軽く調査はしておいたが、フラウアの除去がほとんど行き届いておらず、凛が歩くたびに赤黒い花びらが散っていくのが目にうつる。


 遥と奏の力でフラウアを操り、道を作れば歩きやすいだろうが、そんな姿を宗教団体の人に見られてしまったら、さすがに怪しすぎる。



 僕たちから提供した作業着に身を包んだ遥が、ウサ耳をピクピクさせつつ、一定の距離を取りながら凛に続く。


 冴えない作業着姿でもさすがはアイドル。似合ってはいないけど、そんなところも含めてとにかくかわいい。

 かつての世界でこの姿を公開していれば、きっとその作業着は売り上げが伸びたに違いない。


 遥はそのウサギパワーで、僕や本物の猫ですらうまく気配が察知できないくらい、気配を消して行動するのがうまい。

 いつでも凛に合流できそうで、かつ建物内の人にバレないであろう場所まで、彼女の先導で移動していくのだ。



 そして後方から続くのが僕と奏。

 フラウアの繁殖した茂みに足をとられつつ、二人で支えあってなんとか先を進む遥についていく。


 待機中の遥と奏を守るのが僕の役割。

 奏はなんというか、運転手以外としては明確な役回りはないが、賑やかし要員的な、良く言えばサポーターみたいな感じである。

 邪魔なわけでもないし、まあいいよね。たまにはみんなで行動したいしさ。


 ていうか、僕も基本的には何も役に立っていない。

 いや、凛が万が一のピンチになったら救出にいくのが一番大事な僕のお仕事か。普通の人間相手なら、僕も相当な戦力だろう。



『よし猫女と金髪! この居酒屋の入口を待機所にするぴょん! 静かに近づいてきて!』


 静かに、と言いながら自分は結構な声の大きさで、遥が奥から手を振ってくる。

 小さな体でぴょんぴょん跳ねているところは本当にかわいらしいが、この抑えきれない声の大きさは、職業病ということだろうか……。



『お、見えてきたぞ例の建物。誰か入口で見張りをしているようだ。……ではわたくしエージェント凛は、これから奴らの本拠地に突入する。諸君、グッドラック!』


 遠くを歩く凛から、緊張感のない通信が入る。

 グッドラックは僕らが言う方の立場なのだが。やはり不安。



 僕と奏が、遥が見つけた居酒屋の入口、階段のようになっている場所にたどり着くと、遥がなにやらささっと手を動かす。

 すると入口あたりのフラウアが急に黒ずむように変色し、激しく伸びてその入口を覆い隠した。


 やるなあ、と思って遥に目をやると、どうよ、とばかりにその小さな胸を張ってきた。



『……こんにちはー。あの、ここで神様のありがたいお話が聞けるって聞いて、あの、他の避難所から来たんですが……』


 どうやら凛が、建物の見張りをしている人たちと接触したようだ。

 今のところ、おそらくボロは出ていない。

 凛らしからぬか弱い雰囲気が上手に演出できている。


 僕たちの待機場所の周りにも、今のところ外敵の気配はない。

 三人で身を寄せるように集まって、凛のインカムから聞こえてくる音声に耳を傾けた。

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