7-3
確かに、僕からイチャイチャな雰囲気の発言をしたのは事実。
人恋しいような気持ちになっていたのも認める。
だがこれはちょっとひどい。
余震のあと、朝っぱらからイチャイチャタイムが始まってしまい、すでにお日さまは頭の上を軽く越している。
僕と凛は敷きっぱなしのお布団の上に、あられもない格好で転がされていた。
そしてそれを、全裸の仁王立ちで上から見下ろす奏の姿。
フラウアの力、いや奏の欲望、恐るべし。
昨晩、自分のアレをパワーアップさせてみせると、奏が欲望にまみれた願いをフラウアに託したことを知ってはいた。
とはいえ笑い話くらいにしか思っていなかったし、見た感じサイズ的なものは変化していなかったから、正直油断していた。
凛に至っては、それが始まる直前まで、奏を小馬鹿にして笑ってすらいたほどだ。
そんな愚かな僕たちを襲った、暴力的なまでの快感。
即堕ち2コマ。
その快楽の余韻だけで、もはや僕と凛は足腰が立たないどころか、息も絶え絶えになっている。
「うへへ、ねえどうだったどうだった? すごい声だったよねぇ、二人とも。……ほら、ごめんなさいは? 昨日はわたしを馬鹿にしてごめんなさいって、ちゃんと謝らなきゃだめだよ?」
してやったり、といった表情の奏は、昨晩よわよわだった自分を馬鹿にされてよほど根に持っていたのか、特にデリカシーに欠けていた凛の顎をつかみ、ニヤリと口角をあげた。
ただしその目は笑っていない。
「うぅ……悪かった。もう勘弁してくれ奏。こんなの何回もやられたら、死んでしまうぞ」
さすがの凛も、奏が手にしたマジカルなアレには勝てない。
奏のアレは、明らかに何か魔術的な、スケベなチート的なパワーを秘めていた。
そこから強制的に与えられる人知を越えた快感に、凛はほとんど絶叫に近い悲鳴をあげ続けていたので、声も枯れてしまっている。
「んん? か な で さ ま、でしょ?」
「ひっ! 昨日は申し訳ありませんでした奏様……」
だらりと転がっているところに、まだまだ元気いっぱいなアレを見せつけられ、凛は布団をかぶり必死に身を隠そうとしている。
「うむうむ。……あれ? そっちの猫ちゃんは、何も言わないのかな? まだ、わからせ足りてなかった?」
久々の大勝利に、奏はその矛先を僕にまで向けてきた。
僕は昨日だって、馬鹿にはしていないし、なるべく優しくしていたつもりだったのに……。
「ひいぃ……す、すいませんでした奏……いや、ご主人様……」
こちらを睨む奏の迫力に、僕のしっぽは垂れ下がってしまう。
奏のアレが秘めた不思議パワーで、危ないお薬を使われたみたいな状態になっていた僕は、あの最中に意識も朦朧とするなか、奏をご主人様呼びするよう約束させられてしまったのだ。
もはや元男の尊厳などかけらも残ってはいない。
マジカルなアレには勝てなかったよ……。
「でもこれ、自分でもさすがにやりすぎってわかったよ、楽しかったけど。よしフラウアちゃん、もうちょっとパワー下げようか。このマジカルすぎるのを、もう少しだけ弱くしてね。わたしが本気出しても、二人が死なないギリギリくらいにね」
完全に元に戻せよ! と思う自分の影で、またそのメスとしての最上級の快感を望んでしまっている自分がいるのも否定はできない。
きっと凛も同じような気持ちだろう。自分のアレとフラウアの花に交互に話しかける怪しい奏の姿に、彼女も特に突っ込みを入れることはなかった。
「そういえばユウ、二回目くらいを楽しんでたとき、なんかスマホに連絡きてたみたいだよ?」
未だに足腰が立たない僕の猫耳頭やらしっぽやらを撫で付けつつ、奏が僕のスマホを渡してくれる。
メッセージアプリには、昨日知りあったばかりの遥、通称ウサギハラさんから、新規メッセージが届いていた。
『ちょっと話があって会いにきたんだけど、アンタたち朝っぱらから凄いね。逆に尊敬するわ。……さすがに今日は諦めて帰りました』
あああああ!? 見られてるじゃん!!
人様に見せられるような状態じゃなかったよ!?
『突然来て悪かったね。お土産だけ縁側に置いといたから。気に入ってもらえたら、明日あたりあたしの相談に乗ってよね』
しかも縁側まで入ってきちゃってるじゃん……。
絶対がっつり見られてるじゃん……。
遥はなんか匂いとか気配がわかりにくいんだよね。たぶんウサギの能力的なものなんだろうけど。
メッセージを横から盗み見ていた奏が縁側に向かい、その遥からのお土産とやらを取りに行ってくれた。
また野菜か何かかと思ったが、戻ってきた奏が抱えてきたのは、奏の頭2つ分以上あるような大きさの、折り畳まれた黒い板だ。
「ん? どうした奏……様。なんだそれは?」
ガラガラ声が治らないまま、だらりと寝転び続けている凛にも僕のスマホを見せると、他人に自分たちの痴態を見られていたことを知り、珍しく顔を真っ赤にしてうつぶせになっていた。
結果だけ言うと、遥がお土産に持ってきてくれていた黒い板は、携帯用のソーラーパネルだった。
今ちょうど僕たちが喉から手がでるほど欲しかった、まともな発電機能のあるアイテムだ。
アウトドアというかサバイバル好きな凛が言うには、キャンプなどに持っていく人もいるような、有名なメーカーのものらしい。
なぜあんなにかわいらしい遥が、こんなゴツい道具を持っていたのかは謎だが、今はとにかくありがたい。
奏がそれを日当たりが良い縁側に広げると、昼過ぎのだんだん弱くなってきた日差しでも、接続したモバイルバッテリーはぐんぐん充電が進んでいった。
先日使ってみたが何の役にも立たなかった100均のソーラー充電器とはレベルが違う。
「すごいすごい! これでお昼のうちに充電しておけば、電気の問題は解決だね!」
はしゃいでいる奏を横目で見つつ、自分たちがチ○負けしているところを見られたショックに、僕と凛は未だに立ち直ることができずにいた。
遥に感謝の返信ができたのも、ほとんど夕暮れどきになってからのことだった。
「むぐむぐ。……しかしウサギハラのやつ、珍妙なやつだとしか思っていなかったが、ここまで良いものをもらってしまっては、評価を改めざるをえんな。……やつは神である、と。……んん、しかしこの野菜炒め、さすがに味が濃すぎないか?」
充電の切れかけた各々のスマホのバッテリーはかなり回復し、凛も上機嫌だ。
今日の夕飯は、僕が例の畑から回収してきたキャベツを、焼き肉のタレで炒めただけの、僕特製野菜炒め定食。
猫舌が災いし、調理中の味見は不可能だった。
「うーん。ユウの料理はいつもちょっと個性的な味だけど、今日はかなり……キレッキレだね?」
愛の営みに関する部分を除けば、その魂が優しさ100%で構成されている奏は言葉を選んでくれているが、今日の僕の料理は特にひどい。歴代ワースト記録くらいには不味い。
「明日はウサギハラさんも来るんだし、わたしがおいしいお昼ごはんでも準備するよ。あ、デザートも作っちゃおうかなー」
人様に食べてもらえるような料理は、この中では奏にしか作れない。
この通り僕もなかなかひどいが、味に文句を言っている凛だって、得意料理はインスタントラーメンだというワイルドすぎるお方なのだ。
「電気が確保できた以上、どうせこれといって急ぎでやることもないわけだしな。明日はウサギハラ歓迎パーティーでも開いてやるか?」
昨日凛と奏がドラッグストアから回収してきた大量の物資のおかげで、猫たちの食事やおやつを含め、当分は豊かな生活ができそうだ。
我が家はクロのおかげでセキュリティもほぼ完璧。
遥には知り合いということで普通に入り込まれてしまったが、侵入してきた間抜けなバケモノは、今日も軽々とクロの鋭い爪に撃退されていた。
クロの手下の猫にも、巨大化こそしていないけれど、フラウアの影響でそれなのに戦える力を手にした猫が現れたようで、二匹体制だと鳥のバケモノなんて何の脅威でもなく、最初から獲物扱いされてしまっているようだった。
庭から一歩外に出れば、危険な世界が広がっているというのに、この家にいるとサバイバル中とは思えない、ゆるゆるな生活が可能である。
「遥……ウサギハラさんは、僕らと違って一人暮らしだからさ。いつも実際かなり大変だろうし、二人とも、明日はなるべく優しくしてあげてね?」
なかなか箸が進まない自分の料理から目を背けつつ僕が言うと、二人はうんうんうなずいてくれたが、やはりその野菜炒めがあまり減っていないことは間違いなかった。
ちょっとスケベな第7章は以上です。
10万文字をいつの間にか突破した本作を、引き続きブクマとご評価でご支援よろしくお願いいたします。
感想まで頂けたら、嬉しくて作者は小躍りしてしまうかも……!!