5-3
「……おい、おいユウ? 大丈夫か?」
明らかに様子がおかしい僕に、凛が心配して声をかけてくる。
でもその前に、その生足を絡めてくるのをやめて欲しいんだってば。
「あ、そっか……ごめんねユウ。ちょっとやりすぎちゃったかな」
奏は昨晩の僕の状態を思い出したのか、ぱっと手を離してくれたが、そのはずみで一瞬、僕の手の甲が奏のアレの膨らみのところに当たってしまった。
だめだ、意識すればするほど、体が熱い。
下腹が熱くて、息が苦しくなるくらいもどかしくて、叫びだしてしまいそうだ。
昨日の熱にうかされたみたいな感覚より、もっと激しい衝動が体中を走っている。
改めて感じる、猫の発情。
自分の体が、強くそういった行為を求めてしまっているのがはっきりわかる。
凛がこちらを覗き込むように、僕に顔を寄せている。
その綺麗な顔を愛おしく感じすぎて、頭が真っ白になる。
「ユウ、落ちつけ。ゆっくり息をしろ、ゆっくり……んん!?」
そうか、こうやってキスしてれば、けっこう満足できるじゃないか。
「ユ、ユウ? 待て待て! ん、ぷは! ちょっと待て! 嬉しいが、奏も横にいるん……んん!」
唇に感じる柔らかい感触で、自分の衝動がずいぶん満たされていくような感覚がある。
元々僕にキスしてきていたのは凛のほうからだし。
興奮させてきたのもそっちからだし。
今さら嫌とは言わないよね?
凛の体に馬乗りになって、何度も何度もキスを繰り返す。
最初は少し抵抗していたくせに、凛もだんだん何も言わなくなって、少しずつ息が荒くなって、とろんとした表情で僕を受け入れはじめた。
その瞳を見ていると、また自分の体がかあっと熱くなっていくのを感じる。
まだ、全然足りない。
下敷きにした凛の体は柔らかくて、長い黒髪はシャンプーのいい匂いがして、頭がどんどん働かなくなる。
「……ちょっと、急にずるいよ二人だけで。わたしもまぜて!……わ、ちょっと! わ、ああ!」
肩を掴んで割り込んできた奏のことも、ほとんど押し倒すみたいに凛の横に並べて、辛抱たまらずすぐに唇を奪った。
昨晩はまだキスまではしていなかったから、奏とはこれではじめての口づけになる。
乱暴な感じになってしまっていることを謝りたいのだけど、そんなことよりこのキスを続けていないと、体がおかしくなってしまいそうだ。
凛の唇よりも少しだけ温度が高くて、触れ合うたびに自分の唇が溶けていくような感覚になった。
こんなにほとんど無理やりキスしているというのに、奏はすごく優しい表情で、たぶんとても嬉しそうな匂いをさせて、自分からもお返しみたいに、激しめに舌も絡めてくれる。
口の中が奏の柔らかい舌でいっぱいになって、頭の中までかき回されているみたいだ。
「おい奏、ずるいぞ。私はまだ舌は入れたりしていなかった」
今度は凛が、奪い返すみたいに僕の口の中を犯してくる。
「もー、わたしの順番だったのにぃ。あ、でもわたしは凛ともチューしたいんだけどな。いい? ね、いいよね?」
今度は奏が凛の唇を奪って、そして凛も負けじと奏の唇を奪い返す。
最初に凛がいたあたりの布団は、僕らが入り乱れてぐしゃぐしゃになってしまっていて、それも何だか妙にいやらしく感じる。
「……ごめん、二人とも。僕、なんかおかしくなってた。頭がぼんやりして、いつの間にかこんなとんでもないことを」
散々キスを繰り返し、お互い上になったり下になったり抱き締めあって、ようやく僕の体はある程度満足できたのか、苦しいくらいの発情の衝動はずいぶん収まってくれた。
ただ、頭はある程度すっきりしたけれど、逆に下腹のあたりはさっきよりもっとむずむずしていて、自分の股関が湿っていることもわかってしまう。
落ち着け。僕は男。僕は男だ。
「いや、私の方こそ、猫の発情ってものをちょっとなめていたな。挑発しすぎたよ、すまなかった。……ふふ、しかしなんで私たちは謝りあってるんだ? 別にいいんじゃないか? 私はむしろ嬉しかったよ」
凛はまだ少し普段より崩れた、なまめかしい表情のまま、機嫌よさそうに笑っている。
「わ、わたしはちょっとこれ、生殺しみたいでつらいかも……」
途中から奏の股関の膨らみがすごいことになっていたのは気づいていたが、実際やはり大変みたいだ。
が、とりあえず見てみぬふり、聞こえなかったふり。
「なあユウ。イカれたやつだと思うかもしれないが、私はお前と奏、このままどちらも私の嫁にしてしまいたいんだが」
幸せそうな表情のまま、凛はなかなか衝撃的なことを言い始める。
「えっ、それならわたしだってそうだよ? わたしだってユウと凛、どっちもわたしのお嫁さんにするつもりですけど? 元々そう狙ってたしぃ?」
奏もまた凛に張り合っているみたいに、でも本当に幸せそうに崩した顔のまま言って、今度は僕と凛に、順番に優しくキスをしてくれた。
「あのさ、僕は、もう全然体は男じゃないし。すぐさっきみたいに発情してわけわかんなくなっちゃうし」
でもこうなったら、僕だってはっきり言うしかない。
こんな世界で、今の自分にとって大切なものは、ちゃんと理解できているから。
「だけど、その、もし二人が嫌じゃなかったら、二人とも僕のお嫁さんになってくれたら嬉しいって、思ってるよ」
『……そういえばアンタたち今日はお星さま見た!? 今日はときどき雲が切れてて、隙間からとんでもなく綺麗な星が見えてるぴょん! 写真が趣味なリスナーさんいたらさ、絶対写真とっときなよ!』
ウサギハラさんがラジオで言う通り、崩れた屋根の向こうには、世界がこうなってから始めて見ることができた、驚くほど綺麗な夜空が浮かんでいた。
星の光が、揺らめくように煌めくようにまたたいて、一つ一つの光がくっきりと目にうつった。
こうして三人で、体も心も、男だったり女だったり、ちょっと普通じゃない部分もいっぱいあるけれど、今この最悪な終末の世界の中ですら、三人でいられることが堪らなく嬉しい。
世界が元のままだったとしたら、きっと言えなかったことも、今なら言える。
「凛、奏。僕は二人のことが大好きです」
「ユウ、凛。わたしも二人のこと、大好き」
「奏、ユウ。私もお前たち二人が大好きだ」
三人でほとんど同じようなことを口にして、ほとんど同じように幸せそうに笑う。
『夜はまだけっこう冷え込むぴょん! 風邪ひかないように、アンタたちも暖かくして寝るぴょん! 寝るときも寂しくないように、これからあたしがしばらく歌っとくから、眠くなった人は、そのまま眠ってまた明日ね!』
ラジオから聞こえていた歌声は、二人とまたかわるがわるキスを繰り返すうちに、何も聞こえなくなっていた。
で、早朝。
幸いまだ、僕はギリギリ男としての尊厳は守ったまま、朝を迎えることができていた。
まだこの貞操、失ってはいない。おそらく近日中には失うだろうが。
あの後、はっちゃけて早速自分の股関の状況を凛にバラした奏は、またそれを見て発情してしまった僕をうまく言いくるめて2回、遠慮がちにしかし興味津々に参加した凛を追加してさらに1回、元気に性欲を解消し、すっきりと眠りについた。
その後取り残された凛と僕は、かなりいい感じの雰囲気で、ちょっとキス以上のあれこれにも進んでしまったけど、いつの間にか僕もそのまま眠ってしまったみたいだった。
感想としては、非常に素晴らしかった、とだけ申し上げておく。
ちなみに凛の指さばきによって、何のとは言わないが、僕の膜はやぶれてしまった可能性が高い。
まだちょっと股が痛いからほぼ間違いない。まあ、別に凛が相手なら構わないけどさ。
「あー……おはようユウ、奏」
凛が寝起きのガラガラ声のまま、まだ横になっている奏の柔らかい金髪をなでている。
「本日の行動方針について変更がある。今日はまず薬局かコンビニにいくぞ。避妊具が必要だ。このままじゃ明日にでも奏に孕まされそうだ」
奏はまた照れたように顔を赤くして布団に潜りこんだ。
かわいいけれど、昨晩あんなにハッスルしていたやつと同一人物とは思えない態度である。
短いですが5章は以上です。
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