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【完結】終末の花と猫と百合  作者: くもくも
4章 猫と金髪の救世主
15/47

4-1

 音質の悪い音楽が終わり、女の子がかわいらしい声で話し出した。


〈ねえあんたたち聞こえてる? ラジオじゃみんなの反応がないからめっちゃやりづらいぴょん! でもあたし頑張って今日は歌うから、アンタたちも暇ならもうちょい起きて聞きときなさい! それじゃあ次は……〉



 スマホで繋いだネットラジオからは、自衛隊の人から聞いた、ウサギハラなんとかちゃんの、特徴的で独特と言わざるを得ない声や歌が、もう30分くらい流れ続けている。


 通常のラジオでは今、政府がたれ流している注意、警戒みたいな話が何度も何度もリピートされていて、聞いているだけで気がめいるような感じだったが、この子が流してくれているネットラジオは違う。

 ひどい状態のこの日本でなんとか生き延びているみんなを元気付けるような、明るくて、暖かい雰囲気があった。


 苦しさを笑いとばすみたいに、何度も何度も、自分の笑い声や明るい歌を、楽しそうに流しつづけてくれている。



「……すごいね、この人。自分だって今、きっと大変な生活してるはずなのに。……みんなのため、ファンのため? こんなふうに、誰かのために行動できる人もいるんだね」


 奏はネットラジオの音声に、始まって数分後から、しばらくは感動して涙目になっていた。



〈……そういえば、はじめましてのリスナーさんも多いよね、たぶん。こんばんは! 兎原ピョンだぴょん! 今日はいつもの動画サイトが使えなくなってるから、このネットラジオでライブ放送中だぴょん! また明日もおんなじ時間から放送するから、みんなちゃんと聞きにこいよなあ!〉



 質素な保存食での夕食後、二人でまた床に並べた布団に身を包みながら、このラジオの開始を待っていると、僕もこんな世界では不謹慎なくらいにワクワクした気持ちになることができた。


「また明日も、かあ。……こういう人が、本物のアイドルってものなのかな。本当にこの近くにいるなら、ちょっと会ってみたいよ。僕たちから食料とか、提供できるかも知れないしね」


 僕が布団にくるまったまま言うと、奏はクスクスとからかうように笑ってくれた。


「あれれユウ。もうこの子のファンになっちゃったの? こんなにかわいいわたしや凛が横にいるのに、ユウは他の女の子が気になっちゃうんだねえ」



〈……そういえばあんたたち、最近星見た? ちょっとあたしのとこはさあ、ここ二三日は曇り空なんだけど、晴れてたら夜さあ、やばいよ星。こないだマジでびっくりしたぴょん。夜にどこも真っ暗だからさあ、星とか月とか、まじ綺麗なんだから〉



 奏はニコニコしながら、僕の猫耳を曲げたり撫でたりしてくる。

 ラジオの音声と、奏の優しい雰囲気と、昼間の危険な一人行動から解放された安心感で、自分の喉がゴロゴロと音を鳴らすのは止めることができない。


「……凛も楽しくサバイバルしてるみたいだし。一人ぼっちなのはかわいそうだけど、なんかこのラジオのおかげで、今日もいい1日だった、みたいな気分になるねえ」


 凛からはちょくちょく、家の猫たちも含めた写真やメッセージが届いていたが、先ほど 『寝る! おやすみ!』 という豪快なメッセージが届いて以降は連絡なしだ。

 もちろんウサ耳の女の子の姿も目にしなかったらしい。



〈そういえば今日これもびっくりしたんだけどさ、うちもなんと、水道が復活してたぴょん! 日本すごくない? ていうかネット関係もそうだけど、インフラ関係で働いてる人たちがさあ、カッコいいよねえほんとさあ。でもさ、冷たいんだよシャワー。ガスねえじゃんってなった。でもね、あたし洗ってみたよ髪。まじ寒かったし。うひゃひゃ!〉



 奏は僕の表情をチラチラ確認しつつ、なぜかだんだん布団ごしに距離をつめてきていて、もうほとんど布団を外せば密着しているような距離にいる。


 その奏の慣れ親しんだ顔が近くにあって、僕もすっかり落ち着いた気分になっていた。

 だけど奏の表情はどこか、緊張しているみたいな、変な感じだ。


「ね、ねえユウ? ちょっとわたし、凛がいないうちに、ユウに相談があってさ」


 ……なんだろう。また凛へのおさえきれない百合な恋心の相談だろうか。


 奏は布団の中から上目遣い気味になっている。こんなの、男だけじゃなく、そっちの気がない女の子でもドキドキしちゃいそうだけどなあ。



〈……じゃあそろそろ次の曲いってみるぴょん! 明日の放送の分はさあ、ネットであんたたちがリクエストした曲探してみるよ。掲示板のリンク張っといたからさ、なんかリクエストしてね! あ、一人一回だよ! アホなあんたたちがいっぱい書き込んだら、せっかくのネット回線がまた重くなっちまうぴょん!〉



 奏はスマホの音量を少し下げて調整し、なんだかそわそわしながら体を起こす。

 小さな音量で、スマホからアニメか何かの曲が、そのアイドルの声で流れている。


 奏からは、緊張しているような、怖がっているような匂いがした。

 もしかしたら、昼に話していた、男性の気配的なものに関する話だろうか?


 いずれにせよ、話しづらそうにしているその表情がなんだかかわいそうで、僕はまたとりあえず、自分の胸に彼女をおいでおいでしてあげた。



〈……はー! 歌いすぎて喉がきつくなってきたね! 最近ゲームの配信ばっかりで、歌の配信サボってたからさあ、喉がザコになっちまってたぴょん! でもうち、のど飴はめちゃくちゃ買いだめしてたからさ、たぶん一年くらいはのど飴だけでも生きていけそうな感じぴょん!〉



 奏は僕の胸に顔をうずめ、無言でたっぷり二分くらい堪能していたが、すっと離れると今度は、スマホの音を完全に消してしまった。


 不思議と、また奏から少し男性っぽいような匂いがする。

 全然嫌な匂いではないのだけれど、奏とは本来結びつかない感じの、何か、不自然な匂い。


「あ、あのねユウ。凛にもまだ話せてないんだけど、フラウアの影響でさ、わたしも少し、体が変わっちゃったみたいで」



 奏はこちらに目を合わせず、布団をしばらく見つめていたが、意を決したように膝立ちになると、なんと急に自分のはいていたズボンを下ろした。


「ご、ごめんねユウ。でもこんなの、元男の子のユウにしか見せれなくて。……この病院に来たときにはもう、これが付いちゃってたみたいなの、わたし」



 奏から男性っぽい匂いがしていた原因は、これでよくわかった。やっぱり僕の気のせいというわけではなかったのか。

 匂いに何か嗅ぎ覚えがあるような印象があったのも、合点がいく。


 奏の股間には、元々僕の股間についていたものと同じような、いや、それよりだいぶご立派な一物が、まさに男性的な象徴そのものが付いており、しかもそれは元気に天を向いていたのである。


 それが付いてるのもびっくりだし、それがアレな状態になっているのもまた驚きだ。



「ちょっ、え、え!? わ、わかったわかった奏! わかったからとりあえずそれ仕舞おう? な?」


 自分以外のそれが、ご立派な状態になっているところなんて、その手の動画くらいでしか見たことがなかったから、ちょっとかなり動揺してしまう。


 目を反らしてとりあえず奏に、ズボンをはけとアピールしてみるが、従う気配は全くない。



「こんなの、ユウと凛にバレたら、絶対嫌われると思って言い出せなかったんだよう。……でも、もう自分じゃどうにもできなくて。ユウとか凛とひっついたりしてたら、何か変な気分になって、これがこうなっちゃうんだもん」


 いや、いやいやそれは……。



 でも、なんで奏にこんなものが付いてしまったのだろうか?

 フラウアが人の願いを叶えたとして、奏がこの、股間にそびえ立つ男性の象徴を手に入れることを望んでいたと?



 なんだかこの珍妙な雰囲気に呑まれてしまったのか、頭がさっきから変にぼんやりして、うまくものが考えられない。

 体が熱いような、むずむずするような。


 いや、とにかく、奏はそんな体の変化があって大丈夫なんだろうか?

 僕は今のところ、逆にその股間の愛棒を失っても、体調的には不都合はないみたいだけど。



「それ、痛かったりしない? おしっことかも、ちゃんとうまくできてる? つらいことない?」


 僕がなんとか、霞がかかったような頭に浮かんだことを伝えると、奏はちょっと困ったように、目尻を下げて弱々しく笑った。


「ありがとう……でも、こんなふうにすぐ元気になっちゃうんだけど、その、どうしても自分で処理ができなくて。……いや、この歳だし、知識としてはやり方は知ってるんだよ? でもなんか怖くて最後までできなくて。何回か、朝起きたらパンツ汚しちゃってたりして。ほんと、困ってるんだよう」


 それは、なんというか、お元気なことで。

 奏が本当に困っていて、つらそうだというのも、僕には匂いで感じられているけれど。

 


 奏のそれは、こんな話をしていても全く元気を失っていないようで、思わず視界に入ってきてしまう。


 こんな状態で自分で処理できないと、つらいだろうというのもよくわかる。

 でも、今は頭が何かうまく働いてくれない。

 体が熱くて、下腹のあたりがむずむずする。



 どうしよう。どうしてあげたらいいのか。


 奏から感じる男性的な匂いは、はっきりとその股間から感じられる。

 嫌な匂いではない。むしろ、好ましいくらいの。


 何か体が、熱くなるくらいの。



「あ、あのさ奏」


 僕は自分の息が少し荒くなっているのを、意識のどこかで他人事のように感じながら、自分でも驚くような提案をしようとしていた。



「その、最初の一回だけ、僕がやり方を教えてあげるよ。触るだけ、触るだけだったら、いいよね? 大丈夫だから僕、うん」



 体が熱い。

 もしかしてこれが、猫の発情ってやつなのか?



 爪を納め、奏の方へ手を伸ばす。

 

 働かない頭の片隅で、ネットラジオの続きはどうなったのだろうかと、ぼんやりと場違いな考えが浮かんでいた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] あわわわ…えっちです…
[一言] 好みなので続きが気になります 生えてるのは予想出来ましたけど…このメス猫元男性とは思えない感じに発情し過ぎでは? 早く凛さん帰ってきてー
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