敗北
15人、とクロウは白んだ視界で何とか敵の数を把握した。
チラッと自身の右腕を見たが、再生こそ始まっているがまだ時間がかかりそうだ。
握った刀を持つ左手に思わず力が入る。利き手は使えず、眼もあまり見えていない中でこの数の相手をしなければならない。
状況は最悪一歩前、かろうじて救いがあるとすればトゥーリの能力は大まかに予想が付くといったところだろうか。今まで見た光景を思い出し、クロウはトゥーリの能力を分析する。
おそらくは対象を絵に閉じ込め、そのコピーを使役する力と言ったところだろう。問題となってくるのはその数である。1体1体は触れることさえできれば消失させることが出来ることは既に分かっている。ただ、トゥーリが無尽蔵にコピーを生み出すことが出来るとすればいよいよもって勝ち筋は絶望的となるだろう。
クロウが思考している間も攻撃の手が緩められることなく、氷結、火炎、稲妻と様々な種類の魔法がクロウを殺さんと放たれた。
彼は咄嗟に刀で火炎を操り氷結にぶつけ相殺した。だが、右側から放たれた稲妻への対応が遅れ、頭部に直撃した。
その一撃を皮切りに、様々な種類の魔法がクロウへ放たれた。刀を振るい対応しようとしたクロウであったが、稲妻を受けたせいか体が思うように動かなかった。
そして数多の魔法を一身に受けたクロウは玄関扉まで吹き飛ばされた。
「あらあら、大口をたたいていた割にはあっけないこと」
蔑んだ瞳のトゥーリは馬鹿にした口調でそう言った。そういう彼女は戦いはもう終わりといった表情をしていた。そう、彼女は見誤っていた、クロウという男の諦めの悪さを。
ドンッと何がが爆ぜたような音と、雄たけびがトゥーリの耳に届いた。ハッとして先ほどまでクロウが転がっていた場所を見るがそこに彼の姿はない。
ぞくっとした悪寒と共にトゥーリは上を見上げる。そこには再生した右腕で刀を構え、一直線にトゥーリのもとへ向かってくるクロウの姿があった。彼の右目はつぶれ、左腕は千切れ、それ以外の箇所も傷だらけであった。ただ、潰れていない左目はただひたすらにトゥーリを見据えていた。
「ちっ、お前たち魔法を——」
トゥーリは再度魔法の一斉掃射を命令しようとしたが、それでは自身も巻き込まれることに気づき、命令を止めてしまった。
”いける”——狙いは首筋、そこに峰を打ち込み昏倒させれば勝てる、長年の経験からクロウはそう確信した。
だが、その刹那——
「クロウ、私を斬るのかい?」
トゥーリの前にアリスが躍り出る。クロウは思わず振り下ろそうとした刀を止めてしまった。もちろんクロウはそのアリスがホンモノではないことは分かっていた。理性では分かっていたが、感情がその手を思わず止めてしまった。そして、その僅かな隙は致命的な一手となった。
アリスの手が橙色に輝き、同時に巨大な爆発がクロウを吹き飛ばした。
べちゃッという音と共に、辛うじて人であるとわかる程度の黒焦げの物体が玄関口に転がった。
その物体からは苦し気に呻く声が発せられていた。
「流石にこれだけやれば再生にも時間がかかるでしょう。まったく、魔力もないごみの分際で手を焼かせてくれましたね……。」
トゥーリはそう吐き捨てるように言うと、彼女の執事を呼びつけた。
「ネブラ、この男を始末して森にでも捨てておいてちょうだい。……あぁそれと、昨晩この男に何か助言をしていたようだけど、次はなくてよ。それじゃあね、クロウさん。死ぬ前にせめても、良い夢が見れるといいわね」
柔和な笑顔を床に転がるクロウへ向けると、トゥーリは背を向けて自室へと戻っていった。ネブラは去っていく彼女に深々と礼をし、言った。
「お慈悲に感謝いたします」
そして、ネブラはクロウの方を振り返ると、クロウの頭に手を当てた。すると、ネブラの手から漆黒の闇があふれ出て、クロウの体を包み始めた。クロウは抵抗する気力もないまま、その闇に飲まれ、意識を失った。
「私はあなたのように信念を貫くことが出来ませんでした。どうぞ、恨んでください」
意識を失う直前のクロウには、そう悲し気にいうネブラの声が聞こえた気がした。




