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こんにちは、ノムーラはん~外伝

『こんにちは、ノムーラはん』外伝~新コロ奇譚株セミナー

作者: すのへ

「ノムーラはん、こんにちは。あれ、ネット会議でっか」

「モルーカスはん、こんにちは。会議ちゃう。株セミナーや」

「へ? 講義中でっか。そういや、新コロ以来、個人の市場参入が激増やそうで」

「せや。けど、みな、素人やから手ほどきしたげんと」

「そんなこと言うて。じわじわしぼり取る算段でっしゃろ」

「ふん。個人はわてら機関の養分や。簡単に退場されたら困るからな」

「大事な金づるですわ。早々と樹海行かれたら旨みがない」

「せやで。儲かると見せかけて、親類縁者までどんどん個人を引き入れるんや」


 「聞こえてるぞ、こら!」

 「個人で勝てるのは5%ってことくらい知ってるぜ」

 「なにもしなきゃ養分だ。だからこうやって学んでるんでぇ」

 「おう! さっさと教えやがれ。空売り機関の腐れ外道が!」

 「この!」

 「人でなし」

 「三一さんぴん株屋!」


「わ、えらいぎょうさん受講してはるんでんな。罵声もハンパない」

「現役機関トレーダーのわてのテク講座や。そら人気やでぇ」

「こんな多いならライブ配信のほうがええんちゃいまっか」

「上からのお達しなんや。双方向で手取り足取り、丁寧にお教えせいて」


 「おい株屋。この株、上がってるぜ。買えばいいのか」

 「お、急上昇だ。わ、わわわ。ピンコ立ちだ。買おうぜ」

 「買おう。買いだ。みんな買おうぜィ!」


「あかん! 待て! コラ! これ、どこの株や?」

「『ズーム』てありますな。JASDAQ銘柄ですわ」

「ズーム? あのZoomか。日本法人あるけど、上場してへんやろ」

「えーと、あ、音関係の会社ですわ。ギターやなんかのエフェクトやら」

「なんやて! みな、買うたらあかん! ちがう会社や! Zoomやない!」

「あれま。画面から受講生だいぶ消えましたで」

「買ったヤツらやわ。イナゴになったんや」

「え~イナゴというのはですね、考えもなしに上昇銘柄に飛びつく人たちのことです」


 「そんなことぐらい知ってるゾォ~」

 「イナゴタワーで昇天な」

 「いいから、さっさと売買タイミング教えやがれ」


「え~、安いときに買うて、高いときに売る。これが基本です」


 「ばか、マヌケ。それも重々承知でェ。そのタイミングだ、難しいのは」

 「そうだ。もう能書きはいいから実践あるのみ」

 「おれたちは手っ取り早く儲けてぇんだよ」

 「銘柄はどれがいいんでぇ。どの株で勝負すりゃいいんでぇ?」


「それはやな、各自で好きな株をみつけて、日計りか、逆張りでキープするか」


 「こんなモン持ってても塩漬けがオチだぜ」

 「あげく腐って一文にもならなきゃ目も当てられねぇぞ」

 「こちとら気が短けえんでぇ。宵越しの株は持たねえ!」

 「いよっ! 江戸っ子だねェ。生まれはどこでぇ?」

 「おれっちかい。おれはよう神田の生まれよ」

 「ほお。いまどき神田で生まれたかい。そりゃ豪気だねえ」

 「へへへ。よ、寿司食いねえ。一杯いこうじゃねえか」

 「おっとっとっとっっと。はいよ、ご返杯」

 「おおっとっと。ひ~、沁みるなぁ~」


「あれま、ノムーラはん。オンライン飲み会なってきましたでぇ」

「こらいかん。おい、こらこら。まだ場中や。酒は引けてからにせい」

「こらあきまへんで。なんぞ、餌ェ、ばらまかんと」

「せやな。よっしゃ。優良株の値動きエエやつを見はからってと」

「これはどうだす。上場から日ィ浅いからよう跳ねてまっせ」

「あかん。そんなん素人が手ェ出したら一発でヤられるわ」

「マザーズのゲームかバイオで行きまっか。テラとかナノなんかスゴいでっせ」

「あかん。アンジェスでも、もう危ないわ。カモになるばかりや」

「そんなら、どんな株がよろしいんでっか」

「出来高が多うて、値動きがゆったりしてて、買っても損せんとこがええ」

「そんな都合のええ株がありますかいな。あ」

「え。あったんかい。どれどれ」


ト、モルーカスが探し出した株は、ウシオ電機という産業用ランプで世界トップクラスの企業です。余談ですが、『会社四季報』を一瞥すると、ウシオに限らず各方面での世界首位級の企業がずらりと名を連ねています。壮観です。こういう世界的な企業が新コロ騒ぎで二束三文で叩き売られたのですから、たまったものではありません。ま、そのおかげで優良企業の株が安く買える絶好の機会にもなったのですが。


「ここなら上にも下にもせいぜい50円や。値動きもゆっくりやから初心者にはええわ」

「株価、下げすぎたまま元に戻ってまへん。上値、まだ500円くらいありまっせ」

「下には落ちても200円くらいや。退場はせんやろ。ここにしよ。え~ みなさーん!」


ト、ノムーラが指示してウシオ電機の株をそれぞれが買い注文を出しました。百株、1枚限定です。


 「で、どうすんでぇ。いつ売るんだ?」

 「おう、買っただけじゃ儲からねえ。いつ売るんだ?」


「いらちなこと言ィな。個人のアドバンテージは時間軸や。よう覚えとき」

「さいだす。個人がわてら機関に唯一勝てるのが時間だす」

「いつまでも、ずっ~と持ってりゃ上がるんや」


 「なんだと!そんな眠たいことできるか!」

 「そうだ、そうだ。もう売るぜ!おう」


「せやから、いらちは損やて言うてるやん。わからん人たちやなァ」


ト、ノムーラはなだめにかかりますが、受講生たちは聞きません。目を皿のようにして板に見入り、1円2円の値動きにも過剰に反応して売ったり買い戻したりするありさまです。もはやだれもノムーラのほうを見ていません。


「ゴルア~ そんなんやから樹海行きになるんや。ちゃんと言うこと聞けや」

「あきまへん。脊髄反射や、これ。いちばんアカンやつでっせ~」

「売ったら上がり、買ったら下がるヤツやろ。まさに養分やん」


トそのときでした。いつもは文字どおり牛歩と揶揄されるウシオ電機の株価が突如、吹き上げました。ぶおおおおおおおお~と効果音さえ聞こえてきそうな勢いです。


「わ。なんや、これ。わ。すっ飛んで100円、値ェ飛ばしてるがな!」

「ノムーラはん、いまや! 売りや、売りでっせ! みなはーん、売り!」


トそこへ忽然と、「買い! 買い! 買い! 」と声高に叫びながら画面いっぱいに、どデカく現われたのは、ひっつめ髪で青いノースリーブのおばさんです。これぞ知る人ぞ知る、かの有名な株女子、ウルフその人でした。独特の探知レーダーでつぶやいてはイナゴ集団を率いて神出鬼没、現れたと見るや、もう姿はなく、次の銘柄へと買い向かっています。そのウルフが画面を占拠し、号令をかけます。


 「行くわよおおおおー ここで買わないヤツは株をやる資格はなーーーーい!」


ト、どアップの顔が叫ぶと、画面から押しやられた受講生たちの声が応じます。


 「おう。おぅおお」

 「お、うおおおおおおおお~!」

 「買いだ! 買い! 買うぞぉおおおお」

 「うぉおおおお! あああああ!」


「なんや。声がえらい生々しうなってるやん」

「げ。ノムーラはん、えらいこっちゃ! あそこ」

「え。えー! なんやねん、あいつら!」


ト二人の前に忽然と現われ出でたのは受講生の面々でした。すでにウルフに魂を奪われて人面獣心の欲の亡者に変わり果てていました。


「うわ。おい! 待ちいな! おい」

「あきまへん、ノムーラはん。近づいたら巻き込まれまっせ! あぶない!」


ト、モルーカスの制止も間に合わず、哀れノムーラは迫り来る群衆にひと呑みにされてしまいました。


「うわ。あわわわわわあわわわ! あああぁぁぁぁ」


ト、ノムーラの咆哮はむなしく虚空に取り残され、そこには、あわれ逃げ遅れのなれの果て、イナゴタワーが空しくそびえていました。


「あーあ。ノムーラはん、呑みこまれはったわ。コロナにイナゴて、どういうオチやねん」



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