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幼馴染は妬いている


「…」


「…祈?」


「…話し掛けないでよ。裏切り者」


僕が彼女の何を裏切ったと言うんだろう?

僕は祈とそのような誓約を交わした覚えはないのだけれど、遡ることお昼休み。おつかいを忘れて暁月さんとデート(という名の人間テスト)の約束をしたことは、祈の中では裏切りに等しいのだろう。


ここで僕が悪かったと反省するのは容易いけど、謝って有耶無耶になることじゃない。

そもそもここで謝ってご機嫌取りに終始する関係を、僕は断ち切りたいのだ。


ので、放課後の帰路、僕は無言を押し通した。


「…呆れた。言い訳もしないのね」


無視。


「謝ったって許さないけど。マジであの女に会いに行くわけ? 理事長の娘よ? あんたなんかじゃ不釣り合いに決まってるじゃない。…あ、あんた面倒見れるのなんて、あたしくらいしか、」


早歩き。


「ちょっ⁉︎ 逃げんなし‼︎」


祈と一緒に競歩で歩く。無視を決め込んできゃあきゃあ喚く祈の愚痴を右から左に聞き流していたら、慣れない高速歩行のせいか脇腹が痛んだ。


「ちょっと…タンマ…」


「体力な…」


膝を突いてる僕を祈が呆れた目で見下ろしてるのが分かる。まだ家までは遠いのに。


「…もういい」


吐き捨てるようにそう言って、祈はすたすたと前を歩き出した。


正直、まだまだごねると思っていた。


一人で帰れるなんて、何年振りだろう?


見限られたことよりも、その事実が、僕の足を弾ませた。





「おかえり」


「ただいま」


なんでお前ウチいんだよ。


僕もナチュラルにただいまって言ってんなよ。


どこから突っ込んでいいのやら、祈は茅野家の食卓で呑気に煎餅を齧っている。


いや、確かに合鍵持ってることは知ってますけど。


さっきまで金輪際喋りたくもありません、な空気醸してただろ。


家に着くまでの祈と歩いていない開放感が吹き飛んでしまって、僕は何故? とか尋ねる気力も失せていた。


両親もまだ帰っていない。


怒っている祈と二人きり。


耐えられないこの空気が肌に纏わり付くその前に、僕は風呂場に足を運ぶ。


祈が何を考えているにせよ、湯にでも浸かって家族が集まるのを待つのが吉だ。隣同士の付き合いだけど、祈も僕の親の前では猫を被るのだ。


ハリネズミみたいな今の祈を避けるには、それしかなかった。


湯を張る間脱衣所でスマホを弄って時間を潰す。リビングに戻ると祈がいるから、おちおち場所も選んでいられない。


用意が整った頃に眼鏡を外し服を脱ぎ捨て、風呂場に足を踏み入れる。


ガラス戸を閉めれば後はここが極楽だ。祈が同じ屋根の下にいることなんて頭から締め出す。


湯気立ったお風呂場でさてシャワーを浴びようとしたその時、背後で物音がした。


振り返る。


ガラス戸越しには、人影が映っている。


勘違いでなければ、人影は、祈の形をしていた。


同年代女子のシルエットが制服から下着までを脱ぐいっそ背徳的な風景を曇りガラスを通して視認する。


僕は常日頃眼鏡を掛けているが、あれは祈に強いられている伊達である。


戸が一ミリ動いた瞬間、身体を流してもいないのに僕は浴槽に逃げ込んだ。


戸を引いて現れた祈の白い素肌は、ばっちり目に入ってしまった。


タオルを前に垂らしてこそいるが、心許ない薄布で膨らんだ胸からしなやかな肢体を微かに隠すだけの、恥じらう銀髪の乙女の姿がそこにはあった。


「…祈さん?」


「…何よ。昔はよく一緒に入ってたじゃない」


そうだけど。


小学校低学年とは雲泥の、贔屓目抜きで色々発達した今の祈に、動揺するなという方が無茶だ。


それは向こうも同じだろうに、肩口までの毛先を弄りながら、祈は赤い顔で言うのだった。


「あの優等生と付き合うんだから…幼馴染みと、裸の付き合いくらい、出来るでしょ…?」


有無を言わさずガラス戸が閉められる。


ことここに至って、僕は神崎祈という幼馴染が、異性であることを痛感した。


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