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神崎祈は分からない


「あたしの許可なく視界から外れないでくれる?」


「あたしと同じ酸素吸えるなんて光栄でしょ?」


「ほんっとドン臭いわね…。あたしが起こしに来なかったら大遅刻じゃない。幼馴染に感謝してよね」


「なよっちぃから柄の悪い奴に絡まれるのよ。あんたはあたしの後ろついてなさい。

…は? 隣が良い? 

…なんで不良相手にはそんなはっきり言えないのよ。

ほら、手出しなさい。…あんた、足遅いんだから、繋いでてあげる」


「ヒロ、あんたはこれからこのダッサイ黒縁眼鏡掛けてなさい。その女顔隠せば余計な注目も浴びずに済むわ。名案でしょ?

…あんたの取り柄なんて、あたしだけ知ってればいいんだから」


以上が、僕の幼馴染こと神崎祈の支離滅裂な言動の一部である。


僕、茅野紘は彼女に支配されている。


これは最早、呪縛とさえ断言してもいい。


生まれた頃から家は隣同士、お近付きになるのが自然の仲で、幼稚園から高校に至るまで同じクラスときたら、何か大いなる意思の介在を疑わずにはいられない。


僕と彼女を離したくない運命とやらに抗う術が見つかることもなく、僕は真っ新な高校生活のスタートを、変わらず祈の我儘で切っていた。


「ヒぃロぉ〜。何か飲み物買ってきてぇ〜。もちヒロの奢りで〜」


「…ご所望は」


「ヒロの選んだ奴。不味いの持ってきたら、タダじゃおかないから」


そこまで注文するなら自分の足で動いて欲しい。にまにまと祈は、僕の机の上に堂々と腰掛けている。

昼休み。

日常茶飯事の風景。

窓際の席で日射しを浴びる祈の姿は、そんな素行不良をしても寧ろ絵になる。


肩口で切り揃えた銀髪は絵物語から飛び出たような虚構染みてて、それが人を寄せ付けない為に祈が選んで染め上げた警戒色だということを、僕だけが知っている。昔からそうだ。顔立ちや小柄なせいでいじめられっ子気質だった僕の側に居る上で、祈は早くから髪を染めることを覚えては叱られたし、目つきも段々鋭くなった。そうやって普通から外れる行為が、自身を孤立させ、ひいては隣にいる僕を守ることに繋がったから。


僕はそんなこと、頼んでないのに。


「何ぼーっとしてんのよ。気持ち悪」


思考を見透かされた気分だった。しかめっ面になっても、祈の端正な顔は崩れない。

切れ長の目を見つめ返して、僕は席を立つ。


「ごめん。ちょっと、見惚れてた」


「なっっっ…⁉︎」


正直な返答の何が気に食わなかったのか、祈は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。唇はあわあわと、日に照らされる銀髪に負けないくらいまっ白な頬が朱に染まって、他人事ながら心配になった。祈は、情緒が不安定だ。


「すぐ、戻るから」


「…」


胸を抑えながら膨れっ面で僕を睨む祈を尻目に、僕は教室を後にした。


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