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第1話 マッチングしました!

リル「ユトさんは本当に素敵な方ですね!」

ユト「そうですか? でも俺みたいな冴えない男でもリルさんのように可愛らしい女性と出会えて最高です(笑)」


リル「嬉しいお言葉ありがとうございます^^ なら今度私と会ってみませんか?」

ユト「いいんですか!?」


リル「はい、ユトさんがよろしければですが......」

ユト「是非! 是非! お願いします!」


リル「なら決まりですね^^」

ユト「はい!」





「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!」


真夜中にも関わらず、俺は部屋の中で雄叫びをあげた。当然こんな夜更けに大声をあげれば近所迷惑なのは間違いなく、現に隣の部屋からはドンドンと壁を叩く音が聞こえてくる。


しかしそんなことはどうでもいい。今は立川悠人という男にとって人生で最大のターニングポイントと言っても過言ではないほど大事な局面だ。


出会い系アプリを初めて足掛け3ヶ月。やっとの思いでマッチした女性は金色の髪をした色白の可愛らしい女性。写真は首元だけを写しているため顔まではわからないが、俺の脳の補填能力を駆使すればリルさんが可愛らしい女の子だといことは容易に想像がつく。


そして二週間にも及ぶ激しい攻防の末、俺はついにリルさんとリアルで会う約束をした。これは俺が出会い系アプリを利用して初めてのことであり、今から胸が高まっていることが自分自身でもよくわかる。


約束の日は今週の日曜日。場所は池袋にある芝生が特徴の公園だ。なぜこの公園を選んだのかというと、以前見た映画でヒロインたちがデートの待ち合わせに使っていたから。


 俺は当日の甘酸っぱい出来事を考えながら、高鳴る胸を必死に抑えて意識を闇に落とした。





 そして迎えた日曜日。いつもなら十一時過ぎまで惰眠をむさぼっている俺であるが、この日は緊張からか午前五時には目が覚めてしまった。だが不思議なことに身体が気怠いなどは一切なく、意識はいつも以上に冴えているようだ。


 秋口ということもあって外はまだ暗いが、時刻は紛れもない早朝。俺は大きく息を吐くとベッドから出てまず最初にシャワーを浴びる。シャワーに関しては昨晩も浴びたのだが、念には念を入れるべきだろう。なにしろ今日は初めて出会い系アプリで知り合った女性と出会うんだから。万全の用意をして臨まなければ相手方にも失礼というものだ。


 いつもよりも入念な身支度を終えると、時刻はいつの間にか七時を超えており、太陽も東の空から顔を出している。約束の午前九時まではまだ時間があるが、俺はもう家を出ることにした。それは電車の遅延で遅れてはいけないという不安と、これ以上家にいたところでソワソワする自らを落ち着けられない焦燥からであった。


 このままいけばおそらく待ち合わせ時刻の四十五分前につくだろうが、相手を待たせるよりは自分が待った方がいいに決まっている。だから俺は意を決して家を出た。






 案の定、約束の時間の四十五分前に公園に着いた俺は近くのベンチに腰を下ろす。まだ八時十五分とあって日曜日ということを考えれば人は少ない方だろう。この公園のいいところは広々とした芝生があるだけでなく、至るところに座れる場所があることだ。それこそ芝生エリアだけでなく、石や木製のベンチ、それに内設しているカフェの椅子まである。


 この公園は子供が遊ぶよりも忙しい都心の中で時間を忘れてゆっくりできることをコンセプトに作られているのだろうと俺は勝手に思っている。ちなみに待ち合わせ場所を公園に指定したのは仮に相手方が特殊詐欺グループだったり怖い組合の人の関係者だったりした場合にすぐに逃げられるようにだ。さすがに周囲の目がある公園で事を起こすような愚か者はいないはずである。


 俺がそんなことを考えていると、公園内の空気が一変した。空気が一変したなんて漫画の世界だと思われるかもしれないが、本当に空気が一変したのだ。何と表現していいのか分からないが、それまで各々それぞれの時間を過ごしていた人たちが一斉に同じ時の流れに身を投じたような感覚。


 公園にいた誰もが駅側の入り口から現れた女性に視線を奪われたのだ。


 時刻は八時三十分。俺がリルさんと待ち合わせした時間は午前九時だがら待ち合わせの時間まで三十分あるはずだが、俺はすぐにその女性がリルさんだと確信する。というか八割くらいは俺の願望だったのだが、公園に足を踏み入れるなりリルさんであってほしい女性が俺に向かって手を振ってくれたのだ。


「ユトさーん!」


 喧騒が聞こえるはずの都会の公園はリルさんの登場で落葉の音が聞こえそうな静寂に包まれていた。まるでその公園の中だけ時計の針が止まっているのではないかと錯覚するほどの静寂の中で俺を呼ぶ声が響くと、公園にいた男たちが俺のことを一斉に睨みつける。


 それは興味と嫉妬が入り混じったような視線であったが、彼らの視線は当然の結果であろう。何しろ視界に入ってきた絶世の美女といっても過言ではない少女が男の名前を呼んだのだから。


「り、リルさんですか?」

「はい。初めて、ユトさん」


 上ずった声で確認した俺に微笑み返してくれた天使のような美少女は紛れもないリルさんだった。絹のように滑らかな白い肌、翡翠を連想させるような透き通った双眸、見る者を魅了する鮮やかでいて派手さを感じさせない金色の髪、スラリとしながらも服の上からでも確かにわかる存在感のある双丘をはじめとした柔らかそうな肢体。


 それはまさに俺が知りうる限り完成された美少女であった。


 日本人離れしたその容姿はまるで異世界の美少女を想起させるが、リルさんの話す言語は紛れもない日本語である。生まれて初めて会った美少女に俺は言葉を失うほど衝撃を受けたが、なんとか脳内で自主練をした会話を始める。


「ほ、本日はお日柄もよく……えっと……」

「ユトさん?」

「ひゃい!?」

「大丈夫ですか? もしかして体調が優れないのでしたら今日は無理せずに」

「いえ、大丈夫でひゅ!」


 お、落ち着け立川悠人、落ち着くんだ。いくらリルさんが可愛くて巨乳で魅力的で巨乳だからといって早まるんじゃない。何のためにこの日のためにひたすらネットでデート当日の会話サンプルを聞いて暗唱できるようにしたんだ。


 リルさんともっとお近づきになるためだろう。ならここは一度落ち着いてやり直すんだ。


 俺は一度深く深呼吸をすると改めてリルさんのほうに向き直った。ああ、とてもかわいい。


 「初めて、ユトです。今日はリルさんに会えて嬉しいです」

 「こちらこそ、ユトさんに会えて本当にうれしいです」


 そう言ってこの世で一番輝かしい笑顔を見せてくれるリルさん。ああ、もうこのままトラックに轢かれて異世界に転生してもいいくらい幸せだ。


 「あ、あの……ユトさん!」

 「は、はい!?」

 「あの、その、今日は大事な話があって……」

 「ななななんでしょうか!」


 いきなり大事な話とはいったい何なんだ。不安と期待が入り混じって自分でもわからないほど心臓が鼓動を打っている。


 「あの、ここでは人が多いので場所を変えませんか……?」


 確かに先ほどから衆人観衆の注目を集めている。それもこれも全てリルさんの魅力なんだろう。だが今の俺は周りの有象無象とは異なり、世界で一番かわいいリルさんの相手役。


 俺は平静を装いながら自分史上最高に優しく最高にかっこいい声音で応える。


 「ええ、喜んで。どこに行きましょうか?」

 「ならあそこで……」


 そう言ってリルさんが指さした先は公園の外、というより細い道を挟んで向こう側にあるラブホテルだった。


 オウ、ジーザス……

この公園、この間映画館で7週連続見たような......

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