誤発送
今まで見たことも聞いたこともないメーカーのゲームソフトが机の上に鎮座している。
もちろん、こんなギャルゲーまがいのものをソフト(箱)で買うわけがない。
家族に見られるというリスクを冒すぐらいなら、ダウンロード販売で購入するに決まっている。
かたわらには乱暴に破られた段ボール。購入明細書に書かれたカスタマーセンターに電話したら、
「わたくしどもの間違いですので、お客様は返品をされなくても大丈夫です」
とのことである。
改めて中性的なキャラクター数人描かれているパッケージをまじまじ眺める。
タイトル名は『Miscellaneous Storys』。調べてみれば、雑多な物語だそうだ。
「まあ、何にもなくて暇だし、やってみるか」
各種レビューサイトもネタバレを避けながらチェックしたがどこも高く、5段階評価で4.8とサクラを疑いたくなるものばかり。
パソコンにインストールを始めた。
3枚組で10GB以上容量を喰うのは気に食わないが、さわりで気に入らなければアンインストールすればいいだけの話だ。
* * *
序盤を終えてなんとも言えない感情が心に渦巻いていた。
メインキャラは6人。ストーリーは14歳のキャラたちが、15歳になるまでに決めなければならないことがあり、苦悩する話だ。
それは15歳までに自分の性別を決めなければならない、というもの。
メインキャラたちはみんな中性的な出で立ちでいる。そして、特徴的な違いがあった。みんな両性具有なのだ。
ほかのサブキャラクターたちは、中学校に入る前に決めていたり、メインキャラたちのように悩んでいたり様々だ。
主人公もまた中性的で両性具有だ。
メインキャラと同様に決めかねていてともに悩んだり、喜びあったり、悲しみあったりしている。
ちなみに、15歳の誕生日当日までに決めなければ、死が待っている。誰に殺されるというわけでなく、急死するのだそうだ。
* * *
進めていく中で、シナリオが各キャラに3つあることがわかった。『男編』、『女編』、『両性具有編』の3つである。
しかも主人公にも3つ選択権があるから、さらにボリュームがマシマシだ。
正直めちゃくちゃ長い話は好きじゃない。だが、ライターの文章が好みのものだったから、途中で辞めようとは思わない。
BLもGLもNLも両性具有同士もひとりで書き切ったというライターに、敬意を表しながら全部やろうと思う。
そして、R15指定の範囲内でどこまで描写しきれているのか。なぜあえてR18に挑戦しないのか。その腕が非常に気になった。
* * *
丸一週間潰れたが全部クリアした。全部のCGも隠し要素も見つけた。とんでもないなんてもんじゃない。
人間の脳みそをフル回転しても書けないぞ、これは。とてつもない喪失感と消失感、涙は枯れ果てた。
人間賛歌をまざまざと見せつけられた。死に際の美学、覚悟、恐れはもちろん、決断することの勇気は学ぶこと多い。
とにかく、人間離れしている。
ストーリー、立ち絵の豊富さ、グラフィックのクオリティの高さ、演出の巧みさ、BGMのかかるタイミング……どれをとっても一流だ。
ネタバレになるけど、こんな宇宙人がいるなら地球が征服されてもいいかな。
地球から遥か離れた宇宙空間に銀色のUFOが漂っている。
金髪の若い美女風の人形の生物と、ヒゲを生やしたダンディな人形が体のラインが出やすい銀色のタイツを身にまとっている。
「お、また人間がひとり、ワタシタチのゲームを賛美してますね」
双眼鏡のような装置を使い、ゲームを終えて脱力感に見舞われている男の様子を見ているようだ。
「着々と進んでいるみたいだな。地球征服の足掛かりが」
「ええ、先行した同士たちのステマが効果的に効いているようです」
「二ホンという国は、ヘンタイが多いと聞く。ゲームを受け容れておるならば、我々をたやすく受け容れてくれるであろう」
「ヘンタイバンザイ! ということですね」
「ああ、地球を足掛かりにして、近隣の惑星にも我々の文化、思想、性癖で埋め尽くすのだ!」
「さすが、あのゲーム作ったお方。お考えが素晴らしいです!!」
フンジョルパッパ星人のふたりは高らかに笑い、自分たちの繁栄を信じて疑わなかった。
しかし、ふたりを始めとしたUFO内にいるフンジョルパッパ星人の先遣隊3000人は知らなかった。
地球には地球人、フンジョルパッパ星人のほかに、ライバルであるアールミッティ星人が3814人も潜んでいることを……。