時間を欲しがる灰色の男たちに時間をあげた男の話
俺は毎日暇だった。
なぜなら、一年前宝くじ3億円が当たって会社を辞めたからだ。
働く必要のなくなった俺は、毎日テレビを見て過ごした。昔好きだった戦隊モノやアニメを片っ端から見た。
そして1年で見尽くしてしまった。
もうやることがない。
時間だけは売るほどある。
俺はしかたなく、旅に出た。
見知らぬ町を歩いていると、突如灰色の男たちが俺をとりかこんだ。
「おまえの時間をくれないか。無料とはいわん」
俺はお金なら腐るほどある。欲しいものはなんでも買える。
だから時間をこいつらにあげるメリットはなにもない。
「欲しいものなんでもやる」と灰色の男たちは言う。
そういわれても……
「嫁なんて、どうだ?」灰色男のひとりが言う。
うーん、可愛くて、優しくて、お料理上手で、俺の望みをなんでも叶えてくれる人ならいいかな……と俺は一瞬思った。
一年間、インドア生活していた俺は人恋しくなっていたのだ。
灰色の男たちは、よほど「俺の時間」が欲しいのか、
俺を取り囲んで逃がさない。
しかたなく俺は「じゃあ、嫁を……」と言った。
俺は、嫁と運命的な出会いをし、結婚した。
嫁はとてもいい嫁だった。俺の理想のタイプだった。
毎日、デートをし、外食をした。
俺にはまだまだ金があるから働かなくてもよかった。
いつも嫁といっしょに行動した。
あるとき、俺は気付いた。自分の時間がない。
俺だけの、ひとりの時間がない。
あの灰色男に時間をあげてしまったからだろうか。
俺は、毎日が単調に感じられるようになっていた。
嫁との関係も倦怠期に入っていた。
俺はまた、旅に出た。一人旅だ。
見知らぬ町に出かけた。
そこでまた俺は灰色男たちに取り囲まれた。
「嫁をもらった気分はどうだい?」
「おまえの時間をくれないか。無料とはいわん」
また、俺の時間を要求するのか!
「欲しいものなんでもあげるから、お前の時間をくれないか」
灰色男たちは俺を逃がさない。
「子供なんてどうだ?」
そうか、子供か……。
子供ができれば、嫁との関係も修復できるかもしれない。
そもそも、喧嘩して家をとびだしたわけではない。
「じゃあ、子供を」
俺は言っていた。
急いで家に帰ると、嫁が「報告がある」という。
妊娠したというのだ。まあそういうこともあるだろう。
倦怠期とはいえ、セックスレスだったわけではない。
10カ月後、元気な赤ちゃんが産まれた。
俺にそっくりなかわいい赤ちゃんだった。
俺は、子供の世話に明け暮れた。
俺の時間はほとんどなくなった。
なくなったけれど、俺は幸せになったと思う。