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油壺  ~悪夢夜話シリーズ①~  作者: 犬神まみや
6/11

「6」

油壺

「信用出来るのか?」

赤樫は表情を動かさず訊いてきた。

「……私は信じます」

赤樫は溜息をつくと、なら行こうと答えた。少女は赤樫が倒れて居た場所を通り奥へ入り込む。棚の奥にほんの少しの隙間があり、そこにまた鍵が。すずは首から赤銅色の鍵を取り出し、開けた。


そこは引き戸になっており、ガタガタ音をさせてすずは戸を開ける。

大人が1人ギリギリ通れるか否かの狭い扉だ。あの大男共には通れんな、と考えながらすずの後に続く。


目の前には上りの階段がある。


しかしただの階段ではない。

右手側の崖にピタリと張り付いた、急勾配(きゅうこうばい)の階段だ。


崖は剥き出しの白い岩場。

階段は木製で風雨に晒されたせいかギシギシと軋む。辛うじて左手に手摺はあるが体重を掛けたら脆く崩れそうだ。チラと下に目をやると青黒い海が広がっている。かなりの高さだった。落ちたら一溜りもないだろう。鉄橋と遠方に朝方までいた施設が見えた。


風が強く案外冷たい。すずはそんなのをものともせず軽やかに階段を駆け登る。

「おい、下を見るなよ。下を見ると恐怖が増すからな?」

そう言う赤樫の声は微かに震えていた。

「まさかアナタ高い所が怖いのですか」

くすりと笑うと赤樫はムッと押し黙る。

強面の割に存外苦手なものはあるらしい。


ようやく登りきると同じ様な扉が目の前にあった。階段はやはり108段あった。やはり意図的な物なのだろうなと考える。

「下を見ると恐ろしいが高見から眺める景色は…やはり良いもんだな」と赤樫。

私も左を見る。

風に髪が吹き上げられ、苦しい胸にも心地良い。波が白く三角の帆を立て、紺碧の海原と白壁の崖に松が栄える様はどこか現実味がないほど美しくて不思議な光景だ、と朧気に思った。


そうこうしていうちに、すずがまた赤銅の鍵で扉を開ける。


扉が開いた途端、嗅ぎなれない奇妙な臭いが鼻についた。

「なんだこの臭い」

赤樫も同じ意見だったらしい。

薄暗く妙な熱気を帯びた部屋へ足を一歩踏み入れ絶句した。中は外観から創造もつかない程奥行があり、広い。崖のある方に奥へ続いている所からから崖の中を掘ったか自然窟を利用して作った物の様だ。

だとしたらとんでもない場所に作ったものである。

「以前、修験道の僧侶達が登ると言う鳥取の崖っぷちの寺の噂は聞いた事がある。ここもそんな有様なのかもしらんな」

赤樫はそう言いながら先を行く。


更にその奥手には下の小屋で見たのと同じ様な壺が置かれている。ザッと百は有るだろう。海上に当たる方向には黄金色に輝く様々な像がある。良く見ると仏像ではなく外国の女神らしきがひしめき合っている。

「こりゃ値打ち物だ」

「全部本物の金無垢ですか?」

うむと赤樫は頷く。

「間違いなかろう。だがそれよりあのひしゃげ住職、やはり業突く張りだな。財産をこんな場所に隠しておったとは。金を隠し持ってるのも憚られるのに、全て異教の女神ときたもんだ。軍部に知れたら没収罰則などでは済まされん代物だ」

美しくても迫害されるものなのだな、と苦い気持ちになる。

「しかしこの仏像の配置はおかしい」

赤樫は首を捻る。

「本来仏像の顔は西方を背にして正面は東向きでなければならんものだろう?だがこの像は皆、北を向いとる。海の上と言うのも道理に合わん。異教の女神だからなのか?」

ぶつぶつ呟く赤樫を尻目にすずが私の手を引いた。“来い”ということらしい。私はすずに導かれるまま壺のある奥の暗がりへ歩く。


すずが止まった正面には大きな仏壇があった。西側だ。中に置かれた荼枳尼天の小さな仏像は東を向いている。

「赤樫さん、ここに仏壇が」

ほぉ、と興味深そうにこちらへ歩いてきて仏壇を覗き込む。

「成程。こっちがこの御堂の本尊てわけか。あの女神像の数々は海外へ売り飛ばすつもりだったかもな」

「密輸ですか」

「確証や証拠は無いが恐らくな…ちっぽけな島でコレだけ大規模な寺やら装飾品やらを維持するとなりゃ、銭なんざ幾らあっても足りない位だろうさ」

皮肉めいた笑顔を見せながら、赤樫はなんとはなしにひしめき合った壺の蓋を手に取り開ける。


……そして、彼から一気に血の気が失せた。


赤樫は自分の手を口で抑え、「なんだこりゃ」と繰り返してる。

と、突然なにかに背中を押された様に

「なんだこりゃあ!?」と大声で叫ぶとその近場にある壺の蓋を片っ端から乱暴に開け始めた。

「赤樫さん!?どうしちまったんです!赤樫さん!!」

私は慌てて彼の腰にとびついた。


「駄目だ!」


「何がダメなんです!」

「柏木さんっ!あんたは見るなっ!」

そう言われた時はもう遅かった。


壺の中はコップリとした黄色い液体が入っている。油らしい。その油の中には白い何かがみえる。

目を凝らす。


「ひ…人…!」


どの油壺の中も膝を抱えた裸の人間が沈んでいるのだ。


そうか、この小屋の中の異臭はこれだったか。血の気が引いてよろけたのを赤樫が支えた。

「言わんこっちゃない!」

「これは……何…」

「まさかとは思うがこれが住職の言っていた秘術とやらか…えげつないことしやがる…!」

そう赤樫が唸った時仏壇のある奥の方からさわ、さわ、と声がした。


「誰か来た!隠れろ!」赤樫はそう言って私を力任せに屈ませる。壺の影に隠れ様子を伺う事にした。


ガタガタと扉が開く音がして、そこに姿を現したのは幽霊人間2体だった。

「どうやってここへ…」赤樫が驚きの声を上げる。


そしてその幽霊人間の後に続くのは

意外な人物であった。


「7」へ続きます。

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