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油壺  ~悪夢夜話シリーズ①~  作者: 犬神まみや
11/11

「11」

さぁ!次の物語へ!

時は移り平成。


世は平らけく成りにけりかといえば、そうともいるような、いえないような。


日本で記されるところの第二次世界大戦後、日本は急速に変化していった。めまぐるしく世間は動き、蠢き、戦争の陰鬱さや悲惨さは何処へやらである。


新宿界隈は昼も夜も明るい不夜城。

時間は17時。

逢魔ヶ刻。

多種多様な職種、年代、人種、性別が行き交う。


新宿駅前の金色の獅子像の前。

私はALTAの巨大なTVモニターをぼんやりみて暇を潰していた。

若い娘達がお兄さん、暇?ウチらと飲み行かない?と声をかけてきたが「待ち人有り」と笑ってお断りした。

女の子達はつまんないのとボヤきながら、それでも楽しそうに人波に消えていく。

その後ろ姿を見送っていると、背後に気配を感じた。


「待ったか」

土木作業着を肩にかけ、タンクトップの男が声をかけてくる。

精悍で長身痩躯。胸に傷のある男。

赤樫伊三郎その人であった。

「どっかの店に入ってても良かったんだぜ三鈴」


私…柏木三鈴…は立ち上がり微笑んだ。

「スマートフォン、上手く使えないでしょ伊三郎。連絡、来なかったら困るもの」

「う、まぁな」

赤樫は口をすぼめてバツが悪そうな顔をした。

「行きましょうか」

「ああ」

そう言って人混みへ紛れ込んだ。


道中、鏡のような柱に私と赤樫が映りこむ。

奇妙な感覚だ。

私はあの事件以来…病気や怪我で死にかけることは時折あるにはあったが、全く歳を取らなくなった。髪の毛だけは真っ白にはなったが、今のご時世大して誰も気に留めない。赤樫も相変わらず青年の姿のままだ。


「時代に置いてけぼりくっちゃったねえ」

私が自嘲気味に言うのを

「仕方ねえさ。呪いみたいなもんだろう」

と赤樫はサラリと返した。


色々な土地を転々としながら食いつないで今は新宿で居を構えている。

新宿はいい。

色んな人間がいるから。

私達でも怪しまれずまぎれこめるのだ。


途中の電気店でゾンビを倒すゲームの体験版なのだろう、若者が三人ほど興奮気味に銃型のコントローラーを構えて、店頭でゾンビ退治を横目でみて、赤樫が今度は自嘲気味に言った。

「やべえ、俺やられちまう」

私は苦笑した。

「数十年前に」赤樫が急に真顔になる。

「本当に銃を撃ち、人を殺さねばならない時代があったなど…あいつら想像した事ァねえんだろうな」

「この場所が焦土だったこともね」


私達の瞼の裏にあの日のことが蘇る。


この新宿区も含め、東京の殆どが焦土であった。

"東京大空襲"で。

「私が遣いに出されたのが空襲前の九日…」

「俺達があの島で大暴れしてようやく本土に戻れた時にはとんでもねえ有様だったな。それがこの…たった70年でこんなビルがにょきにょきはえるとかよぉ…誰が想像したよなぁ…俺らもしぶといが人間は大概しぶといぜ」

「そうですね…」

「思えば、漆田はあんたを生かす為に遣いに出したのかもな」

「どうかな…」

私は足元を見る。

あの後、漆田の屋敷後を探し当てたが見事に燃え尽きていた。あの深海の如き蔵書もなにもかも消えていた。

「ま…漆田もこんなに私が長生きするなんて思ってなかったでしょうけどね。しかも若い姿のままで」

「維持するのはなかなか大変だがな」

赤樫のぼやきに顔を上げると見事なへの字口だったので、私はアハハと笑う。

赤樫も釣られたように笑った。


二人はそのまま人混みを脱けて、新宿でも指折りの大きな稲荷神社へ足を向けた。


神社は祭りの後。明日ももう一日縁が立つので屋台が片付けられずにまだ残っている。


だが……私達には、視得るのだ。

ちら、ほら、と。

人ならざるものの邪悪な者達が祭りの喧騒にまぎれて神社に救いを求めに来ているのが。


そう我々はもう人じゃない。


「いくぞ三鈴」

「どこまでも伊三郎さん」


暗闇に蠢く邪悪な気配は私と赤樫の餌だ。


赤樫の手は大きな鬼の如き形に変化し、開けた口からは巨大な牙が零れる。

私の左目からは白金や黄金色に輝く炎が溢れ出す。


我等は荼枳尼天の眷属。


不老と不死身の化け物二匹。



柏木三鈴と赤樫伊三郎はこっそりと平成の世を生きておりますが


まぁ平成ももう終わります。


もし、この先も生き抜くことが許された、

そんな私達をどこかでみかけても、


どうかそぉっとしておいて下さい。


でももし、…万万が一…あなた方が怪異に出くわしたならどうぞ鈴を鳴らして。


その鈴の音を辿り


そちらへ二人で伺います故。





あな、かしこ【完】


~柏木三鈴 記~

これにて終幕

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