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自己満足こそプレイヤーの華

メギド72楽しい()

MMOにおいては往往にして武器を装備するのにステータスの制限を設けているものが多い。


FLRにおいても武器を装備するのにステータスを要求される。当然強い武器ほど高いステータスを要求するが、実はこれは装備出来ないというのは間違いで、使いこなせないというのが正しい言い方だ。


装備すること自体は足りてなくても可能だ。ただ重い武器を振り回すのに高い筋力が求められのは当然であり、ゲームであるFLRでもそれは変わらない。つまりステータスが足りなければ持ち上げることすら出来ないということだ。


今取り出したるこの大剣。「灼鯨の大骨剣」もその見た目に違わず凄まじいSTR値を要求してくる。


どれくらいかというと当時の最上級とされていた装備群の平均要求値の軽く三倍はあった。文字通り桁が違う。


その分性能も凄まじい。大体のエネミーは一撃だし、ボスクラスでも上手くやると半分行くこともある。控えめに言ってぶっ壊れかな?


さて、そんな装備を果たしてこの軽装戦士たるこの俺が使えるのだろうか。


勿論無理だ。


丁度必要なSTRがオレのステの三倍だ。いくらオレが満遍なくステ振りをしてるとは言えこれは高すぎる。このままではこの強力な武器がただの重りと化してしまう。


なので装備を変える。アクセサリー枠三つをSTR強化オンリーにすれば流石に持ち上げることくらいは出来るだろう。確か八割に達していればギリギリと聞いたことがある。


巨大な障害物となっている大剣の陰に隠れながら装備を変更する。店売り一つとそこそこレアなのを二つ装備してSTRマシマシのステータスに変える。代わりにAGIがかなり下がったが仕方ない。


さていけるか?


と期待半分で両手で大剣の持ち手を掴んで地面から引き抜くために力を込める。


お、いけそ……うんん ……ンギギ……ウガー!


……ふぅ。ダメだビクともしないや。


どうしよう。


あんなに意気揚々と取り出した代物がまさかの置物ですだなんて笑えないぞ。


いや、何でお前の装備なのに使えないのって話だけどさ。


……だってこれPKしてパクった代物だし。元々俺のじゃないし……。


そんなことで手に入れるからバチが当たるんだぞって話だが別にこんなタイミングでやらなくても良くない神様。


どうするよ…… どうしようもないから土属性武器でちまちま殴るってか? 絶対ジリ貧で負けるだろ。


どうにか、どうにか出来ないか……ん?


風を感じた。背後から横を通り抜けていった風はゲーム的な演出によって目に見える透明に近い薄緑のベールを伴って目の前の大剣を包み込んでいった。


風属性魔法の一つ「フロウウェポン」だ。効果は武器の必要ステータスの低減。一見制限のキツい高性能武器を装備するのに便利そうだがそもそも順当にステ上げをしたらステータス制限に引っかかることはそうそうない上、MP消費が重めなため殆ど使われない不遇魔法だ。


「あんだけ自信満々に出しておいてどうして扱えないんだい?」


いや、全くもってその通りでございます。その場のノリって怖いね。


何にせよ助かった。再度大剣を持ち上げようと腕に力を込める。


よし、重いは重いが持ち上げられた。これならいける。


改めて正面を見据えれば敵は陣形を整えてこちらの様子を伺っていた。子鹿が前衛で魔法を使える親鹿が後衛か。


一丁前のフォーメーション組みやがって鹿のくせに生意気な。でも今の茶番の間攻撃して来なかったことは褒めておこう。


さてとここからだ。数の不利をどうにかするためにも親鹿の攻撃を掻い潜りつつ子鹿を殲滅しなければならない。親鹿から狙うのはこちらの後衛のニカに子鹿全部任せることになるので無しだ。


楽器の音色が聞こえてくる。バフの更新をしてくれたのか。何も言ってないのにやってくれるとは流石の高性能AI。


あちらは完全に待ちの体勢に入ったようだ。このデカブツを見て迂闊に攻めるのはマズいと思ったのだろうか。こちらも憎らしいほどの高性能っぷりだこと。


使ったことのない新武器を振り回せることにウズウズしてきてたからありがたい。お言葉に甘えてこちらから攻めることにしようか。


大剣を構え敵へと突貫する。子鹿達もそれに反応して角を構えて向かって来る。その間に親鹿は魔法の準備に入った。


魔法の発動までの隙は大きくはない。がそれでも攻めるのには充分な隙がある。


当然前に控える子鹿達はその隙を埋めるためにこちらに応戦してくる。まぁ子鹿の攻撃手段は体当たりしか無いわけだが。


俺は子鹿達が充分近づいてから構えた大剣を横に一薙する。色々補助を掛けてもらってはいるが重いことには変わりないため、しっかり足を踏ん張ってぶん回す。


何の工夫もない雑な攻撃。当たるかどうかよりも単純に火力に不安の残る一振り。


しかして、その大剣の一撃に触れた子鹿4匹のHPが消し飛んだ。削れてい奴も、削れていなかった奴も等しくだ。


親のペイルホーンの使う魔法から分かるが、この鹿たちは水の属性のエネミーである。そしてこの手に持つ大剣は火属性だ。


水と火の強弱関係は当然火が弱い。つまりこの大剣は鹿たちに対し有効な武器では決してない。


が、その異常と言っても差し支えない攻撃力と決して高耐久ではない子鹿のステータスがその相性を無視した結果を生み出した。


ギリギリ当たらなかった残り二匹は、目の前で仲間が死ぬという突然の出来事に対しても全く動揺せずに軌道を変えずに突撃してくる。


妙に高度な動きをすると思ったら今度はNPCらしい非情さをみせつけてくれるとは。いや、戦闘特化の思考をしてると考えれば不思議じゃないか。


悠長に頭の中ではそんなことを考えつつも身体は半自動的に二撃目へと動いていた。


このタイミングでは回避も防御も間に合わない。ならば武器に頼り切ってそのまま敵の攻撃の上から叩き潰した方が効率がいい。


大剣の遠心力を利用してその場で回転しながら回転の勢いを乗せた二撃目を叩き込む。二匹はその身体をポリゴン片として爆散させてから消えた。さっきのものより威力が上がっているので凄まじいオーバーキルだったことだろう。


そしてこのタイミングで親鹿が魔法を完成させて放ってきた。こいつもこの一瞬で子供たち全滅したことに何か感じた素振りは見えない。別にどうでもいいのだがなんとも言えない気分だ。


さて、防御しようにも魔法系は武器でガードしてもダメージが貫通する仕様だ。回避もAGIを下げているので難しい。が、できないことは無い。


飛んでくる水の槍に向かって走りながら大剣を地面に対して斜めに突き立てて飛ぶ。大剣がつっかえ棒の役割を果たし俺の身体を宙に浮かせ、眼下を何本もの水の槍が通り過ぎていく。


顔面に飛んできたのを顔を逸らすことで紙一重で躱しながら、今度は重量に従って下へと落ちていく。


今度は頭上を通り過ぎていくのをヒヤっとしながらも感じる。そして地面に着地しながら親鹿を見遣ればやつの周りにはもう水の槍は浮いていなかった。


撃ち切った。大剣を掴む手に力を込めて地面から引き抜き。それを殆ど引き摺るようにしながら一直線に走る。


もう魔法の間合いより内側に入り込んだ。それを親鹿も瞬時に理解し、角をこちらに盾のように向けて突進してくる。


ハッ! この状況はまるで騎士の一騎打ちのようだな!


意図せずしてそのような構図となったことに俺は興奮する。


こういうことは偶にある。それはまるで必然かのように自然と現れるものだ。この物語の一幕のような瞬間が堪らなく好きだ。


これだからゲームは止められない!


当たれば即死であろうとわかる威圧感を伴った突進に対して俺は何も躊躇うことなく全力で背後に引き摺る大剣を半円を描くようにして振り下ろす。


正面からぶつかる必要は全く無かった。むしろやられる可能性を考えたら悪手とすら言える。だがそれら全てを受け入れて俺はこの瞬間に全てを掛けることにした。


理由はちゃんとある。


勝つか負けるか。物事を極限までシンプルにした時こそ最高に楽しいからだ。


要するに自己満足。だがゲームなんて究極的には自己満足しかないのだから何一つ問題は無い。


互いの渾身の一撃がぶつかり合い激しい音が辺りに鳴り響く。


そして俺の大剣が奴の自慢の大角を折りながら青鹿をその場に叩きつけた。


か細い嘶きが口から漏れた気がしたと思ったら奴はポリゴン片となって爆散した。


それと同時にレベルアップを示すファンファーレが聞こえ、視界の隅に小さく目的の代物である「青褪めた大角」が手に入ったというポップアップが映った。


ふぅ。油断しきっててとんでもなく苦戦したがどうにか目標は達成できたか。


走り寄ってくるニカに適当に手を振りながら俺はその場にへたれこんだ。


ペイルホーン&リトルペイルホーン


大森林の西エリアのエリアボス。西エリアを徘徊しており。エリアボスのいない中央エリアを通って緑の国に辿り着いて調子に乗っているプレイヤーの鼻を複雑骨折させることで有名。身も蓋もないことを言うとFOE。

攻撃手段はボス特有の高ステータスからの突進と後ろ足でのぶちかまし、それと水属性の魔法での遠距離攻撃。状態異常の魔封じで魔法を封じてからの接近戦で攻めるのが一般的な攻略法。

ちなみに本来は逃げることはなくクエスト限定の特殊な行動である。子鹿たちとの連携はそれぞれが近くにいた場合に限り行ってくる行動でこちらはクエストによるものでは無く普通の遭遇戦でもやってくる。

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