変わらぬおせっかい
年内最後の投稿かもしれません。
ということで、フライングあけましておめでとう!
「久しぶりねぇ! いつぶり? 1年ぶり?」
「去年の3月に姐さんが引退してるから、丁度一年っすね」
「アラヤダー! あれからもうそんなに経ってたのー!」
見た目は魚人族の少年なのに、そこから発せられる声はバリバリの低音ボイス。ギャップしかねぇ。
見ろよ、ニカがそのギャップに戸惑って絶妙な表情になってるじゃないか。これはこれで面白いけども。
彼女……いや彼は俗に言う“オカマ”だ。男性の体で女性の精神を持った人間。強烈過ぎる個性の塊。
そんな彼との出会いは、とあるゲームでの事だ。
その名前は“ジ・エデンロード・オンライン”。通称TERo。
物騒な名前で呼ばれているが、そう呼ばれるほどには特殊なゲームだった。
そこら辺について詳しく語ると余りにも長いので割愛するが、PKが当たり前のゲームだったということから察して欲しい。
そんなゲームで彼……いや、やっぱり怒られるから彼女とは同じギルドのメンバーだった。睨まないでよ姐さん。
「ところでユラギちゃん、その仮面は何?」
「あー姐さんは知らないか。ユニークだよユニーク。どう、格好よくない?」
「営業妨害で訴えられたく無かったら外して頂戴」
尽く不評だなこの仮面。このダークなカッコ良さが伝わらんかね。
とはいえ姐さんの目が本気なので渋々仮面を装備から外す。
エミー姐さんの露店はさっきの大立ち回りの影響だろうか、かなりの客が買いに来ていた。
店頭には回復系のポーションを中心として、戦闘や探索の時に役立つアイテムが数種類ほど並んでいた。
近くにあったポーションを指先で軽く叩いてメニューを開くと、その性能が表示された。
その回復量は3割。NPC売りのポーションが良くて2割なことを考えると破格の性能だ。
値段は確かにNPCのと比較するとお高めだが、この性能を加味するとむしろ良心的な部類であると言える。
ぶっちゃけこれなら、もう50%増しで売っても適正でしょ。
「クエスト目的で人が沢山来るのはいいけど、あんな輩もいるんだから、店側としたら一長一短ね」
「ご愁傷さまとしか言えねぇや」
てかクエストなのかこの集まりは。そんなん前の時あったっけか?
「それでユラギちゃんはどうしてここにいるの?」
「ん? ああ、実は姐さんに用があって、いや、用が出来たからか。とにかく会いに来たんだよ」
そう言ってニカのアイテムを集めるクエストのこと、それに関するバルトゴールの奴が教えてくれた情報のことを伝えた。ニカの素性なんかは流石に言わなかったが。
「へぇ、髪が黄色じゃない獣人族のNPCなんていたのね。初めましてニカちゃん」
「初めまして」
「アラ、可愛い声! 私好みだわ! ユラギちゃんじゃなくて私のパートナーになってくれない?」
ニカの声を聴くや否や、瞬間移動でもしたのかと錯覚してしまいそうなスピードでカウンターの向こうから移動してきて、彼女の両手をギュっと握りしめた。早いし怖いよ。
「あ、えっと……ユラギはパートナーでは無くて、ただの依頼相手だ」
ニカもその行動に多少動揺したようだが、すぐに持ち直し彼女の誘いを断った。
「まぁ出会ってまだ三日だからな。それはそれとしてやめてくれます? その奇怪な行動」
「私、愛には正直に生きてるの」
「それは知ってます」
この人の愛は一切冗談が入っていないので、今の行動も純粋なプロポーズだ。
女の心を持っているのではと思うがそこは男でも女でも愛さえあれば関係ないらしい。下手な男より男らしい。
ニカは流石にその真意には気づいていないようだ。流石の天下の高性能AIも姐さんの動きは理解できなかったか。
というかニカもこれ、断ったというかただ間違いを言い直しただけな気もするな。高性能云々以前の話だったか。
「それにしてもカダスの花だなんて、タイミングが悪いわねぇ」
「タイミングが悪い?」
「ええ、何せここに集まってる魚人族のPLは、全員それがある場所が目的地ですもの」
「?」
どういうことかと聞くと。何でも今青の国に集まっている魚人族の連中は、とあるクエストを受けに来たのだという。
その内容は、魚人族限定であるダンジョンのボスを倒したら称号が貰えてスキルを獲得できるらしい。
そしてそのスキルが中々汎用性が高く、人気のスキルでこうしてにぎわっているとのことだった。
「それで、どう俺たちに不都合なんだ?」
「その目標のボスがポップするのが、丁度花が採取できるエリアの唯一の入り口の場所なのよ。しかもボスは巨体だから抜けるに抜けられないのよね」
「うわぁ……マジかよ……」
つまりは別に倒す必要のないエネミーが別の理由で倒さざる負えなくなったと。ついてないなぁ。
花の採取エリアの狭さもそうだが、そんな場所にそんなボスエネミーを設置するんじゃないよ。
と思わず心の中で愚痴ってしまう。
「ユラギちゃん、今何レべ?」
「ん? 今は52……あっ死んだから減って51になってら」
PKをPKKしてLVが上がったのに、そのあと毒で情けなく死んで下がってるとか……あの毒野郎許さねぇ。
「あそこ確か60は無いとキツイわよ? そもそも二人で行く気なの?」
「二人はそうだけど、レベルは流石にもう少し上げてから行くつもりだったよ」
「人数は本当にそのままなのね……ユラギちゃんらしいというか何というか」
何かあきれられた。失礼な、ちょっと取り合えずソロで何でも倒そうとする癖があるだけだ。大体コテンパンにされてるのもまた事実だけどさ。いや、1割くらいは勝ってるから。
そこで姐さん何か思いついたのか手をポンっと叩くと。
「そうだ、ただでダンジョンのこと教えてあげる代わりにちょっと頼まれてくれないかしら?」
「えっ、何頼まれるの?」
「私のギルドね、青の国所属なだけあって魚人族の子が多いのよね」
んー何となく言いたいことが分かった。
「どう、二人ほどクエストを手伝ってくれないかしら。どうせボスは倒すんだしね」
正直あまり気は進まない。が、情報をタダで教えてもらえることを考えると断れないだろう。
下手に断るとどこまでも値が吊り上がる。だって俺たちのためにと姐さんは考えているから。
まぁ、とはいえ無償の善意を受けるのも本意ではないので、俺は姐さんの満面の笑みでの提案を了承することにした。