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海と魚と少年もどきと

FLRに存在する六つの国の一つである青の国。その首都“シェンラン”に俺たちは来た。


青の国は臨海部の国であるために、その海を見るために観光目的で来るPLが多い。

現実で見ろという意見もあるかもしれないがファンタジーな背景の海というのもそれだけで需要があるものだ。


そしてそんなPLたちの間でも特に人気のスポットがここシェンランである。


理由はここが一目見て分かるレベルで異様な見た目をしているからだ。


建物の上に建物を建てていったかのような継ぎ接ぎだらけの巨大建造物。しかもそれが水上に建てられているのだから観光地にもなるというもの。


しかしここは観光地の割には、構造上の問題でその内部は迷路同然の複雑さとなっている。

初見は道案内で小遣い稼ぎしてるNPCがいるのでそれを探した方が無難だ。そのNPCを初見が見つけられるかはまた別だが。


「都市というより砦だね」


「まぁ都市って外見ではないわな」


元ネタが昔中国にあったというあの場所だと聴いたことがあるので、もしかすると本当に砦なのかもしれないな。


一厨二病患者としてはこの場所に来る度に込み上げて来るものがある。


現実に存在しながら非現実的な要素も混じっていた場所。それこそがかの九龍城だ。

そんなもの、燃えないわけがないだろう。


本物が俺の生まれる前に解体されてしまったのがただただ悔やまれる。


「それでこれからどうするんだい? 場所の確認とか言ってたけど。まさか、また酒場に行くとは言わないだろうね?」


どこか険のある言い方だ。

多分うるさい所に行くのが嫌なのだろう、前の時はうるさ過ぎて耳塞いでたしな。


そう言えばその時の仕草は何か良くない感情を呼び起こされる仕草だったな……。

情報収集目的じゃなくてイタズラ目的で連れていきたいという気持ちが沸々と……。


「言わないよね」


念押しされた。

流石にこれで行ったら好感度が下がりそうだ。


目的の場所を探すのは酒場が一番確実だろうけど、今回は別の方法がいいか。


他の方法となると、確かアイツが今はここに居るとか何とか言ってたな。


メニューを操作してフレンドの一覧からアイツのログイン状況を確認したら丁度ログインしていた。


丁度いい、会うついでに聞いてみるのも悪くないな。


「知り合いがこの街にいるみたいだからそいつに会ってみるぞ」


「また君の知り合いか、今度はどんな人なんだい?」


そこで俺は言葉に詰まる。

アイツがどんな人か……うん、考え直して会うのは止めとこうかな。


今、会おうとしたのはネット上の知り合いだ。直接会ったことこそないが健全な友人関係を築いている。


なんやかんや三年近い付き合いなので信用はできるのだが……果たしてニカに会わせて良いものだろうか?


余計な問題が増えないか、足りない脳みそで必死に考え、多分大丈夫というあやふやな結論に落ち着いた。


「会えば分かる」


その上で説明義務怠慢罪になりそうな魔法の言葉で誤魔化すことにした。

何かめんどくさくなった。


「なるほど、期待しておくよ」


何を期待してるの。

と聞きたくなったが、誤魔化している以上薮蛇になりかねないので、そいつがいるはずの場所へと向かうことにした。



~~~~



「それにしてもここは本当に魚人族(インスマス)ばかりなんだね」


「まぁ青の国だし……」


ニカの言う通り。周りを見渡したら目に入るのは魚人族だけだった。

しかもそれはNPCに限った話ではなく、PLですら魚人族ばかりだ。


いや、それにしても多い。


NPCはいい。ここは青の国、魚人族の本拠地だ。むしろ魚人族だらけなのが普通だ。


しかしPLまでもが魚人族だらけなのは俺にもよく分からない。

別に青陣営に魚人族以外がいては行けないなんて制限は無かったはずだ。


考えられるのは、何らかの大規模なイベントだ。しかも種族制限のあるもの。

それなら1種族のPLが集まって来るのも納得がいく。


だとしたら少しくらい見物していくのもいいかもしれないな。


そんなことを考えた時だった。何処からか喧しい声が聞こえてきた。


「何でポーション如きでここまでぼったくられるんだよ!」


「それが適正だからだよ」


「これが適正な訳があるか!」


見ればゴツい鎧を着た数人の魚人族のPLが、露天らしき店を取り囲んでいるのが見えた。


「なんだいアレは?」


「PL……あー、冒険者同士で揉めてんだろ」


会話の内容を聞けば、アイテムの値段での言い争いだ。NPCの値段設定に文句言うやつはそうそういないので、PL同士の揉め事だろう。


しかしここは青の国の首都内。そんな場所で店を建てるには当然国からの許可がいる。ゲーム的には特定のクエストをクリアした上での一定額以上の金銭の支払いがいる。

聞いた話だと値段の設定にも上限が定められると聴いたことがあるので、その値段が間違っているなんて事はそれこそないはずなのだが。


「ポーションくらいならどう考えても半分くらいの値段だろ。NPCでももう少し安かったぞ!」


「名前が一緒だから分かりづらいけど、効果量はこっちが上さ」


この勢いだとそんな事を知らずに勢いで文句言ってるか、或いは騒ぎ立ててあわよくば低い値段で買おうとする確信犯かのどっちかだな。


さて、これはどうなるか。無駄にヒートアップしてるからもしかしたらまた武器抜かれるのを見れるかも。


にしても囲まれてるせいで見えないが、店側はやけに冷静だな。

しかも声音からして少年の声(・・・・)に聴こえるのだが。もし少年でこの落ち着きぶりなら凄いな。


いや、……もしや。


その正体に心当たりがあると気づいたところで、まるでコントかのように囲んでいる側が躊躇い無く武器を抜きはなった。


最近のFLRは治安こんなに悪いの?


と復帰勢並の感想を抱く。


「……抜いたってことはタマァ掛ける覚悟あるんだろうなぁ!?」


先程の可愛らしい少年らしさが、欠けらも無い凄まじくドスの聞いた声が辺りに響いた。


その後起きたことは、魚人族のチンピラの背に隠れてしまったため詳しくは分からなかったが、何かガラスのようなものが割れる音が響き。そして次々とそのチンピラが宙に舞いポリゴンとなって砕け散っていった。


そしてあとにはただ一人だけが巨大な槌を地面について仁王立ちしていた。


そのあまりに見事な大立ち回りに周りにいたガヤも思わず拍手喝采を浴びせる。


そしてその騒ぎがひとと通り収まったタイミングでアイツはこちらに気づいた。


「あらぁー久しぶりじゃないユラギちゃん!」


「相変わらずっすね姐さん」


いや本当に凄まじい。


見た目は魚人族の少年なのに、渋い低音で女言葉を話すギャップの化身。“エミー”は楽しそうに笑っていた。

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