ガンゼン工房
ドルフロが面白いのが悪い()
次の日、郁音から文句を言われつつ今日はログイン出来ないと言われたアズマは今日の予定を考えつつとりあえずログインした。
カンタドルのリスポーン地点である教会前の噴水広場に降り立つとすぐにニカがこちらに近づいてきた。
「待ってたのか?」
「祝福があるとはいえ目の前で消えるのはあまり良くないよ」
祝福とは、世界観の設定の中で冒険者にかけられているとされる女神の祝福のことで。これによって冒険者は死んでも復活することが出来るという設定となっている。
「ああ、それはすまん。けどアレは不可抗力みたいなもので……何その目?」
「何でもないよ。それで今日はどうするんだい?」
「クラウスは今日は来れないみたいだし、素材集めに行きたい……ところなんだけど先に行きたい所あるからそこ行くぞ」
「行きたい所?」
「武器屋」
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カンタドルの武器屋である“ガンゼン工房”は最初の街の武器屋ということもあり、低品質だが安価な武器防具を売っている武器屋である。
故に顧客の殆どが初心者であり、初期設定の見窄らしく没個性的な装備をしたプレイヤーばかりがいてそれぞれを見分けようと思うと中々難しいものがあった。
逆に言えばその初期装備の呪いから脱したプレイヤーがいると目立つということでもあり、そこに……。
「おーいいねーいいねー! 新しい武器が沢山増えてんじゃんか! えっ何コレ、カッコイイ!」
このハイテンションが加わると嫌でも周りの目を引くこととなる。
「……控えめにいって脳味噌大丈夫かい? 歌で一眠りするかい?」
頭の中身を心配されるという人としての尊厳を傷つけられそうな対応をされるが、アズマはそれを意に介さず壁に陳列されている武器を食い入るように見ていく。
「……何個もの武器を使っているのを不思議に思ってはいたけど、つまりこういう事だったの?」
「一つの武器を極めた方が強いのは確かなんだけど、倉庫で埋まってる珍しい武器とか勿体ないってなったらさ、もう全部使いたくなるじゃん?」
「いや、さっぱり」
「NPCには分かんねぇか……っと目的はそれだけじゃないんだった」
むしろ今のも目的の一つだったことが理解できずにいるニカを放っておいて、アズマは武器防具の精算をするカウンターの脇にある別のカウンターでふんぞり返っている蜥蜴人の大男に声を掛けた。
「おう、また懐かしい顔だな、オイ!」
その人こそ、この工房の主であり、その名前の由来となっている“ガンゼン”その人である。
「久しぶり親方。早速だけど、この素材で何が作れる?」
アズマはそう言うとメニューを操作して、倒したモンスターがドロップしたアイテムを全て取り出した。
「来て早々これかよ。変わってねぇな。ちょっと待ってろ」
そう言うと親方はアイテム一つ一つを手に取り確かめ始めた。
「武器を作りに来るのが目的だったんだね」
「そうそう、流石にあの大剣一本でいくのも心許ないしさ。ついでに素材消費もできるし」
ペイルホーンを倒せたのは偶然によるところが大きく。今後、さらに強いエネミーが出てきたら勝てないとアズマは考えていた。
大剣は強いが、属性相性次第では流石に通用しない可能性がある。故に別の属性の強力な武器が欲しかった。
「ざっと見た感じだとこんなものが作れそうだ」
親方がそう言うとアズマの目の前に作成可能な武器の一覧が現れる。
ざっと見た感じでは闇属性と風属性の武器を作れるようだった。それぞれペイルホーンとハーヤーフロッグの属性である。
「んーじゃあこの“ペイルトライデント”でいいか」
これは闇属性の槍で、名前からも分かるがペイルホーンから作れる武器だ。アズマは昔やっていた時は作る機会こそ無かったが、誰かが使っているのを見た覚えがあった。
性能的に同じレベルのものはあったが、属性を考えると。風は双剣のエスペランザがまだ使えそうだからいいが逆に闇はあんまり強力なものが無いので丁度いいかもしれないと考えた結果である。
「それとついでに……と、……これもお願い」
「ん? それは……ああ、なるほど。隅に置けないねぇ」
親方はその言葉に一瞬引っかかるが、直ぐに何かを得心したようでニヤニヤと笑みを浮かべた。
「顔が気持ち悪いぞ」
「武器見てる時のお前の顔よりマシだ」
「仮面被ってるから分かんねぇだろ」
「仮面越しに漏れてんだよ。……んじゃ注文はそれでいいんだな。明日には出来てるだろうぜ」
「おう、明日また来るよ」
アズマはそう礼を言い、店を後にした。
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「んじゃ、アイテム補充したし青の国に行くぞ」
その後道具屋で回復アイテムなりを補充したアズマはカンタドルの街中を歩きながら今後の予定をニカに話し始めた。
NPCに言っても、結局はPLに着いてくるだけであんまり意味の無い行為ではあったが。手持ち無沙汰で暇だったので自分の考えを纏めるためにも話すことにした。
「青の国……花だね」
「そうだ、酔っ払いの情報どおりなら花は青の国にあるからな。っても今回は場所の確認するだけだけどな。具体的に何処にあるかはさっぱりだし」
青鹿を倒したことでこのエンカウントクエストの大凡の難易度は把握できた。既存のボスエネミーに何匹かのお供を付ける程度の難易度だ。それ基準で考えると、準備なしでいくと痛い目を見る可能性が高いということが分かる。二人旅なのも原因な気はするが。
「それもそうだね。しかし青の国か……行ったことないから楽しみだな」
「へぇー無いのか。ってことは海も見たことが無いのか?」
「そうなんだ。だからとても楽しみだよ」
この大陸は北半分を山脈が囲っており、更に東方面も砂漠地帯や火山地帯が存在することで大陸の端までたどり着くのが困難になっている。
残る西側もその上半分は緑の国の大森林に覆われており、結局、海までたどり着ける道は大陸の南西部分。即ち青の国にしか存在していない。
故にこの大陸の住人の殆どは海を見たことが無い。
吟遊詩人である彼女が初めて海を見たらやっぱり歌にでもするのだろうか。アズマは明らかに先程より楽しそうになったニカを見て何となくそう思った。
「ちょっと待てくれそこの二人!」
その時突然後ろから大声で話しかけられた。見れば見覚えのある服を着た獣人族のNPCだった。ガンゼン工房所属のNPCだ。
「ん、何だ? 何の用だ?」
「親方が出来たからこれを渡してくれって」
見ればそれは先程、武器のついでで頼んだものだった。
「明日って言ってなかったかあのオッサン!?」
「これくらいなら直ぐに出来るわ、との事です」
「一体何を頼んでたんだい?」
「ん? 言ってなかったか。ほらよ」
そう言ってアズマは受け取ったそれをニカへと投げ渡した。
「……これは?」
「余った素材で作ったMPとか魔法の威力を補強するアクセサリーだ。出来ればまともな防具渡したかったけど流石に素材が足りてなかった」
自分の強化も当然必要だが、これから当分一緒にいる相方の強化も必要だと考えた結果だった。
それはただ効率を考えた結果でロールプレイもへったくれもない行動だったが、あくまで渡す側の考えで受け取る側の受け取り方はまた別であることまでは本人は気づいていないようだった。
「……うん。ありがとう。大切にするよ」
何処か上の空で返事をするニカに気づいているのかいないのか、アズマはおうと適当な返事をする。
そして従業員は用は済んだのでさっと走り去っていくのを見届けてから二人は次の目的地である青の国へと向かった。