表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/22

PKの心得

実を言うと俺はここに来てからずっと警戒していた。


何故なら人が見当たらなかったから。NPCに教えて貰えるようなレベリングスポットであるにもかかわらずだ。


ただの穴場の可能性もあった。多少効率化の条件が面倒であまり人が寄り付かないのはよく有る。だがそれもカエルを一撃で倒せたことでそうではないと分かった。


ならば他に理由がある。例えばここはレベリングスポットであると同時にそれで消耗したPLを狙える絶好のPKスポットであるとか。


PLをキルした時の経験値はその時のPLの消耗状態には左右されない。当然弱っているのを狙った方が楽だ。その理屈で動くものは大多数いるならばここがPKの名所となっても不思議ではない。


で、案の定こうなったわけだが。いやしかし運が無いというか、ツメが甘すぎるというか、そんなに人数いるなら近場に二人くらい潜伏させとけよという。そうすれば片方バレてもそのタイミングでもう片方が奇襲をかけられたろうに。


という訳で自らの失敗はその身をもって知るといい。


敵が動き出すより先に双剣を装備して敵の塊に一気に突っ込む。武器の効果があると言ってもAGI極振りという訳ではないためそこまで速度は出ない。間合いに入るより先に連中は迎撃体制を整えてしまう。


重装備のタンク役が一人前面に出て、その後ろにさっき槍を当てた奴を含めた軽装備の前衛職三人が追撃の為に控える。そして更に後ろに下がった杖持った二人は魔法の詠唱を始めていた。


実にありきたりで堅実に隙がないアウトローたるPKらしからぬ陣形だ。もう少し一人で突っ込んできたこちらを舐めてバラバラに戦ってくれると思ったのだが、想像以上に統制が取れてたようだ。


さてこのまま突っ込んでもタンクに止められてからの一斉攻撃でお陀仏になるのは目に見えている。かと言ってタンクを避けるように動いても後ろの連中にその隙を突かれてやはり同じ結果となるだろう。


ではどうするか。何よりも優先すべきは後ろの魔法を中断させること。そのためには結局前衛の連中を超えなければならない。


そうその通りだ。その言葉通り奴らを越えようか(・・・・・)


タンク役に十分近づいてから大剣を取り出し、地面に斜めに突き刺して思いっきり飛ぶ。青鹿の攻撃を避けたのと同じ棒高跳びの要領で頭上を超える。


これでタンクに動きを止められず、更に後ろの連中に絡まれずに済む。


ただ止められなかったとは言え飛ぶために多少の時間は浪費してしまった。詠唱完了前に魔法職の所までに辿り着けるかは五分といったところだ。


まぁそんな賭けをするくらいなら離れて妨害すればいいだけの事。


丁度棒高跳びの頂点に達した所で手を離して身体を宙に投げ出す。そして多装士のスキル“ドロー”で手元から離れた大剣を回収し、更にクイックアームで新たに二つの槍を取り出す。


空中で踏ん張りが効かないが無理矢理身体を後ろに反らし、その反動を利用して両手の槍を詠唱中の二人に向かって撃ち出す。


一つは見事に外れたが、もう一つは敵の足を貫くことに成功した。前なら今のでも当てられたんだが、流石にこのゲーム以外ではやらない技だから鈍りに鈍ってるな。


着地地点は前衛組と後衛組とのちょうど間の空白部分。我ながら見事な棒高跳び、いやどちらかというと棒幅跳びか。


着地してから正面を向くと、足のダメージで詠唱を中断されたのと、こちらの行動で驚いたのか大きく目を見開いたまま詠唱している魔法職二人が見えた。


すかさずスキルを使って双剣を瞬間的に装備し、詠唱が終わるよりも先に攻撃を加えて中断させる。


このまま追撃を加えて後衛を蹴散らしてやりたいところだが、後ろから沢山の音が危険域に近づいてきているのに気づいたため、追撃を諦めてまたスキルで装備を大剣に切り替えてから回転斬り攻撃スキル「回断剣」を起動して後ろの連中を迎撃する。


視認もしていないのでほぼ勘だけでの攻撃だったが敵のスキルによる攻撃が掠りながらも二人は巻き込めた。


が、咄嗟に回避を選んだ一人は攻撃の隙を突いてその手に持つ槍の攻撃スキルでの一撃を加えようとしていた。


このままだと回断剣による大振りでできた隙を突かれているので、避けることも出来ずに攻撃が当たり、別に防御が高い訳でもないのでごっそりHPが持っていかれる。


しかし結果は違った。大剣の大振りによる慣性に流されつつ俺はスキルを発動して装備を変更、双剣を装備すると慣性を利用しつつ武器スキルで強化されたAGIを信じて思いっきり地面を蹴る。


すると回転しながら宙に飛び、槍の上を超えるようにして攻撃を回避出来た。


多分傍から見たらカンフー映画か何かのワンシーンにも見えるだろう曲芸を成功させた俺は、地面に足が着いてすぐにスキルの使用後で腕が伸び切って逆に自身が隙を晒した槍使いの首目掛けて双剣を交差させる攻撃スキル「クロスエッジ」を放つ。そしてクリティカルであることを示す弾けるようなエフェクトと共に奴の頭が切り飛ばされる。


ヴァーチャルなのに冷や汗を感じる。今のは殆ど反射的な行動だった。やれるという感覚のみを根拠にした動き、確信もへったくれもない咄嗟の行動で良く生き残れたものだと我ながら思う。


その場でクルリと振り向き、魔法職二人に向かいそのまま双剣で攻撃する。魔法職故の低防御によりあっという間にHPを削り飛ぶ。


これで半分。


前衛二人はさっきの攻撃を受けてHPを殆ど削られている。これは流石の大骨剣と言ったところ。


かすり傷で死ぬような状態で戦いたくないPLの本能に従って、二人仲良く回復ポーションを飲んでいる。


その間に大骨剣でタンクを一方的に殴り倒す。双剣との切替で速さも手に入れた大剣の攻撃に対応出来ず。


「そんなん反則だろ!」


と恨み節を残して消えた。まぁタンク相手にこれは卑怯と言えなくもない。いや、PK相手に同情なんかする必要は無いか。


さて残りは二人だが……って、あ、逃げた。


そちらを見ると小さくなっていく背中が二つ。それはもう全力の走りだった。畜生、逃がす気はサラサラ無かったのに、タンクに時間掛けすぎたか。


何にせよPKを返り討ちに出来た。久しぶりとは言えやれるもんだな。レベルが同じくらいだったのも大きいだろうけど。


いや、しかし……疲れた。


久しぶりのPVPだった。レベリング直後に加えて、PVPだと普段のエネミーとはまた違った頭の使い方するから変な疲労感だ。さっさとログアウトしたい。


「大丈夫かユラギ!」


離れていた二人が戦闘が終わったのを知って戻ってきた。


「まさかアンタ、一人で全員やっつけたの!?」


「いんや、二人逃げられた」


「相手が逃げ出してるのはおかしい」


おかしく無いぞ。多分。


「所で何かアンタのHPゲージ変じゃない? 減ってるよ」


何のことだと思い見れば、ゲージを紫色の枠が囲んでおりドンドンHPが減っていた。


「これは……所謂毒状態というやつですね」


あーアレか掠った時か。いやらしい武器を使ってやがんな。言われるまで全く気づいて無かったよ。というか当てた本人達もあの様子だと気づかなかったのでは?


結構な勢いで減っているが慌てず騒がす、冷静にイベントリから解毒ポーションを探し……無かった。運悪く切らしていたようだ。


「あーポーション切れてんじゃん。クラウス、解毒の魔法使える?」


「さっき覚えたから大丈夫……あっゴメンMPが足りない」


そっかー。


沈黙。当然その間もHPは削られ気づけばもう死ぬ間近となり諦めた俺は。


「……ニカを頼んだ!」


そう元気よく言ってから俺はHPが0になり爆散した。


そしてリスポーン地点であるカンタドルの教会前広場に出現し、そのまま疲労のままにログアウトをした。


後で気づいたことだが、俺のMPポーションをクラウスに渡して回復させれば普通に助かったことだろう。


PKに自分からケンカ売るんじゃ無かったよ。

PKの報酬についての補足


PLが武器を他のPLに当てると戦闘状態という状態に移行するのですが、これは一定以上距離が離れると解除されます。

そして、このゲームでは状態異常で倒してもPKの報酬はありますが、それは戦闘状態の場合のみで逃げた場合には貰えません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ