ゲームを害すはプレイヤーの恥
そこから約一時間かけて30近く倒した。俺のレベルは1回しか上がらなかったが二人のレベルはかなり上がり、クラウスなんかは10も上がっていた。
成程確かにコイツは効率がいい。
何がいいって一撃で倒せることだ。攻撃を空振りさせてから近づいて大剣を振り下ろす。これだけで戦闘が終了する。
経験値を配るためにクラウスに回復行為をさせる必要があるので時折攻撃を食らってHPを減らさなきゃいけないが、それでも相当楽な部類だ。
これは同レベル帯のボスエネミーのHPすら消し飛ばす火力を持つ大剣の存在は当然大きいが、属性相性での火力アップの影響も甚だ大きい。
このゲームでの属性は火は風に、風は土に、土は水に、水は火に強い。
よくある4属性の強弱関係に、これまたよくある光と闇が互いに弱点という相互関係が加わる。
最高火力がたまたま弱点突ける属性で本当に良かった。むしろ突けて無かったら勝てるか怪しいまであるからな。
「しかし疲れるわね」
「基本身体張ってるのオレなんですが?」
「ちゃんと回復してるじゃない」
そこ言われると辛い。基本殴ることしかしないから回復役の苦労が分からない、故に反論も出来ない。くっ……!
まぁそれはそれとして消耗してきたのは事実だ。リソース的なものもそうだが、それ以上にプレイヤーの疲労がある。
聞いた話によると、昔のゲームは画面越しにコントローラを操作するだけだったという。頭部と指先しか使わないのが一般的だったらしい。何と楽なことか。
今のゲームはリアルと大差ない。それは言い方を少し変えると、疲れ方もリアルと殆ど変わらないということでもある。使う部位もそうだが単純に与えられる情報量が桁違いだ。
故に、昔のゲーム以上に現代ではリアルの体力が要求される。ゲームで強くなるためにリアルの体を鍛える何て本末転倒気味なことを現代のプロゲーマーはさも当たり前のようにやっている。それくらいにはリアル体力の重要性が高いという事だ。
一応疲労により脳波か何かに異常をきたすと強制ログアウトするようなセーフティは着いているが、まぁ最終手段である。起動したらそれまでだ。
俺自身はまだまだいけるが、初心者でまだ慣れ切っていないであろう郁音の体力が心配だ。どれくらい疲れているか、俺を基準に出来ない以上ハッキリとは分からないからな。
ということで本日の狩りはここまでとしよう。1時間でこれだけレベル上げられたのなら十分だし無理する必要もない。
そういう旨を二人に伝えてから、ログアウトするために街まで戻ることとした。フィールドでログアウトすることも出来るが、中身がいないPCが野ざらしになって好き勝手出来てしまうので基本的には街に戻る必要がある。リアリティ優先故の面倒な仕様だ。
「にしても……嗚呼、早くあの御方に会いたいわ」
「一体誰に会いたいんだい?」
「それは勿論! “輝ける聖騎士”エースロット様よ!」
「ああ、白の国の騎士団長様か」
実物は俺も1回だけしか見たことが無いがなんというかイケメンに繋がる言葉全てが当てはまるような完璧イケメンだったな。
しかも最強のNPCとまで言われるくらい強いらしい。1度くらいやり合ってみたいんだけど如何せん滅多なことで国から出てこないんだよなぁ。流石に最大勢力を敵に回したくはないから正面からの討ち入りは嫌だし。
「フラっと外出歩いてないものか……ん?」
その違和感に気づいたのは二人の会話を他所にそんなことを考えてた時だった。
視線が引かれたのはここに来る時にも見かけた倒木、ではなくその周りの湿った土。
それは周りと比較すると些かたいらすぎる場所があった。それによく見ればその場所の近くには少し盛り上がった部分も見受けられた。そうまるで足跡か何かを消そうとしたかのように。
「二人共ちょっと止まってくれ」
気づいて直ぐに二人に静止の声をかける。クラウスは何事かと困惑していたが、ニカは何かに気づいたのか視線が鋭くなった。
「誰かいる?」
「みたいだな。挨拶しないといけない……なっと!」
適当なことを言いながら俺はいつも通り壊れかけの槍を取り出してこちらから見て倒木の影に当たる部分に向かう軌道で槍を投げた。
そして落着したと同時に、うわっという誰かの驚きの声が聞こえてきてダメージエフェクトが発生させながら影から誰かが立ち上がった。
「えっ人!?」
そこには軽装の防具と武器からして恐らく不意打ち特化だろうから盗賊か何かを職業にしているだろうPLがいた。
「もう少し上手く隠れるんだな」
俺ならそもそもつけないでそこに隠れるか、通り過ぎて行った風を装った足跡をつけてから隠れるぞ。
「畜生! 何でバレたんだよ!? 」
どうやら自身の失敗には気づいていない様子だ。奴は指で輪っかを作り口笛を吹いた。
すると先の道から5人ほどこちらに来るのが見えた。どう考えてもコイツの仲間だろうな。
「ユラギこれどういうこと!? てか誰なのよ」
未だに状況把握しきれていないクラウスは混乱している様子だ。情けない……いや、まぁ無理もないか。
「俺たちを待っててくれたPK様達だよ」
「この人たちがPK!? たまたま同じところに来たとかじゃなくて」
「冷静になれ。だったら隠れる必要無いだろ」
大人数同時参加型、つまりはMMORPGなんかは基本的には他者と協力することを目的とすることが多い。しかしリアリティの追求の過程でその協力すべき他者へと攻撃出来るようなシステムのゲームも往々にして存在する。しかしあくまで他者との協力がメインであり攻撃出来ることは基本的にはメインとはなっていない。
しかしそれをメインとしてゲームを楽しむ層も存在する。それがPKだ。
彼らがPKする目的は様々だ。
単純に利益があるから効率化の一環として行う者もいれば、PVPと見て楽しむ者がいる。ただのストレス発散、或いはそこから転じて目立つことが目的の者もいる。
何れにせよ他のプレイヤーに自らのプレイスタイルを強要することになるのでいい印象が抱かれることは無い。
ちなみにこのゲームではPKされたら装備一つを剥がされる上、経験値も取られる。コイツらもそれ目的だろう。
「何見つけられてんだよダッセーな」
「ちゃんと隠れてたって。いきなりあの仮面野郎が槍を投げつけて来たんだよ」
「足でもはみ出てたんじゃねーの?」
連中は全員で6人。これはチームを組める最大人数だ。そしてその内約は装備を見た感じ魔法職が2人にバレバレの間抜け盗賊含め前衛が4人だ。中々バランスは良さそうに見える。
対してこちらはその半分の3人、しかもその内1人は初心者だ。分かりやすく不利だな。
ただ見たところ装備はそこまででも無さそうだった。何せアイツらの装備の殆どを俺が分かったからだ。つまりは俺と同レベル帯のPLということ。ここに活路を見出すしか無いな。
「取り敢えず聞いとくけど不意打ち失敗したから見逃すとかって展開は無いかお前ら」
「はぁ? あるわけないだろ。囲んでボコって経験値と装備剥ぐに決まってんだろ」
「初心者いるから許してって言ったら?」
「はぁ、何意味わからないこと言ってるんだ?」
……つい呆然としてしまう。全く意味を理解してやがらない。駄目だコイツらPKの中でもド底辺のプレイヤーじゃないか。
ふとこのゲームを離れた原因にもなったかつての仲間との言い争いを思い出す。ああ、あれの発端もこういう連中が原因だったけか。
俺は思わずため息をつく。何だってこんな品位の無いPKがこの神ゲーに存在しているのか。
目の前で盛大にため息をつかれたのが気にくわなかったのか何か言ってきたが、それを右から左に受け流しているとニカが傍に来て
「どうするんだ? 逃げるのか、戦うのか」
「んなもん今決めたよ」
面倒くさくなりそうだったから逃げようと思っていたが、個人的に非常に気に入らない連中なのが分かったので方針は変更だ。叩きのめしてやる。
「おっぱじめたらニカはクラウスと一緒に後ろに下がっててくれ。一人でやる。援護も必要ない」
「6人相手に1人でやるのか? そもそも疲れたんじゃ……」
「コイツら見てたら元気になった。安心しろ勝機は見出したから、じゃあ行くぞ」
PKを悪いとは言わん。昔は寧ろ大好きだったからな。けど、それは決して好き勝手していいという意味じゃ無いんだよ。
それを先達たる俺が多装士の実験がてらお前らに教え込んでやるよ。