沼の中のカエル
ヴェノムが面白いから投稿遅れました()
「あんなに全力で逃げる必要あったの?」
「あのままだと確実に刃傷沙汰になってたぞ」
「どうせアンタの自業自得でしょ」
クラウスさん失礼だな。俺視点では7:3であっちが悪いんだよ。つまり正義はこちらにある。
という言い訳をしようかと思ったが長くなって面倒臭くなりそうなので口を閉じておこう。
カンタドルから南西に進むと目的地である湿地帯が見えてくる。ここでは虫系のエネミーや水生系のエネミー、偶に獣系のエネミーが存在する。
無論エネミーだけでなくキノコに始まる湿気と関わりのあるアイテムなんかは大概ここで手に入れることが出来る。
と言ってもそれ以外に何かある訳でもないので基本的には採取クエストくらいでしかここに来ることはない。俺もここに武器の素材集めに1回来たくらいだ。
確かここのエネミーで作れる武器は変に特徴的で使いづらかったのであんまりいい印象は無い。
逆に言えばそんな場所だからこそ今回のレベリングへの期待は大きい。何せ他に競合するプレイヤーがいない可能性が高く効率よくエネミーを狩れるかもしれないからだ。
実際現地に着いても他のプレイヤーは見かけなかった。もしかしたらとんでもなく恥ずかしがり屋なプレイヤーがいて、そこら辺の倒木の影に伏せて隠れているかもしれないが。ここの地面、湿地帯だからドロドロだけど。無駄にリアリティにこだわってるせいで不快感もそのままだ。そこくらい手を抜けよ。
「それで確かカエルのエネミーを倒すんだっけ? どんなのなの?」
「知らん。まぁレベル見たら分かるだろ」
そこら辺にいるエネミーは大体30いくかいかないかくらい。クラウスのレベルが低いことを考えると倒してもいいかもしれないがアイツはヒーラーなので本番のレベル上げに支障は出ないだろう
このゲームでの経験値配分は少し複雑だ。
公式の発言によるとエネミー一体ごとに経験値が決まっているらしいのだがその配分の決め方をどうも貢献度なるマスクデータで管理しているらしい。
その貢献度とやらが曲者で与えたダメージ量だけで決まらず回復や味方へのバフ、敵へのデバフなどの戦闘に関わる全ての行動を参照して決められているしい。
どれだけ戦闘に貢献したかをゲーム内で独自に判断し、その数値を比較してプレイヤーへの経験値を決定している非常に平等なシステムだが基本マスクデータで処理されるので偶に意味不明な経験値配分をされることもある。
さてそういう訳で今回は味方二人は特に頑張る必要は無い。要するに俺が倒すのを後ろから助けるだけだからだ。しかも今回は俺が質問して答えたエネミーなので俺のレベルに合わせたエネミーを倒すことになる。初心者二人への経験値はとんでもないものとなるだろう。
まぁこういう初心者のキャリー、一人はNPCだが、は褒められた行為では無いのだが身内なのでノーカンだ。
周りを見渡し、視界に入るエネミー達のレベルを確認していく。
27、29、33、26、31、27……ん? アレは……67、当たりか!
名前は「ハーヤーフロッグ」。普通のカエルよりはずっと明るい色の体色を持っているが大きさはこのゲーム基準ではそこまで大きくはない。ただその周りと比較すると明らかに異様な高レベル。アレが酔っ払いの情報のエネミーと見て間違いないだろう。
いや、しかし……。
「ねぇレベルすごく高いけど倒せるの?」
正直な話ヤバいかも。想像以上の大物だった。こっちの平均レベル30いくか怪しいんだよなぁ。
勝てるかどうか怪しくなってきたが、来てしまった以上やるしかない。とにかくニカが死なないように立ち回ろう。PLの命は軽いので換算には入りません。
「クラウスは回復に専念、ニカは鹿の時と同じで大剣使うからあの魔法を頼む」
レベル差は暴力的な武器性能で誤魔化すしかない。
武器を大剣に取り替えアクセサリーもそれに合わせてSTR重視のものに変更する。そうしてもなお重いが、魔法のエフェクトが武器を包み込むと持てなくはないレベルまで軽くなる。ニカの「フロウウェポン」の効果だ。
こちらが武器を構えたのを見てとってあちらも戦闘行動へと移ろうとしていた。
ヤツは大きく息を吸うと頬を風船のように膨らませた。何をするのか咄嗟に分かった俺は体が大剣の影に隠れるように構えながら後ろの二人に大声で叫ぶ。
「ヤツの正面から離れろ!」
そう警告したのとほぼ同時にその膨らんだ口から指向性を伴ったその体躯には見合わない勢いの暴風がこちらへと放たれた。
凄まじい衝撃が大剣を通して手に伝わる。そのままでは吹き飛ばされかねなかったので大剣を地面に突き立てて全身でもたれ掛かるようにして支える。
後ろを見ればクラウスの反応が遅れたのを助けたのかニカがクラウスの上に覆いかぶさるようにして地面に倒れていた。HPは減っていなかったので回避には成功したようた。
PLがNPCを助けたという展開にヒヤリとしたが、結果として助かったのならいいか。
こっちのHPを確認するとガードしたにも関わらずかなり削られていた。流石にレベル差があるか。
「クラウス! 回復頼む!」
俺はそう告げてから大剣を地面から抜き、ヤツの横合いに向かって曲線を描くように走る。このままだとまた後ろの二人が巻き込まれかねない。
ヤツは再度口を膨らませようと息を吸い込む。さぁここで新職業の出番だ。
それを防ぐために俺は大剣を持つ手の片方を離し、そこに新しく装備するという形で槍を出現させる。
武器の同時装備は新しい職業、多装士の固有スキル“ツインアームド”によるものだ。
そして走る勢いを乗せてその槍を思いっきりぶん投げる。
攻撃準備中のアイツはその場から動けないので槍を回避することなぞ出来るはずもなく、そのまま綺麗に槍は当たりダメージエフェクトを煌めかせながら耐久値を失い消滅する。
が、そこまでだった。ダメージこそ与えられたようだが行動のキャンセルには至らなかった。つまりそのまま暴風はその口から放たれた。
また大剣の影に隠れる。
レベル差によるものか攻撃キャンセルまでには至らなかったようだ。
更に大剣越しに襲いかかる暴風は悪い意味で順調に俺のHPを削っていく。その量は先のと合わせるともう1発耐えられるか怪しいレベルだった。
レベル差があるからってこっちはガード越しだぞ。いくら何でも火力高すぎるだろ。
そう思ったのと同時に全身を回復エフェクトが覆う。クラウスの魔法だ。これで何とかと思いたいがそもそもが始めたて。回復量はそれ相応に微々たるものだった。
まぁ元々期待はしてないし、無いよりはマシだ。もう1発は確実に耐えられるレベルまで回復したし上々とすら言える。
しかしこのままだと近づくことすら容易じゃない。何とか攻撃を凌いで一撃を加えたいところだが如何せん大剣が重く速度が出ない。
かと言って大剣以外の武器だと火力が足りない可能性がある。
さてどうしたものかと考えたところで今の行動を思い出す。俺の今の職業である多装士は何も両手別装備だけが持ち味では無い。確かスキルの中に……。
そう考えている隙にカエルがまた口に空気を溜め始めた。
考えてる暇は無いか。だったらぶっつけ本番でやるまでよ。
俺はスキルを発動し、装備を大剣から予め登録しておいた双剣のエスペランザに変更する。
予め登録しておけばメニューを開かずとも即時装備可能になるスキル“クイックアームド”。コイツのことを忘れてたぜ。
このエスペランザには実は使用者のAGIを上げる常時スキルがある。故に非常に重たい大剣装備時と比べると身体が羽毛にでもなったかのように軽く感じた。
そして俺はカエルを中心として円を描くように走る。当然カエルも照準を合わせるために身体を動かすが、その膨らんだ口が邪魔なのかその動きはこちらに全くついてこれていなかった。
しかもその口に溜め込んだものは何時までも維持は出来ないようで全く意味の無い方向へその口の空気を吐き出した。
その姿は余りに隙だらけで思わず口元が緩みそうになりながらも俺はこの絶好の機会を突いてカエルに一気に接近する。
そしてそのまま攻撃をする時にまた武器を変更する。勿論それは手持ちで最高火力の灼鯨の大骨剣だ。
そしてその隙だらけの姿に上段からの振り下ろしをする大剣スキル“断切剣”による一撃を浴びせる。
このスキルは大剣スキルの中では最初に覚えるスキルで決して威力は高くない。しかしその攻撃動作を含めた性能はシンプルで癖がないもので上級者もよく使っているスキルだ。
放った自分がビックリするような激しいダメージエフェクトが視界を覆う。そしてそれが晴れた後には目の前には今の攻撃の余波で陥没した地面しか残っていなかった。
いつだったかまだこのゲームを辞める前のころ。何処ぞの大剣使いはこんなことを言っていたことを思い出した。
このスキルは他のスキル以上に使用者のステータスが顕れる、と。
当時は何格好つけたことを言ってるんだと思ったが、成程多分このことを言ってたんだな。そんな訳あるか。
後ろでレベルアップに驚くクラウスの声を聞きながら俺は。
「いや、それ抜きにしても……一撃かよ」
と誰に言うでもなく呟いていた。
断切剣:
最初に覚える大剣スキルで上段からの振り下ろしという極めてシンプルな攻撃動作をする。
威力は単発にも関わらず他の武器の初期スキルと比べると低めという一見産廃のような性能をしているが、実はキャラクターレベルと職業レベルそれに武器の攻撃力に比例して威力が上昇するという謎仕様となっている。
という設定を考えたが没になった。
エフェクトが派手なのはユラギの大剣スキルのレベルが高いからでカエルが一撃なのは属性相性故です。