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未来へ

らいへ】 たんとう そら




 あれから、数日がった。


 ハゼのくすりこうもあってか、プティはぐんぐんくなっていった。ちのもんだいもあったんだろうって本人はいってたけど。


 ラ・ディオスとか、しんかんがどうのとか、そういうのがなくなったわけじゃない。っつーか、はいはしないらしい。ただ、その、なにもかもかみさまのいうとおり! っていう考え方を、少しずつえていくんだそうだ。それには、なんだかんだいってしんらいされてきたシューケルトっておっさんのがんばりがひつようってことらしい。


 それから、これはとうぜんだけど、びょうになったらしろに来るっていうのはなくなった。これからはかくびょういんを作るほうしんみたいだ。ただ、これこそ人々の考え方をこんていからえなきゃなんないし、くすりとかのしきがあるのもハゼだけだしってことで、そうとうたいへんな道のりになるのはまちがいない。


 まあ、オレにはかんけいない。


 オレとはちがうかいの話だ。


「……あんたさ、ぜんぶ知ってたろ」


 さくらとティーアはもの、ハゼはいそがしくかけずりまわってて、プティのには、オレとプティだけだ。


 いいかいだから、聞いてみた。


「なにをですか?」


 すっとぼけてるってわけでもないみたいだ。オレは、ちょっとむっとしてプティを見る。


「このかいには、ニンゲンが、もういないってことだよ。そうじゃなきゃ、やっぱり、ティーアにオレらの話を聞いたときに、かいから来たって思うとかって、おかしいだろ」


 こたえずに、プティはがおを見せる。……知ってたって顔だ。


 そう、オレがかべこうで知ったこと。


 このかいのニンゲンは、もうずっとむかしに、ぜつめつしていたらしい。


 そもそも、ビースルっていうのは、ニンゲンのじっけんのひとつとしてたんじょうした。ヒトとケモノをかけ合わせたら、どんなせいぶつができるか──せいこうれいがここにらしてるビースル、しっぱいれいがあのもの、ペルティスってやつらしい。


 おうぞくってのは、そのなかのしょうしゅで、ふしぎなのうりょくってたってことでぜんあがめられていったみたいだ。だからプティだけ、耳がちがうのな。


 ニンゲンは、じっけんいっかんとして、ビースルに土地のいちあたえた。きょじゅうかべかこって、ビースルもペルティスもぜんぶほうんで、どうしんしていくかを長年にわたってかんさつしてた。その一方で、しんもとめるあまりに自分たちのからだにかいりょうかさね、びょうになってこまるならびょうにならないようにしよう、とたんじゅんな思考でからだをどんどんかい……やがてそんができなくなってぜつめつ


 よくわかんないけど、そういうことらしい。


 ハゼのいってたニンゲンのれきと、そんなにちがってるわけじゃないから、きっとぜつめつするまではそれなりにこうりゅうもあったりしたんだろう。


 オレは、このことを、ハゼたちにいうつもりはない。さいしょはショックだったけど……けど、けっきょくかんけいないんだ。


 れきがどうだったかなんて。こいつらは、ここでこうして、生きてるんだから。


じつは、ヒミツが、もうひとつ」


 そういって、プティはいたずらっぽくわらった。なんだかはじめて、こいつがさくらと同じとしだってなっとくできるような、そういうがおだ。


「ヒミツ……?」


「ただいまー! おたくさん買っちゃった!」


 さくらとティーアが、に入ってきた。どういうわけか、ハゼもいっしょだ。しろの外でごうりゅうしたらしい。


「ね、プティ、もういろんなもの食べられるでしょ? これとかどう?」


 ハイテンションで、さくらがベッドの上にパンやらやらをならべていく。もつたされていたらしいハゼが、よろめきながらふくろを下ろした。


「サクラ、うれしいですが、いっしょに食べることはできません」


 プティは、そういってほほんだ。からだをこし、りょうを広げる。母さんが、まだ小さなさくらっこするときみたいなぐさだ。


「え? なに?」


 こんわくしながらも、さくらがプティのうでのなかにおさまる。プティは、ぎゅっとさくらきしめた。


「ありがとうございます、サクラ。サクラは、いつまでも、わたくしのいちばんの友人です」


「やだ、どうしたの。れるなあ」


 さくらが顔を赤くしながら、ほおをかく。プティはこんは、オレに右手をした。


「ソラも、ありがとうございます。わたくしも、ソラみたいなにいさしかった」


「……おう」


 なんだってんだ、きゅうに。でもまあ、わるい気はしない。ぎゅっとあくしゅわす。


「ティーア、ハゼ」


 プティが、しずかに二人の名をんだ。


 ティーアとハゼが、顔をこわばらせる。


「……帰すのですか」


 ティーアがつぶやいた。……帰す?


とびらひらいて、来てくれたのがあなたたちでかった。本当は……わらなければと思っていたのだと思います、心のどこかで。ありがとうございました。たくさん、本当にたくさん、たすけていただきました。──でも、楽しい時間は、おしまいです。これじょう、お二人にあまえるわけにはいきません」


「え? どういうこと? ……プティ、まさか」


 さくらことに、プティはほほんだ。──そういうことか!


 考えてみれば、こっちのかいに来てさいしょにティーアに見つかるっていうのも、すごいかくりつだ。自分のところにれてこさせるつもりで、わざとそうなるようにしたんだとしたら、なっとくできる。


 なにが、わたくしにも力がそなわってるのかもしれない、だ! こいつ……!


「知ってたな?」


 にらみつけると、ハゼはあわてて手をった。


「少し前に聞いただけだよ! だからしんぱいしないでしいって。……でも、そっか、帰っちゃうんだね」


 ハゼが、へらっとわらった。むりやりわらったみたいだ。目がもう赤い。こいつ、男のくせに、むしなんだよな。


きみたちに会えてよかった。ずっと、わすれないよ」


「な、かないでよハゼ! なんでくの?」


 そういってるさくらも、きそうになってる。


 ぐいと、手を引かれた。オレとさくらられて、二人いっぺんに、ティーアにきしめられていた。


「また、いつでも来い」


 一言だ。


 なんだかその一言に、へんむねあつくなる。


「……うん」


 もう来ないとわかってるけど、でもティーアだってきっとわかってる。


 それでも、オレとさくらはうなずいた。


「ティーアのシチューも、ハゼのパンも、おいしかったよ。プティとお話しするの、すごくすごく楽しかった。わたし、さいしょは……」


 さくらの声がなみだごえになる。かんべんしてくれ。


 オレにまでうつりそうだ。


「わたし、さいしょはね、すごくこわくてあんだったけど……でも、来て、かったあ」


 とうとう声をあげてした。たのむから、かないでしいのに。


「ほら、お兄ちゃんも!」


 きながらなかされる。なにをいえってんだ……


 見ると、そこにいるぜんいんが目を赤くして、こっちを見てた。オレは、ちょっとだけ上をいた。


 下をいたら、オレの目からもなんかこぼれそうだ。


「……うん、楽しかった、と思う」


 そんなことしかいえなかった。でもたぶん、これでいい。


 プティは、ベッドからりると、ドレスのすそを直すようにしてすじばした。まるで鳥が羽を広げるみたいに、りょうばす。


 いつのまにか、オレとさくらのからだが、いていた。さくらがあわてて手をのばしてきて、オレはそれをつかむ。


 ハゼとプティと、ティーアが、どんどん下になる。オレとさくらは、かべてんじょうもおかまいなしに、どんどん上へ上へといていく。


「ありがとう、さいこうの友人たち──!」


 プティの声が遠くに聞こえて、下から一気に風がいた。ものすごいいきおいで、げられる。


「お、お兄ちゃん!」


「すげえ……!」


 下に広がっているのは、ハゼたちのかい


 たくさんの木々、川、みずうみ、家、しろ──数え切れないたくさんのものが、たくさんのひとが生きてるしょうが、どんどん小さくなっていく。


「きれい!」


 さくらさけんだ。


 きれいだった。


 かべこうがわで、めんで見たかいよりもずっと。


 このかいは、こんなにも、きれいだ。


「あっ」


 さくらの声で、オレは上を見た。


 細長い丸が、口をけてっている。


 手をばし、オレたちはそのなかにまれていく──





   ***




「……ぶ? だいじょうぶ?」


 オレは、目をけた。


 なにがこったのかわからない。頭が、ぼんやりとする。


 白いジャージをた女の人が、オレの顔をのぞきんでいる。


ころんじゃったのかな? へい?」


 オレは、うつぶせにたおれていた。あわててからだをこす。


 よこころがっていたさくらが、きみたいにからだをばす。目をこすって、それからきょろきょろとまわりを見た。


「……あれ?」


 きょとん、してる。それはそうだ、オレだってなにがなんだかわからない。


 ぼんやりとした頭をむりやりこすように、思い切りよこった。それから、自分の目に見えているものを、しっかりとにんしきする。


 すぐとなりには、ベンチ。


 そのはんたいがわには、テニスコート。


 テニスコートのなかに、白いジャージの女の人たち。オレに声をかけてくれた人も、そのなかにもどっていく。


 公園だ。


 ふくもカバンも、そのままだ。


「お姉さん!」


 さくらいきおいよく立ち上がり、テニスコートにかってびかけた。


「今日って、何日ですか?」


「えっとー……七日かな?」


 七日──。


 オレも立ち上がって、声をげる。


「何年何月の七日っ?」


 女の人はふしぎそうな顔をしたけど、ちゃんと答えてくれた。


「二〇××年、五月七日よ。どうかしたの?」


 オレとさくらは、顔を見合わせた。


 りょうにぎり合って、にんまりわらう。


「帰ってきた!」


「帰ってきた──!」


 人目なんか気にせずに、力いっぱいさけんだ。なんもジャンプして、二人してぐるぐるまわる。


 帰ってきたんだ、しかも、さいこうの形で!


「ねえ、すぐにうちに帰ろう!」 


 な顔をして、さくらがそうていあんしてくる。おう、とうなずきかけて──


 ──ちょっと、考えた。


「どうしたの? 帰ろうよ」


「いや、まだ帰らない」


 オレはいった。強いめて。さくらが、まんそうな声をあげる。


「なんで、じゃあ、どこ行くの! やだよう、帰ろう!」


 オレは、さくらをにらむようにして見た。


 こいつ、わすれてるんだろうか。あれだけうるさかったのに。


「ばっか、今日はじゅくだろ。走れば間に合う。行くぞ!」


「ええーっ?」


 めいをあげるさくらの手をつかんで、オレは走りした。


 遠いこうの空が赤い。これは、オレたちの空だ。


 立ち止まっているわけにはいかない。


 オレにだって、ここで、できることがあるはずなんだから。
















【おわりに】 たんとう さくら




 これで、わたしたちのろくはおしまいです。


 さいしょはわたしが書いたんだから、さいはお兄ちゃんが書いてよっていったんだけど、どうしてもやだってことわられちゃった。三回もたのんだのに。


 これを読んでいるのが、らいのわたしか、お兄ちゃんか、それともぜんぜん知らないだれかか──それはわからないけど、ええと、ひとつだけ、メッセージ。


 どうか、わすれないでね。


 あなたがおぼえていてくれたなら、きっとわたしたちのおくだって、色あせないと思うから。



 ああ、なんだか、もったいないな。


 これでわっちゃうのかな。


 もしも、これを読んでいるだれかが、プティやハゼや、ティーアに会うことがあったら、わたしたちのことつたえてね。


 とっても楽しかったよ。


 ずっとわすれないよ。


 だいきだよって。

 



 さいに……


 読んでくれて、どうもありがとう。


 またね!



















読んでいただき、ありがとうございました。


こどもが主役ということで、私の中ではだいぶ異色ですが、楽しんで執筆しました。

よろしければ、ご意見ご感想等、いただけると幸いです。



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