秘密基地を作ろう
ますますゲスに磨きがかかる主人公です。
部屋の中には会議のための折り畳み式の椅子と机、ホワイトボードが設置されている。集中するためにお菓子は禁止、各自にはペットボトルのお茶が配布される。本格的な会議の装いである。
「秘密基地を作るぞ!」
「「おぉ~~」」
俺の掛け声に朱理と瑞樹は勇ましく応じる。
オンラインゲームに嵌ること数ヶ月、倦怠期が訪れ、引き籠る程には遊ばなくなった。そして、朱理、瑞樹からは色々な場所へ出掛けたいとの要望が出ている。
ここで問題になったのは二人は戸籍を持っていないこと。国内だけでも警察官に職務質問されただけで面倒なことになる。身分証を一切持たず、住所が宇宙船とは言えずでは不法入国者の扱いになってしまう。
俺には戸籍があるものの、グレイ共に拉致されてから数ヶ月、家も職場もほったらかしで引き籠ってしまった。会社は解雇、アパートも帰れる状態ではない。
戸籍が無ければパスポートも取れない。宇宙船を使えば密入国は簡単だが、トラブルに巻き込まれた時のことを考えると不便なこと極まりない。
「必要なものを挙げていくぞ」
・戸籍 (必須)
・パスポート
・運転免許証
・住所
・職業
・家
・宇宙船の物資補給場所
・宅配便等の受取所
・南国の無人島
・図書室
「南国の無人島?」
瑞樹が胸を張って挙手をする。ここでぺったんとか貧相などの表現は禁忌、粛清の対象となるので用いてはならない。
「ボク、無人島でサバイバルごっこやりたい!」
「私もプライベートビーチで遊んでみたいわね」
さりげなくフォローを入れるあたりは朱理の才女ぶりを発揮と言ったところか。無人島でサバイバルごっこは魅力的ではある。だが・・・。
「瑞樹君、良い意見だとは思うが、現在は生活の基盤を作るための会議だ」
「え~~~」
しょんぼりする瑞樹。
「次のプロジェクトはそれだな」
次の項目の図書室、これは間違いなく朱理だ。無言で朱理に白い眼を向ける。瑞樹も大体、同じ意見らしい。
「本を置くスペースがもっと欲しいわね」
趣味が入った途端にぽんこつ化する残念才女の朱理に向かって溜息をひとつ。
「朱理君。図書室は設置しよう」
うんうんと頷きながら笑顔を見せる朱理。
「ただし」
「ただし?」
可愛く小首を傾げる。若干、いらっとした。
「宇宙船の自分の個室に収まらない本は全部、可及的速やかに移すことっ!」
びしっと指を突き付けて通達する。瑞樹も深く頷いている。
何万冊だか知らんが自分の個室以外を二部屋も本で埋め尽くしおって。それから理不尽な要求をされたかの様な顔はやめなさい。
☆%&$★
話が逸れた。
俺も行方不明になっているので、新しく戸籍を作ることにした。三人とも故人となった身寄りのいない人に引き取られた養子である。多少の無理な設定も暗い過去を持っている風を装えばそれ以上の詮索はされないだろう。
宇都宮隼人(25歳)
宇都宮朱理(23歳)
宇都宮瑞樹(20歳)
某所から融資して頂いた資産の一部は故人から相続したことにして、公で使える資産にする。相続した遺産で会社を立ち上げ、都内の隅にある物件を買い取って、本社兼住居とする。大きなガレージ付の五階建てのビルである。庭もそこそこ広いので見苦しくならない程度には手を入れなければならないだろう。
最上階が社長室、応接室、会議室など、一階を事務所として物資の受け入れを行う。勿論、ガレージは普段は成層圏で待機させている宇宙船が出入りする際の発着場として使用する。
二階が資材倉庫、三階はクローン社員の居住スペース、四階は朱理の書庫である。余りにも膨大となった本の内、宇宙船に入れて良いのは個室に収まるまでと定めた。これでも収まらない様であれば、本を処分する様に言い渡してある。
会社の受付や社内、宇宙船内の清掃、庭木の手入れなど、雑務をこなすためのクローン社員として、鈴木さんシリーズ、佐藤さんシリーズ、田中さんシリーズ、それぞれ男女の計六種類を作った。万が一、捜査が入った時のことを考えてクローンにも戸籍を与えておく。住み込みなので、住所は会社と同じである。これでトイレ掃除などの雑役から解放された。
給料?クローンに支払われた給料はそのまま俺のお小遣いだよ?
邪悪なことを考えている俺に朱理から注意が入る。
「隼人はクローンの女性社員に手を出しちゃ駄目よ?」
彼女を増やさないって約束だからね。
「隼人はクローンの女性社員に手を出しちゃ駄目よ?」
なんで二回言うかな?なんで二回言うかな?
「そこまで言うなら、隼人の上半身だけは信用してあげる」
「・・・・・」
かなり反省したつもりだったが、信用がないらしい。
☆%&$★
朱理と瑞樹も社員になったので、可愛い制服を用意しよう。大きいリボンタイの事務服が良いな。
細かいところは二人に選んで貰うことにする。
会社を立ち上げたが、事業を決めていない。代表取締役社長の俺は部屋に籠ってるだけで儲かるシステムを作らなければならない。仕事は文句を言わないクローンに押し付けて楽をしたいところだが、クローンを増やすとメンテナンスの手間が増えるので限界がある。
才女の朱理に資産運用をお願いするか・・・。
会社の経営について思索に耽っているところに電話の呼び出しベルが鳴る。
☆%&$★
問題が発生した。
「お兄ぃ、助けて」
お遣いに行かせた瑞樹からの電話だ。
助けて?瑞樹を物理的にどうにかできる存在はないと思うが?
「どこだ?」
「隣の敷地の事務所っぽい建物の中。お兄ぃ、早く来てぇ」
俺と朱理が現地に急行すると、隣の敷地にコンクリート剥き出しのごつい建物があった。駐車スペースにはピカピカのベンツが停まっている。
嫌な予感がする。
気まずそうな顔の瑞樹が扉を開けて手招きをしている。
物凄く、嫌な予感がする。
建物の中は台風が通過したかの如く荒れていた。辺りは血塗れで、数人の男が倒れており、関節が変な方向に曲がっている奴もいる。スチール製の事務机も真ん中が大きくへこんだ状態で折れている。
心肺停止状態も脳が損傷しているかもしれないが蘇生はできる。記憶も適当にいじれば誤魔化せる。相手はやくざだからその辺はどうでも良い。血塗れの床も掃除をすれば痕跡を消すことも出来る。怪獣に壊されたかと思わせる事務机も宇宙船に回収すれば隠すこともできる。
許してやるのはここまでだ。
床にできたクレーターは酷い。これはどうやれば消せる?
「なんでこうなった?」
壁ドンで瑞樹を追い詰めながら問い詰める。冷汗を流しながら愛想笑いを浮かべる瑞樹。
可愛くしても許さん。お仕置きは覚悟しておけ。
最初は組の若いもんにナンパされたらしい。断る内に口論となり、事務所に連れて行かれて、揉み合いの際にこうなった・・・と。
お得な物件と思ったら隣がやくざなんて酷い事故物件だ。不動産屋も後で締める。
それより、現状をどうにかしなくてはならない。我々の存在は絶対の機密である。
ココニハ誰モイナカッタ。
これしかない。
一般的なやくざの事務所の構造を知る訳ではないが、その特殊な用途によるものか、敷地の塀が高く作られており、周囲から見えない構造になっていた。今回に限って言えば、証拠隠滅のためには適した環境と言えよう。
大した広さを持たないやくざの事務所の裏庭に宇宙船を強引に寄せる。まともな方法では入らないので、超低空飛行、尚且つ、縦に硬貨を転がす感じで操作する。
宇宙船の放つ青白い光線によって、窓枠ごと吸い上げて荷物の搬出口を作る。建物は壊れるが、そんなことを気にしている場合ではない。
最初は処理に手間のかかる人間から運び出す。部屋の中央に引き摺っては青白い光線で引き上げる。水槽に放り込んで修理、記憶の消去は朱理の仕事だ。
「何で彼氏以外の男の服を脱がさなきゃいけないのよっ!」
「「・・・・・・・」」
宇宙船の中でマジ切れした朱理の罵声が響き渡る。
培養液に漬ける前にはどうしても人の手が必要なんです。朱理さん、気持ちは分かるけど作業中は静かにお願いしますね?
インカム越しに聞こえる朱理の叫びに対して、瑞樹は蒼ざめた顔で喋らず片付けをしている。俺も掛ける言葉が見つからないので、黙々と作業を続ける。破壊された机、椅子、テーブル、ソファ、冷蔵庫、寝具、金庫など・・・・持ち出せるものは全部、中身を検分する余裕はない。細かいことを考えずに全ての物を運び出して行く。
「朱理、手が足りない。動かせるクローンは全部こっちに寄越してくれ」
「了解。出来るだけ送る」
室内には大量の血痕が付着しているので、全て壁材、床材を剥ぎ取る。クローンの持つ馬鹿力である。
いっそ建物ごと消去したい所だが、近隣の住民には怪しまれないためには仕方がない。
床のクレーターだが、無理をすればミステリーサークルに見えないことも・・・・無理だな。
ひび割れたコンクリートは、対象を音も無く分解消去する兵器によって、その存在を抹消する。宇宙人のスーパーテクノロジーによって生み出された戦略級の兵器が物凄く地味な工具として使われている。後は超速乾性のコンクリートを流し込んで出来上がりだ。匠の仕事は期待しないで欲しい。
床や天井裏なども徹底的に捜索する。監視カメラや盗聴器など、電子機器が存在しないか徹底な捜索を行う。回収した物は後で分別して処理だ。金目の物は何に対する慰謝料かは分からないが貰っておこう。
治療したやくざだが、折角なので、まともな社会人として更生させてやる。
組長、若頭などの幹部は頭の中にトイレの神様が降臨して、その生涯を公共のトイレ掃除に捧げて社会奉仕だ。愛人の女もいたが、豹柄のケバイ女はストライクゾーンから大きく外れている。ケモミミを付けて見たが、デッドボール並の危険球であり絶望的なものだった。女性用トイレの掃除婦で良いや。
若いもんは心を入れ替えて汗水流して働く喜びに目覚めて貰う。刺青を消してまともな恰好をさせれば社会復帰も可能であろう。尼園の宅配とか人手が足りていないみたいだから、就職先はそこら辺だな。
翌日の早朝には、全ての家財道具の運び出し、内装の撤去が完了した。建物の躯体のみ、所謂スケルトンである。外のベンツは心を入れ替えた組長さんが売り飛ばしたので何も残っていない。
昼過ぎに隣から罵声が聞こえたが、素知らぬ顔である。近隣の皆様も興味はあるものの、誰も顔を突っ込むことはない。何が起こったか見当が付くはずもないし、やくざが警察に行くこともあるまい。
隣の敷地がやくざと言わずにビルを売り渡した不動産屋であったが、問い詰めたら企業舎弟だとか開き直り始めた。更生が必要と判断されたので、ヘドリアングリーンの海 (培養液)にぶち込み再教育をすることにした。訳ありの不動産、古物も取り扱っているようなので何かの役に立ちそうだ。
☆%&$★
騒動の終了後、現地における反社会的勢力との偶発的な衝突事故発生の証拠隠滅騒動について宇宙船最高裁判所第一小法廷―――家族に重度の迷惑をかけた場合にお仕置きが決定される機関である―――において宇都宮瑞樹被告の裁判が開かれる。
コの字型に組まれた会議用の折り畳み机の正面には裁判長の朱理、検察官の席には俺が着席、真ん中の被告人の位置には当然、瑞樹が立たされている。我が家は三人だけなので、弁護人も三審制も存在しない。
タンッ
気分を盛り上げる為に朱里がガベル (木槌)を振るう。
「今回の現地における反社会的勢力との衝突事故発生の証拠隠滅騒動について裁判を執り行います」
被告人の瑞樹は震えている。
「検察官、起訴状を」
俺は裁判長の指示に従い起訴状を読み上げる。
「被告人である宇都宮瑞樹は昨日の午後五時頃、物資補給任務中に我々の敷地に隣接する建物に居住していた日本国内における反社会的勢力の構成員に声を掛けられたことをきっかけにトラブルとなり、構成員の居住する建物内において乱闘、組長、若頭を含む計八名を蹂躙、多数の器物を損壊させました。トラブルの相手となった組織の構成員はおよそ八百名、即時、連絡を受けた上司の宇都宮隼人はトラブルの拡大を防ぐ為に宇都宮朱理と共に該当者の治療、記憶消去など、痕跡を隠す為に徹夜で十時間以上にも及ぶ作業に追われることになりました」
「被告人、起訴状に間違いはありませんか?」
瑞樹は完全にガクブル状態だ。
「・・・・・・正当防衛を主張します」
ダンッ!!
「被告人は質問に対して明確に答えるように」
朱理から放たれた言葉により、絶対零度の領域が発生する。瑞樹はかっちんこっちんに凍りつく。
「認めます・・・」
「被告人の持つ身体能力なら逃げることが可能であり、面倒がなかったと推測されますが?」
「ごめんなさい。やり過ぎました・・・」
そろそろ止めるか。
「裁判長、被告人への求刑は回収した家財道具の分別作業の労役に就かせるのが適当と判断します」
「それを一人でやるのは当然として」
怒りは収まっていないのか。
「加えて、三ヶ月間、隼人とのデートの回数半分」
「え~~~~~」
瑞樹が泣いている。
(お兄ぃ、助けて)
(瑞樹、無理だ。我慢しろ)
(何でもするから、そこをなんとか)
何でも?何でもって言ったね?
「裁判長、求刑よりも量刑が重くなっているのは如何なものかと思われますが?」
ガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッ
「「ひぃっ」」
朱里が机が壊れるかと思われるほどガベル (木槌)を連打した。
「隼人は甘いっ!!」
やばい。本気で怒ってる。
俺まで悲鳴を上げてしまった。欲に溺れて受けてしまった仕事であるが、後悔しても手遅れである。必死に怒れる朱理様に諫言する。
「被告人は深く反省しております。一か月くらいで許してあげてはどうでしょう?」
一蓮托生になってしまった。
検察官だったはずだが、瑞樹と並んで膝をつく。両手を組んで赦しを請うポーズだ。
俺も一緒に裁かれる、いや捌かれるかもしれん。死ぬときは一緒だぞ。
「・・・隼人に免じて一か月で許してあげる」
「「ありがとうございます」」
俺と瑞樹は抱き合って号泣した。
怖かった。
☆%&$★
社長室でひといきつく。トラブルはあったものの、少しずつ片付いてきた。
防音性能抜群の静かな室内には、ふかふかの絨毯に重量感のある机と立派な肘掛付の椅子、来客用にはクッション性の良い大きめのソファを用意されている。
『社内恋愛自由』
我が社の方針である。
精神論は掲げない。
「隼人、私はここじゃ嫌だからね」
朱理がジト目で睨んでくるが、防音性能抜群の静かな室内、クッション性の良い大きめのソファ、可愛い制服など必要なものは全て揃っている。
何が問題だ?アメニティグッズか?それなら手洗いの上にある戸棚だ。
「無駄に行き届いているわね」
朱理がごみを見る目で睥睨してくるが、ご褒美には感じられない。
解せぬ。
「瑞樹~~」
瑞樹にも目を向けてみたが、呆れた表情で返された。
この程度で挫けてはいけない。野望達成の為には手段を選んではならない。
瑞樹の両肩をしっかり掴んでお願いする。
(瑞樹、分かってるよな?)
(な、何が?!)
(分かってるよな?!)
さっきは瑞樹と仲良く三枚卸に裁かれるところだったのだ。
拒否?そんなことするはずないよね?
「・・・・・・お、お兄ぃは仕方ないなぁ」
瑞樹の目が泳いでいる。尋常ではない程の汗も吹き出ている。
勿論、気のせいだ。
瑞樹からは快諾を得られたので、朱理に目を向けるも、ジト目のままである。
「瑞樹は嫌そうに見えるけど?」
「そんなことないって。瑞樹は楽しそうにしているぞ?」
瑞樹に笑顔を向けると、楽しそうに辺りを飛び跳ね始めた。
「わ~い。お兄ぃと社内恋愛だぁ。ボクとっても嬉しいなぁ~~~」
可愛い奴だ。
「見ての通りだ」
「明らかに無理強いだし。私はお断りよ」
「お兄ぃばんざ~~い」
瑞樹の喜びのベクトルがあらぬ方向に疾走を始めた。
「それなら二人だけで社内恋愛を楽しむからいいさ」
瑞樹の気持ちを矯正しつつ、肩を抱き寄せる。
「ふんっ、勝手にすれば良いじゃない」
端々に妬いているのが透けて見える。
それでもツンを通すつもりか。
俺のターン!魔法のカード発動で朱理を攻撃!
「最後に・・・・一つだけ質問があるけど良いかな?」
「何?」
胡乱な目で返してくる。
「確か朱理が手に入れることが出来なくて悔しがっていた同人誌・・・『じょじょ~~んの慎重な冒険』だっけ?」
「それが?」
あっさり喰いついてくる辺りがちょろいね。
「手に入ったけどどうしようかとね」
「ちょっ、何でこんな時にその話なのよ?」
もっともな意見だ。
「こんな時と言われてもね。今、思い出しただけだよ」
「ふ、ふ~~ん」
ちょろいな。
(お兄ぃ、ボクの方が先だったはずだけど?)
(今は朱理のご機嫌をとる方が優先だろ?)
(それはそうだけどさぁ)
お詫びに瑞樹の額に軽く口づけをする。
(朱理、分かってるよな?)
(な、何が?!)
(分かってるよな?!)
朱理の肩を掴んで抱き寄せる。用意したブツをちらつかせるのがポイントだ。
(シュレッダーに入れちゃおうかな~~)
「・・・・・・は、隼人は仕方ないわね・・・」
ちょろちょろしく納得してくれた。考える暇を与えずに行動に出ることにする。
「朱理、少し休憩するか?」
「えっ?ちょっ?!ちょっ~~~~~?!」
強引に抱き寄せてソファに連行する。物わかりの良い瑞樹は既に部屋の外だ。
日本のちょろ属性って、良いなぁ。
☆%&$★
「本を読むときはちゃんと服着ろよ~~」
「ん~~」
本に夢中の朱理は生返事だ。あらかじめ用意されたタオルケットを背中からかけてやる。
「風邪ひくなよ」
「ん~~」
朱理は手に入れた同人誌『じょじょ~~んの慎重な冒険』を早速、読んでいる。題名の時点で残念な気がするのだが、マニアの考えることは良く分からん。
そもそも、コミケの行列に並んで買うなど下策。作者ごと攫って、友好的に分けて貰えれば良いのだ。コミケがスタートする前から既に勝負は決しているのだ。
『始まった時点で勝敗の決していない勝負は戦術的には敗北である』
今、良いこと言ったよね?
勿論、朱理に入手経路は教えないよ?
☆%&$★
船内の荷下ろし場に行くと、瑞樹が真面目に回収した物の分別作業をしている。
「瑞樹、来てやったぞ」
「終わらないよぉ」
ぐったりした瑞樹の頭を撫でてから、分別作業を手伝い始める。便器、壊れた扉、庭石・・・・証拠隠滅のためとは言え、こんなものまでと言った感じの物が無数に転がっている。
「売れそうな物は倉庫に移しておくぞ」
金庫の中にあった現金、貴金属、ゴルフクラブなど、ほとぼりが冷めた頃に処理をすれば良い。それ以外のゴミは大気圏で燃え尽きる程度の大きさに切っていく。
「お兄ぃ、さっきはごめんなさい」
「もういいよ。朱理もそろそろ頭が冷えてるだろうし」
「どさくさに紛れて欲望を満たす所はお兄ぃらしいけど。朱理ちゃんにもきちんと謝っておく」
「それが良い」
白い粉、拳銃・・・いらない物ばかりだ。大気圏に向けてぽいぽい捨てていく。
今日は流れ星の多い日になった。
☆%&$★
あれから、やくざは組織の立て直しを図るために次々と人員を送り込んできた。それを片端からトイレの神様の信者にしてやったら、やがては来なくなり、家は売りに出されることになった。
ほとぼりが冷めたら格安で買い取ろう。
ご感想お待ちしております。