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引き籠り中

宜しくお願いします。

 乾燥した風が残された水分を最後の一滴まで運び去ってゆく。命の源とも言える水を奪われた大地は岩と砂のみを残した砂漠となり、空からは灼熱の太陽が生命の存在を拒むかのように照り付ける。そんな砂漠の真っただ中で、無数に蠢くサンドワームの群が一組のパーティーを呑み込まんとしている。


 彼らは熟練の冒険者であった。それ故、サンドワームの思惑は見事に外れ、蹂躙される側となっている。剣と巨大な盾を携え、全身を金属鎧で固めた重装備の戦士が重さを感じていないかと思わせる様な速さで魔物の大群に切り込んでゆく。剣で切り裂かれる魔物がいる。その質量を利用した体当たりで吹き飛ばされる魔物もいる。憎しみを募らせる魔物共に挑発を繰り返し、引きずりまわすのが『盾』の役割だ。


 怒りに駆られ、不用意に密集した魔物の群は『魔』の放った火球の爆発により火だるまとなる。肉を焦がす臭いを撒き散らしながら倒れる魔物、より強い憎しみを抱いて襲いかかる魔物。『盾』はその全ての攻撃を受け止める。鎧の隙間から血飛沫が散り、骨の砕ける音が聞こえても怯むことは無い。


 『盾』の体が淡い光に包まれると、瞬く間に傷が再生する。『回復』からの治癒の支援。それと同時に生き残った魔物達は両側面に現れた『剣』と『槍』にその身を切り刻まれ、或いは穿たれて止めを刺される。


 パーティーの脇腹を突く形で接近してきた少数の魔物は『弓』からの遠距離攻撃の的、針鼠にされたて肉薄する頃には待ち構えていた『剣』と『槍』に瞬殺される。





 ☆%&$★





 「右回り」


 黒髪ポニーテールの少女が指示を出す。


 「「承知」」


 俺と茶髪のショートボブの少女が独特の返事をする。

 マップの左側の壁沿いにモンスターの群を掃討するという意味だ。パーティーは隊列を乱すことなく、盾役の戦士を先頭に進んでゆく。隊列の前方では激しい戦闘が繰り広げられている。後方からもモンスターが数匹近づいてくる。


 「後、雑魚」


 俺は二人に注意を促す。


 「剣、槍、行く」


 茶髪のショートボブが返事をする。

 俺も『回復』をパーティーの中央付近に退避させつつ、『弓』で別働隊の迎撃を行う。

 別働隊は六体、『弓』の連撃を受けて脆くなったところに『剣』と『槍』が止めを刺す。魔物本隊には防御は『盾』、攻撃は『魔』があたり、それを『回復』が後方から支援する。



 パーティーは六人だが、それを操作しているのは三人、一人当たり二体のキャラを動かしていることになる。常人を遥かに超える脳の処理能力を持つ俺達ならではの遊び方だ。


 剣と槍を操っている茶色の髪をふんわりショートボブにした小柄な少女が瑞樹、可愛いうさ耳のパーカーとハーフパンツでボーイッシュにきめている。盾と魔を操っているのが、赤を基調としたワンピースに身を包んだ黒髪のポニーテール、クールビューティー系美少女の朱理である。


 彼女として瑞樹と朱理を創り出した後、概ね三か月間、三人揃ってオンラインゲームに嵌っている。ゲームをしていないときは週に一度のメンテナンスの時だけだ。

 宇宙船の中は快適で衣食住が保障されている。当面の仕事はなく、ゲームで課金がしたい放題となれば、健全な若者達が引き籠もる為の土壌が出来上がっていると言えよう。

 

 ちなみに彼女をもっと増やしても良いと思われる方もいるかもしれないが、瑞樹、朱理の二人を創り出し、三人目に優しく包み込んでくれる豊かなプロポーションのお姉さんの創作に取り掛かろうとしたところでしばかれた。





 ☆%&$★





 「ボクと朱理ちゃんがいるのにまだ不満なんだ。ふ~~ん」


 「性欲が強すぎるなら手術が必要かしら」


 朱理さん手術とはナンデスカ!?しかも道具は手刀デスカ!?


 気付けば背後は壁、目の前には何かを握る練習をする朱理さんが壁ドン、斜め後方からはジト目で睨む瑞樹さんが待機しており、逃げ場はない。


 これ以上は増やさないと誓約させられた後、瑞樹曰く、


 「お兄ぃは気が多いから一人は見逃してあげたけど。これ以上は手を繋ぐときに誰かがあぶれる。だから駄目」


 返す言葉もなかった。創造した彼女にしばかれるとは。うっかり死なせた人の子がモンスタークレーマーになって、その賠償請求に苦悩する神様の物語を思い出す。


 「モンスタークレーマーって僕のこと?」


 違います。違います。違います。


 「ふ~~~~~~ん」


 瑞樹は非常に聡い。心を読まれているかの如くだ。かくして俺の彼女は二人に確定した。


 嫉妬しない彼女と言うのもつまらないしね。





 ☆%&$★





 新マップが解放されたばかり、処女雪の上を歩いて自身の足跡を刻むときの快感に似たものを感じつつ、前人未踏の地を踏破して行く。


 何事も初めてと言うものは非常に良い。


 (瑞樹、あれが独占欲に支配された男、比較されることを恐れる男の顔よ)


 (彼女二人も作っておいて勝手だよね)


 朱理も非常に聡い。


 しかもあいつら聞こえる様に内緒話してやがる。何で考えてることが分かるんだよ。


 ((顔に出てる))


 多勢に無勢で言い争っても勝ち目はないので戦略的撤退、黙ることにする。



 俺が言いたいのは今日は新マップの解放でオンラインゲームの参加者が多く、重いということである。

 先程から動画が不連続的な状態が続いている。俺は勝手にスタンドの攻撃と呼んでいるが、所謂ラグである。ラグは一瞬とは言えフリーズするので、その間に攻撃を受けてキャラが死亡するので要注意なのだ。


 「「「あ」」」


 朱理の操る魔がボスの攻撃を受けて死亡した。

 運が悪いとしか言い様がない。盾がボスのノックバックを受けて吹っ飛んだ瞬間にフリーズ、次にヘイトの高い魔にボスが突進、コントロールを受け付けてくれない間に連続攻撃を浴びせたのだから堪らない。

 定石では盾が吹っ飛ばされた際には剣か槍が前に出て一時的に盾の代理を務める。ポーションを飲みつつ、後衛からの集中ヒールで持ちこたえるところだが、最悪のタイミングにおけるラグであった。


 やばい。丹精込めて育てたキャラが死亡して、朱理が涙目になっている。


 (お兄ぃ)


 (分かってる)


 瑞樹からこっそり注意喚起がなされる。今の朱理は機嫌が最悪であり、全身が逆鱗で覆われていると言っても過言ではない。物理的にも朱理から少しずつ距離をとる。


 「隼人、瑞樹」


 「「ひゃいっ」」


 地の底から響く、朱理のどすのきいた声に俺と瑞樹は怯える。


 「弓と槍を貸して」


 「「承知」」


 昨日、夕飯を食べに行った飲み屋の掛け声が我が家のブームとなっている。今、二人の心は完全に一つで綺麗にハモる。


 朱理が怖い。


 朱理が既に操っている盾と魔を含め、俺の弓と瑞樹の槍、四キャラを同時に使うつもりらしい。無茶とは思うが怖いので二人とも突っ込まない。相変わらずサーバーは重いまま、ラグは続いている。ラグも織り込み済みで動くつもりなのであろうか。


 「時は私が止める」


 どこかで聞いたようなセリフを吐きつつ、朱理は四キャラを見事なまでに操る。さすがに情報処理特化型と言いたいところだが、使う場所を間違っている。


 少し前から朱理が漫画を夢中になって読んでいるとは思っていたが。


 スレンダーな身体にクールビューティー、多言語―――現在では殆ど使用されていないラテン語なども含む―――に精通し、諸外国の宗教、文化、歴史、法律など幅広い知識も持つ。司法試験もトップで合格するレベル、国際弁護士を名乗れるほどの才女が今は見る影もない。


 厨二病も大人になってから罹ると、重症化し易くて大変危険だ。


 朱理の操る四キャラの攻撃は地味な攻撃が多い。

 これはたぶんあれだ。盾と槍のヘイトを調整してボスキャラに無駄な動きを強いている。更にキャラの動きからアルゴリズムを読み解いて、サーバーに負荷がかかるエフェクトを大量に発生させる。遅くなった回線速度に合わせてサーバーの処理速度を落としているのだ。

 こちらのラグも酷くなっているが、ボスキャラの動きはそれを上回るほど、異常に遅くなっている。確かに時を止めるという比喩を体現していると言われればそうだが。綺麗なグラフィックを前に、彼女の瞳には十六進数の文字しか映っていないだろう。


 (朱理って、時々大人気ないよな)


 (ボクもそう思う)


 ボスと戦っているのか、サーバーと戦っているのか良く分からないが、頭に血が上った朱理にそれを口にして怒りを買うのは下策である。

 俺は回復だけ、瑞樹は剣で雑魚掃除だけと非常に楽になっている。横目だけで画面を見て片手でコントローラーだけでも十分に対応できる。瑞樹の方を見るとやはり引き気味、このペースだと朱理がボスを倒すのに所要時間二十分と言ったところか。



 (瑞樹こっち)


 瑞樹をこっそり手招きで呼び寄せ、お互い正面を向いた状態で膝の上に座らせる。膝にすっぽり収まった瑞樹は可愛いうさ耳のコアラだ。一人だけで熱くなっている朱理を余所に二人でお菓子を食べさせ合う。

 普段はこんなイチャラブをやれば即刻、取り締まりの対象となるところだが、我が家の風紀委員はゲームに夢中で不在である。


 可愛い生物こと瑞樹は身体能力の特化型だ。優れた五感と動体視力、反射神経、並外れた身体能力で潜入捜査、護衛任務を担当する。瑞樹の身体能力がどれだけ凄いかと言うと、毎秒百発放近く放たれるマシンガンの弾を躱し、逸らし、弾丸切りまでできてしまうレベルだ。

 一度だけ、瑞樹がどうしてもと言うので拝借してきたガトリングガンで距離二十メートル程の所で実践テストを行った結果、本当に出来た。


 どうやって借りてきたかって?

 紛争地域の軍事施設に設置されていたものを上から宇宙船の放つ光線でウィーンって感じだ。



 ゲームに夢中の朱理は未だに気付いていない。

 イチャラブをエスカレートさせた俺達は、更に過激にポッキーゲームまで始めてしまう。


 (ん・・・お兄ぃ、これアウトじゃない?)


 (どちらもギブアップしていないからゲームは続行だ)


 俺と瑞樹はポッキーゲームを零距離でギネス記録を更新させた状態で睦み合う。



 ボスを倒してからやっと気が付いた朱理。


 「あんたら何やってんのよ!」


 二人で抱き合い、ポッキーゲームをしながら片手でリモコン操作、半眼で睨んでいるだけである。非常にシュールな光景だと思われるが。


 「朱理ちゃん一人だけでゲームやってるからつまんない」


 こういう時は瑞樹に注意をさせた方が朱理もすぐに頭が冷える。


 「っ!」


 今更になって、己の大人気の無さに気付いた朱理は言葉を失い赤面する。


 「朱理ちゃんはまたペナルティだね」


 追い打ちをかける瑞樹。いつも三人仲良くが我が家のハウスルールだ。


 がっくり膝をつく朱理。


 胸の谷間に注目したいところだが、うさ耳コアラにばれると怖いのでそこそこにしておく。 


 「お兄ぃ、どうする?」


 「ん~~~、一週間ツインテール?」


 「あ、それ良いね。ゴスロリとか凄く似合いそうだからそれも追加で」


 容赦無き裁きの前にひれ伏す朱理であった。

 

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