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1-2 田舎から作れって事ですね……

 純が大樹の根本までたどり着くまでに、おおよそ1時間程度の時間が経過していた。

 思ったよりも時間がかからなかった事に安堵の息を付くが、安心する気持ちと裏腹に純は暗い表情を浮かべている。


 原因は大樹の元への道中、生物と呼べる物と遭遇することが無かったからだ。

 友好的な生物も、危害を与える生物も、食料となる生物もいなかった。


 大樹への方角を確認するために空を見ても鳥は一匹もいない。

 休憩を取った時に土を掘り返してみたが虫も見つからない。

 魚を探そうにも、そもそも水や川が見つからない。


 不自然な程に生き物が存在しなかった。

 ただ、名前も分からない様な木が密集しているだけ。


 これだけ広大な自然が広がる環境下で生き物がいないとなると、もしかしたら生命が存在しない可能性もある。


 せめてRPGに出てくる魔物の様な物が出てくれればここまでの不安を感じなかったかもしれない。食える食えない、倒せる倒せないは別としても将来に多少の希望は持てたかもしれないからだ。


「色々とありえないよな。この木も、この環境も……」


 純は大樹へ向かう道中、ようやくこの世界が異世界であると自覚出来た。

 

 魔物も出ない、チートも無い。

 それでも、前にいた世界とは全く異なる世界である事だけは漠然と理解出来る。というより、そう思わざるを得なかった。


「さて、大樹の根本まで来たけど……。どうするかな」


 大樹の根本で腰を降ろし、純は今後の生活について少し考えた。

 

 食料と水。この2つは必須だろう。必ず確保しなくちゃいけない。

 次に必要なのは雨風を防ぐ寝床。その次に衣類と言ったところだろうか。


「肉は無い、食べられそうな生物が何もいない。植物は木の実を探せばあるかもだけど……」


 密林の中で木の実は一度も見なかった。

 期待はしない方が良い……。最低、木の根に齧り付くくらいの事はしなければならないかもしれない。


「あとは、水の確保か」


 生きる上で水さえあれば数日は命が持つと言う話しを聞いた事がある。


 食料が手に入る確立に比べれば、水を確保できる確率の方が極めて高い。


 川や湖を見つければ解決だし、雨が降れば数日分の雨水を貯める事も出来る。

 植物が生えているのだから雨くらいは降るだろうと、そのくらいの希望は抱きたかった。


「とりあえず川を探すか」


 食料より水の確保を行う方が大事であると思った純は素早い動きで大樹の根本から幹へとよじ登る。

 少しでも高い所から辺りを見渡せば、木以外の何かを見つけられるのではないかと期待したのだ。


 だが、やはり何もない。


 大樹は他の木と比べ物にならない程に大きいので少し幹をよじ登るだけでも見晴らしは良くなるが、結局高い場所から見渡して分かった事は森が無限に広がっている事だけだ。


 さらに上へと登ればより遠くを見渡せるかもしれないが、純の肉眼では捉えきれないだろう。逆に言えば、そのくらい森が深いと言うことにもなる。


 期待した結果が得られなかった事を残念に思いながら純は大樹の幹を降りようと足元に目を向けた。


「え……?」


 大樹を降りようと足元に目を向けた時、偶然にも気がついた。


 自分がいる大樹から少し離れた場所に、巨大な扉の様な物が設置されているのだ。


 純がいる場所からはよく見えないが、恐らくは石造りの扉。つまり、人工的に作られた物と考えて間違い無さそうだった。


 なんであんな場所に扉が? と疑問に思いつつ、見えた扉がある場所に向かう事にする。

 扉があると言う事は人間がいるかもしれない。何も生物がいない世界でサバイバルを行う覚悟をしていた純の期待はかなり高まっていた。



 数分掛けて先程見た扉の場所へ辿り着いた純は改めて扉を眺め、その大きさに絶句してしまう。


「やっぱりデカイな。無駄に装飾も凝ってるし……」


 やはり扉は大きい。10M程度の大きさはあるかもしれない。

 扉の周囲には岩を削って出来た装飾がされており、扉本体にも赤いペンキの様な物で塗色されているようだ。


 純は巨大な扉を見て「ゲームでもこんな扉あったなー」なんて事を考えていた。いわゆる、ダンジョンへの扉と言う奴に似ていたのだ。

 

「ただの扉だよな……?」


 ドラ◯もんのどこでもドアみたいな感じで扉だけがそこにある。

 裏にも特に壁や空間の様な物は見当たらない。

 どこにも繋がっていないので扉を開ければ反対側の景色が見えるだけだろうと思った純は不自然に思いつつ扉に手を掛けてみた。


 石造りの巨大な扉だからなのか、想像以上に重い。それでも全力で押せば軋む様な音を立てながら徐々に扉は開いていく。


 そうして扉を開け、ようやく向こう側の景色が見えるようになった頃。


 純は扉の向こうを見て唖然とした。

 扉の向こうには巨大な空間が見えたからだ。


「どこでもドアか……」


 どうやら、本当に謎の扉はどこでもドア的な物だったらしい。

 いや、どこでも行けるドアではないが、扉の先は別の空間に繋がっている事だけは確かなようだった。


 純は扉の外側から繋がった空間の様子を見る。


 扉の中は幹に囲まれた巨大な空間の様で、そこを見た純は木の空洞の中とよく似ている事に気がついた。

 尤も空洞の大きさは小学校の体育館並みに広かったが、それでもここは木の幹に出来た空洞だと純は思ったのだ。

 子供の頃、木の空洞や根の下に出来た空間に隠れたり遊んでいたりしたからこそ気がつけたのだろう。


「木の空洞は危険な動物の住処になってる事があるから気をつけろって爺ちゃんに良く言われたな」


 そんな事を思い出しながら扉の中を注意深く見渡していたが、特に生物の気配は感じない。空間の奥には階段も見えるが、そこから何か降りてくる気配もない。


 少なくとも、危険は無さそうだった。ただ、不自然な事に巨大な空洞の中央にはポツンと箱が置いてある。

 もちろん、普通の箱ではない。凄く細かい装飾が施された、宝箱の様な箱だ。


「なぜ宝箱?」


 疑問に思いつつも宝箱の中身は気になる。

 開けて下さいね? と言わんばかりに設置されているのだから当然だ。


「罠と言う可能性も考えられるが、それだと初見殺し過ぎて楽しくも何もない」


 既に純の気分はダンジョンを探索する冒険者だった。

 ゲームを攻略する様な感覚で行動しても良いのかと疑問に思わない事も無かったが、深く考えすぎるよりは楽しみながら行動した方が精神的なゆとりを保てそうだとも思った。


 だからこそ、純は今だけでもこの状況を楽しむことにしたのだ。

 

 ともかく、何かしらのイベント事が無ければ何も始まらないと思った純は罠の可能性も一応考慮しつつ宝箱へ近づき開けてみる。


「えっ……」


 宝箱の中身を見た純の口から間の抜けた声が出た。

 と言うのも、最初に目に入った物がジョウロだったからだ。


 ジョウロで何をしろと? と疑問に思いながら宝箱の中へ視線を戻すと今度は桑が目に入る。


「えっ……」


 再び間の抜けた声が漏れた。

 こんな大層な宝箱に入っているのだから剣とか魔法の杖か、少なくとも薬草や清めの水みたいな回復アイテム等、RPG要素のある何かを密かに期待していたのだ。


 なのに入っていたのはジョウロと桑。これから畑でも作れとでも言わんばかりのアイテムに戸惑いを覚えるのも当然の事だろう。


 その後も宝箱の中からは斧とハンマーと鎌。いくつかの種が入っている絹の袋なんて物が出てきた。


「畑を作れと? 田舎に転生したいと希望したから畑を作れと!?」


 お腹の空いている状態で食べ物じゃなく種と農具を渡す宝箱。

 そんな宝箱を見て貯めに貯めこんだ感情が思わず爆発してしまった。


 せめて食料や水が入っていれば落ち着いて状況を整理できたかもしれない。

 けれど、いつ出来上がるか分からない種だけを渡されても困るのだ。


「種とか育てるのに時間がどれだけ掛かると思ってるんだ。むしろ実の状態でくれよ!」


 そんな事を喚き、叫び、ストレスを発散した後。こんな事をしていても現状が改善しない事に案外早く気がついた。


 嫌な現実から目を背けつつ、他に何か入っていないか宝箱の中身を確認してみると今度は二冊の本が目につく。

 

 一冊目の本は「異世界樹の迷宮〈ダンジョン〉」二冊目の本は「異世界へようこそ~初心者でも分かる異世界の暮らし~」と書かれていた。

 どちらもそれなりの分厚さがあるが、タイトルが気になった「異世界へようこそ~初心者でも分かる異世界の暮らし~」と言う本を開いてみた。



『異世界へようこそ!


 突然ですが、貴方は迷宮族として私が神を務める世界へと転生しました。

 迷宮族って言うのは迷宮の管理者の事です! ダンジョンマスターって奴です!


 迷宮族の貴方は迷宮を中心とした町作りを行う事が出来ちゃいます。

 むしろ町を作る事こそが迷宮族の御役目なのです。義務なのです!


 海底神殿型の迷宮なら魚介類の名産地、洞窟型の迷宮なら鉱石の名産地、塔型の迷宮なら魔獣素材の名産地など。担当した迷宮によって様々な特色を持った貴方だけの町を作る事が出来ちゃうのです!


 自分の迷宮についての情報は別冊を参考にして、担当する迷宮ではどんな物が取れるのかを把握しましょう。


 個性豊かな町が出来る事を期待してますね。レッツ、異世界ライフ♪』



 色々と小難しい事や理解不能な単語が多い。あと、説明文のテンションが高くて少しだけイラッと来る。

 ただ、純も本を読んで神様を名乗る人物が言いたい事はなんとなく分かった。


『むしろ田舎から自分で作れ』


 神様はそう言いたいのだと純は思った。


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