subject: あの鉢の名前
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Date: 2015/9/6, Sun 21:23
subject: あの鉢の名前
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真奈美ちゃんへ
この間誕生日にもらった鉢なんだけど、あれ、やっぱり私がもらうべきじゃないと思う。もちろん、すごく嬉しかったし、トゲべくんって名前も付けて可愛がってるんだけど、実はあの苗の本当の名前を偶然に知っちゃって、私から真奈美ちゃんに言って良いものか迷うんだけど、あれにはすごく深い意味がこめられてるんだ。
あれね、プヤ・ライモンディっていって、100年に一度しか花を咲かさなくて、咲いたら最後枯れちゃうっていう特別な品種らしい。だから、100年間ずっと一緒に居たいとか、100年後に花を一緒に見ましょうとか、そんな想いをこめてプレゼントするみたい。
このことを、お兄ちゃんが知らないわけ無いから、たぶん何か思うところがあって真奈美ちゃんにそれを伏せて、その上でプレゼントしてくれたんじゃないかな。それを私がもらってしまうのは、やっぱり良くないと思う。真奈美ちゃんがプレゼントをくれたっていう気持ちだけで、私は十分嬉しかったから、だからあの苗はこれからも真奈美ちゃんが大事に育てて?
それにね、実は、あの苗のお世話を続けられない事情もできて…。
母のこと、前に相談したよね。真奈美ちゃんにあのとき言われたことを色々考えて、母とやり直して見ることにしたの。誕生日の夜に、母と再婚相手の高瀬さんっていう人と食事したんだけど、そこで初めて母と心が通じた気がしたんだ。もちろん、私の気のせいかも知れないし、やっぱり母とは反りが合わないって思うかも知れないけど、真奈美ちゃんが言ったように、生きているうちに、やれるだけの努力をしてみようって。
それで、母と高瀬さんが仕事の都合で11月からボストンに赴任する予定なんだけど、私もそれについて行って、向こうで同居することにしたの。正直すっごく迷ったし、母のこと、今更身勝手だって思うんだけど、でも高瀬さんがすごく母を愛してくれているみたいで、母も優しい顔で笑ったりして、そんなのを見てたら、高瀬さんと母と三人でなら、もしかしたら上手くいくのかもしれないって思って。何年になるか解らないけど、それでも数年くらいの話だから、長い人生80年のうちのたった数年、少しでも望みがあるなら、それに賭けてみてもいいかなって思った。
そういう風に思えるようになったのは、真奈美ちゃんのお陰だと思う。あのとき母のことで諭してくれた言葉だけじゃ無くて、今までのメールのやりとりで、真奈美ちゃんとお兄ちゃんが二人の時間を取り戻そうとしている様子とか、静子さんや可奈さんに囲まれて真奈美ちゃんがどんどん明るくなっていく様子とか、そういうのを見てたら、今まで諦めていた家族との絆が、もしかしたら今からでも私にも持てるんじゃ無いかって、そう思うの。
ずっと、真奈美ちゃんやお兄ちゃんのこと、うらやましいと思ってたんだ。もちろん、二人に不幸なことがあったのは解ってるんだけど、それを家族や親戚が頭を抱えながら解決しようとしてきたでしょう。私は、何があっても、落ち込んでも、ずっと独りぼっちだったから、それがすごく羨ましかった。
男女の仲や、友情なんかももちろん大切だけど、家族の絆って、どんなに失敗したり間違えたり突き放したりしても、絶対断ち切れないみたいに見えて、他所の家族はみんなそうなのに、うちの家族はバラバラだったから、ずっと寂しくて不安で、私には頼るものが何もないって感じてた。
だから、本当に真奈美ちゃんには感謝してるよ。ボストンに行っても、多少の時差はあるけど、ずっとこんな風にお友達でいてもらえるかな?いつか、真奈美ちゃんとも直接会いたい。
どうぞ、これからもよろしくね!
あと、鉢の送り返し方なんだけど、送ってもらったときの梱包材を捨てちゃったから、申し訳無いんだけど、あの梱包用の箱だけ着払いでこっちに送ってもらえない?
たしか、もうすぐ静子さんと家に帰るって言ってたよね?その時で構わないから、お兄ちゃんにお願いして一箱もらって送ってください。
そう言えば、真奈美ちゃんは水やりとかの世話は初めてなんじゃ無い???結構しんどいよ~。
まぁ、静子さんはもう手慣れたもんなんだろうけど、私なんか最初筋肉痛でへとへとだったもん。
真奈美ちゃんは若いから平気かな(汗)
お兄ちゃんには、どうか気をつけて行ってきてくださいって伝えてね。
では、長くなったけど、この辺で。
またね!
杏子




