伯母の家
昼食を済ませた二人は、再び軽トラに乗り込んだ。参道を下り、終点であるバスの停留所があるT字路まで戻ったところで、駅の方角へ左手に伸びる県道ではなく、直進の旧道を行った。
数分も走れば、その旧道の左手に、宮部の伯母の家はあった。くすんだクリーム色の外壁に、グレーの瓦を載せた切妻屋根のその家は、両隣と背後を畑に囲まれていて、隣家は、数百メートル先に見える立派な日本家屋の農家と、道路を挟んで斜向かいの、こぢんまりとした平屋の二軒だけだった。
宮部の伯母の家も、また、古民家と言えるほど古くもなく、今風と言えるほど新しくもない、昭和を代表するような家であった。宮部の家とは異なり、こちらは平屋である分、敷地は広そうである。ブロック塀と鉄門扉で囲まれた家屋部分とは別に、隣接して砂利の駐車スペースもあった。
「古いでしょう。築43年と言っていたかな。伯母が三年程前まで娘と暮らしてたんだけど、娘が加古川の方へ嫁いで、今はあっちで同居してるんです。」
車を止めてから杏子にそう言うと、宮部は、杏子を促して車を降りた。
駐車場からいったん旧道に出て、一メートルほど先の門扉を潜ると、ガラスに金属製の格子が嵌まった引き戸の玄関に出た。宮部が鍵を開けて、二人は家の中へと入った。
低めの上がり框に飴色の廊下が続き、すぐ目の前の白い壁を右手に折れると、家の中心を貫く長い廊下が、真っ直ぐ突き当たりまで伸びている。廊下の左手には、和室が三つ、各々襖を隔てて横並びに繋がっている、目の字型の構造になっていた。廊下の右手には、手前から、台所、風呂、トイレの並びになっていた。廊下の突き当たりは、左手に折れて、三つの和室の外側に沿って、ぐるりと広縁を形成している。広縁の外、ガラスの引き戸の向こう側には、宮部の家にあったような濡れ縁が、裏庭に面して配置されていた。
3DKと表現すれば、それほど広い家という印象は受けないが、その実、十畳の和室が三つと、八畳の台所、一メートルほども幅のある広縁から成るこの家は、かつての住人のように、親子三人が暮らしても十分な広さであった。杏子一人であれば、尚更である。
家を隅々まで案内してもらった後、南向きの日当たりの良い広縁に座って、杏子は宮部に切り出した。
「とても気に入りました。どうか住まわせてください。」
深々と頭を下げる杏子に、もとよりそのつもりであった宮部は、快く承諾した。
「僕が伯母から預かっている鍵を、岡田さんにお渡しします。他には、伯母がもう一本持っているだけですので、安心して暮らしてください。大家は伯母ですが、そうそうこちらには来ないので、何か困ったことがあれば、僕まで連絡をください。」
そう言って、宮部は鍵を杏子に差し出し、杏子はそれを両手で受けとると、直ぐに鞄に仕舞った。代わりに取り出した書類と封筒を、今度は杏子が宮部に差し出した。
直ぐには受け取らず、宮部は、不思議そうな顔をして杏子を見た。
「これは?」
「一年分のお家賃と、私の身上に関する情報です。」
午後の暖かい陽が降り注ぐ広縁で、目を丸くした宮部と、固い表情の杏子が見つめ合った。




